さらに、これからはオンライン診療と対面を組み合わせた医院が増えていくだろう。ポイントは「時短」。自宅で受けられるオンライン診療では、来院時のような手持無沙汰な待ち時間がなくなる。「医院ではデジタルの活用で利便性を高め、クリニックの滞在時間を短縮化して感染リスクを減らしていく」と太田氏は言う。同院の取り組みから、どのように時短が進むのか見ていこう。

 まず、オンライン診療のプラットフォームには医療支援事業のメドレー(東京・港)の「CLINICS」を活用している。患者はCLINICSのスマホアプリを利用し、オンライン診療の対応医院を探して日時などを指定して予約できる。予約後は指定日時に担当医師とビデオチャットを通じて診療を受けられる。支払いはアプリに登録したクレジットカードから引き落とされる。

太田氏はデジタル活用でクリニックの滞在時間の短縮化の実現が重要だと語る
太田氏はデジタル活用でクリニックの滞在時間の短縮化の実現が重要だと語る

 オンライン診療では、患者の待ち時間のストレスを軽減するための工夫を施す。緊急を要する患者が来院するなど、状況次第では予約時刻にオンライン診察を始められない可能性がある。そこで事前にCLINICSのメッセージ機能を使って、予約時間から30分以内に呼び出すことを伝える。患者は呼び出されるまで、家事などをしながら待てる。診察の開始時にはアプリに通知が届くため、そのときにアプリの利用を始めればよい。こうして、予定時刻になっても診療が始まらずにパソコンやスマホの前で待ちぼうけをくらい、手持ち無沙汰になることを防いでいる。

診察前後の待ち時間の短縮に挑む

 オフラインの診療でもDX化によって待ち時間の短縮化が進むだろう。医院での待ち時間は診察前後に分けられる。まず、診察前の待ち時間を短縮化する取り組みだ。目黒みらい内科クリニックは近日中に、外来向けにオンライン上で事前に問診できるようにする。活用するのはAI(人工知能)開発のUbie(東京・中央)が提供する医療機関向け業務効率化サービス「AI問診Ubie」だ。

 AI問診Ubieは、450以上の推測可能な疾患の中から、患者の症状に合わせて自動的にAIが項目を自動生成して、問診する。問診結果は医師が読みやすい形式に変換される。これまで目黒みらい内科クリニックではこのAI問診をタブレット端末で院内で活用していたが、これをオンライン上でも展開する。患者は事前に自宅でパソコンやスマホから登録できるため、院内の滞在時間を減らせる。

 次に診察後の待ち時間の短縮だ。医療明細書の電子化はその手段の1つ。希望者には、CLINICS経由でアプリに医療明細書を送る。また、外来の支払いもCLINICSに登録したクレジットカードでできるようにする。患者は予約した時間に来院し、診察を受けたら処方箋を受け取るだけで帰宅できる。これにより診察後の滞在時間の削減につながる。こうして、オンライン診療とデジタル技術を取り入れた医院で、3密を避け、かつ時短化された利便性の高い医療サービスを提供していく。

統合したデータでより正確な診療を実現

 デジタル化の推進により、患者のデータが蓄積されれば、より正確な診療が可能になる。目黒みらい内科クリニックはデータ基盤として、クラウド型の電子カルテ「CLINICSカルテ」を活用する。導入費用はオンライン診療と併せて月額5万円だ。オンライン診療と連携しているため、オンライン診療の診察データも電子カルテに直接連携できる。オンライン診療では予約時にアプリ上で問診を実施するため、その問診データが事前に医師に共有され、電子カルテにひも付く。患者側もより正確に診断してもらいたいという意識が高いため、予約段階から自身の情報を積極的に提供してくれる。

目黒みらい内科クリニックは電子カルテを軸に、さまざまなデジタルサービスと接続してデータを連携する
目黒みらい内科クリニックは電子カルテを軸に、さまざまなデジタルサービスと接続してデータを連携する

 「オンラインを通じた問診票は詳細に書かれているだけでなく、症状に変化が見られた場合には随時更新してくれる。患者が情報を追加すると医院のシステムに通知が届くが、2回、3回と更新してくれる患者が多い」と太田氏は言う。デジタル上でつながっているから、外来時の問診だけでは分からない症状の変化もデータとして取得できる。また、血圧の測定データなどを患者が保有していれば、そういったデータもアプリのメッセージに添付して医院に提出できる。

目黒みらい内科クリニックはメドレー(東京・港)の電子カルテを活用する。画像はイメージ
目黒みらい内科クリニックはメドレー(東京・港)の電子カルテを活用する。画像はイメージ

 「それらのデータを前提に医療行為を始められる点はメリットが大きい」(太田氏)。データはすべて電子カルテに直接連携されているため、紙の問診票からシステムに入力する際の人的ミスを減らせる。実際に来院したときには、オンライン診療のデータを基にした診察がしやすい。

オンライン診療が抱える課題は

 利点ばかりのように思えるオンライン診療だが課題も残る。「直接診察できない点はなかなか越えにくい壁だ」と太田氏。だが、「次世代通信規格の5Gが普及し、オンライン診療の動画が高画質化することで、患者の表情や視線の読み取りをしやすくなる可能性がある」と続ける。5Gの普及はオンライン診療の精度向上につながるだろう。とはいえ、対面での診察と同レベルに達するにはまだ時間がかかりそうだ。

 そして、医療のデジタル化の最後のとりでが処方箋だ。オンライン診療で薬を処方する場合、患者が近隣の薬局で直接受け取る、自宅への郵送の2つの選択肢がある。近隣の薬局で受け取りたい場合、医院は紙の処方箋を患者の自宅に郵送する。一方、薬局から薬を郵送する場合、医院はまず患者が処方を希望する薬局にFAXで処方箋を送る。薬局の薬剤師が処方箋を確認後、事前に電話などで患者に処方する薬剤について服薬指導をする。その後、医院は処方箋の原本を薬局に郵送しなければならない。これはFAXで送った処方箋は現時点では正本として認められていないからだ。

 処方箋がデジタル化されれば、患者はアプリ上で受け取れるようになるため、外来時なら処方箋を受け取るまでの待ち時間が不要になる。そのデータをお薬手帳のアプリと連携すれば、処方された薬の履歴確認も容易になる。患者にとってもメリットは大きい。厚労省は16年に電子処方箋の普及に向けて「電子処方せんの運用ガイドライン」を策定した。だが、「薬局側は専用の機器類が必要になる。フローも複雑なため実際の導入にはつながっていない」と医療関係者は指摘する。

 また、別の医療関係者は「電子処方箋の作成に必要な電子署名の仕組みが医師、薬局ともに普及していない」と課題点を挙げる。厚労省は20年4月30日に電子処方箋の運用ガイドラインを一部改正したものの、実用には時間がかかりそうだ。

(写真/山田 愼二)