
米国の流通サービス企業のカスタマー・コミュニケーションがコロナ前後で大きく様変わりしている。顧客の心理を深く理解し、サービス施策などに反映することで顧客からの信頼とブランド力の向上につなげている。そうした成功事例を4つの軸に分けて見ていく。
米国の流通、サービス企業において、新型コロナウイルスの感染拡大を契機に大きく変化したものがある。その1つが、企業と顧客とのコミュニケーションのあり方だ。
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今後もしばらく続くwithコロナ、やがて来るアフターコロナ時代を見据えて、コロナ騒動の渦中で優れたカスタマー・コミュニケーションを実践した事例には多くの学びがある。
端的に言ってコロナ以前の米国では、よりダイレクトに商品やサービスを「売る」ことを目的としたマーケティングが主流だった。だがコロナを境にそれが一変した。顧客やファンの気持ちに寄り添い、企業と顧客との関係性を深化させるコミュニケーションへと、一気にシフトした。
マーケットコミュニケーション(マーコム)において欠かせない要素となっているデジタル活用についても同様だ。Eメールやプッシュ通知などで「今ならお得」などとダイレクトに購買を勧める施策は急激に減少。ソーシャルメディアを活用し企業のメッセージをダイレクトに伝えるコミュニケーションやコミュニティーづくりへと、フォーカスが変わっている。
米国で成功例として話題になったコロナ禍の中でのマーケティングキャンペーンには、自社のブランド価値を高めるよう、徹底して戦略的に設計している共通点があることにも注目していただきたい。
重要なのは、単発の広告として「何をやったか、何をコミュニケーションしたか」ではない。自社の強み、イメージ、サービスなどと連携させて、ときには「アンブレラ・コンセプト」(編集部注:個々の製品ブランドを訴求するのではなく、上位ブランドであるコーポレートブランドと製品ブランドをセットにして展開する戦略)を展開するなどして、ブランドに対する印象や好感度を高めようとしている。
アフターコロナを見据えたマーコム戦略は、具体的には以下の4つの考え方/方法を活用すべきだろう。
- (1)消費者の気持ちを理解し、気持ちに寄り添う
- (2)購買行動の変化をとらえ、求められている売り方を提供する
- (3)自社の既存サービスを活用し、特別でより高い価値を提供する
- (4)自社顧客の心に残る「恩返し」(GIVE BACK)を提供する
以下ではこの4つの考え方/方法に従って展開された施策の実例をみていく。
(1)消費者の気持ちに寄り添う
消費者の気持ちに寄り添うには、消費者がコロナでどんな影響を受け、何を感じたかを深く理解し、その上で何を伝えるかを考えることが必要になる。好例の1つが、今や世界各地に直営の店舗を持ち巨大な流通企業へと変貌しつつある米ナイキのキャンペーンだ。
コロナが世界で猛威を振るい始めた時期にナイキは、「NOW IS YOUR CHANCE」(今がチャンスだ)や「YOU CAN’T STOP US」(我々を止めることはできない)、「今、家で体を動かそう」など、統一感のあるメッセージを表現したタグラインやハッシュタグを軸としたキャンペーンを開始した。
これは消費者に対して「今できることは何か」を明確に意識してもらい、それを「行動」(例えば、家で体を動かすなど)に結びつけやすいメッセージにしたことが特徴だ。
他社でよく見られた「Stay inside」(家に居よう)といった自粛を“命令”するように感じるフレーズではなく、「Play inside」(家で遊ぼう)というポジティブでキャッチーなタグラインを使い、消費者の共感を呼び話題を集めることに成功した。
また、タグラインで“言いっぱなし”にするのではなく、それぞれのタグラインのメッセージを“実行”するための楽しいプログラムを打ち出したことも見逃せない。
例えば、消費者が自宅にいながらも、プロアスリートが出す課題を互いに競い合えるという「The livingroom cup」というプログラムがその1つだ。
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