Beyondリテール 米国に見る流通革新

新型コロナウイルスの感染拡大という非常時における企業の取り組みを見ると、それぞれの企業が平常時に考えていることが“増幅”された形で理解できる。買い物代行の米インスタカート、そしてD2C(ダイレクト・トゥー・コンシューマー)企業の注目株である米マディソン・リードなどの取り組みから、新型コロナ後の競争戦略を探る。

新型コロナウイルスの感染拡大という危機に直面し、事業機会を失って痛手を負った企業もあれば、あまり影響を受けなかった企業もある。米インスタカートは、外出禁止や自粛の状況下で買い物代行やテークアウト需要を取り込み、利用数を大きく伸ばした(写真/Shutterstock)
新型コロナウイルスの感染拡大という危機に直面し、事業機会を失って痛手を負った企業もあれば、あまり影響を受けなかった企業もある。米インスタカートは、外出禁止や自粛の状況下で買い物代行やテークアウト需要を取り込み、利用数を大きく伸ばした(写真/Shutterstock)

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 今回の新型コロナ騒動に直面し、企業が何を考え、どう行動しようとしているのか。同じ時期に話を聞いても、その方向性はさまざまだ。例えば、「今期の利益を多少なりとも残すために、経費は9割削減を原則とせよ」という企業もあれば、「今期は、何があっても新型コロナのせいにできる。今期予想が未定でよいなんて千載一遇の好機だ。これを機会に構造改革を全部進める」という企業もあった。

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 なかには、「コロナ禍の中でもやっていることは以前と変わらない。それが加速しているだけだ」という会社もある。デジタル化が進んでいる企業やその支援を行っている企業などだ。人が集まることを良しとしない感染症対策と、ネットワークを通じたデータ流通を前提とするデジタル活用は、そもそも相性が良いため、施策の方向性が変わらないのであろう。

 象徴的なのは、米マイクロソフトのサティア・ナデラCEO(最高経営責任者)が発した「2年分のデジタル変革が2カ月で起きた」という言葉だ(1)。同社のコミュニケーションツール「Teams」の利用者は、2019年11月の2000万人から、20年4月末には7500万人へと急増した。もちろん、同社のような、「コロナ禍でも、これまでの施策は変わらず、加速するだけだ」という会社は、小売りにもある。

 例えば、インスタカートは利用数を大きく伸ばしている。インスタカートは買い物および配達の代行を、小売店に依存せずサードパーティーとして実施する会社だ。ウーバーイーツの「小売店におけるお買い物版」と考えればよいだろう。ウーバーイーツと同様にスマホアプリを介して、買い物代行を希望する顧客と配送スタッフをマッチングする。いわゆるオンデマンドエコノミーの老舗の1社だ。米国でも、生活必需品の購入は必要な外出とみなされていたが、外出を避けたい人が増えた結果、インスタカートの利用が増えた。3月初めには注文件数が通常の10倍に膨らみ、平均単価も向上した。

 4月に入るとスタッフ保護のため、注文1件当たり5ドルという危険手当を顧客に課金するようになったが、それでも迅速な配達ができくなるなるほど、利用の勢いは衰えなかった。消費者の習慣を変えることは容易ではないし、初めての経験をさせることは特に難易度が高い。しかし非常時を機に、「買い物代行を依頼した」という経験を一度でもさせれば、その一部は、新しい習慣として利用を継続していく。

 消費であれ業務であれ、新しい施策は、「いままでと違うことはしたくない」という慣性によって、その導入が阻害されやすい。しかし、これまでの習慣が「感染の恐れ、命の危険」というハンディを負った結果、新しい施策が受容される機会が増えた。これは「テレビ会議」や「買い物代行」も同じだ。

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