
新型コロナウイルスで世界最大の被害国となっている米国だが、皮肉にもこの危機が、流通サービス企業の構造改革を加速している面がある。ではアフターコロナの時代の流通サービスが目指すべき事業モデルとはどのようなものか。米ウォルマートと米アマゾン・ドット・コムという先進2社が取り組む3つの施策から読み解く。
【第2回】 コロナを生き抜く流通 信頼とブランド力高める4つの視点
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多くの経済学者が参加している米シンクタンクの全米経済研究所(NBER)は2020年6月8日、「米国の景気は2月をピークにリセッション(景気後退)に入った」と発表した。言うまでもなく、新型コロナウイルスのパンデミック(感染の世界的大流行)がそこに大きな影を落としている。
同じ8日、米調査会社コアサイト・リサーチは、「20年における米国流通・サービス企業の店舗閉鎖が最大で2万5000店に上るだろう」との見通しを発表。20年初めに「最大で1万5000店」としていた店舗閉鎖の予測を大幅に修正した。
同社によると3年前(17年)の店舗閉鎖は8139店。18年は5864店とやや減ったものの、19年は9300店と急増し、米国史上最悪の状況となっていた。しかし今年(20年)は、その2倍以上になるかもしれない。まさに米国の流通サービス企業は、経験したことのない危機に直面。実際に大手から中堅どころまで、経営破綻する企業が相次いでいる。
例えば、米大手デパートメントストアの「JCペニー」。5月15日に米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用申請をして、18日には242店の閉鎖を発表した。1902年創業と100年以上の歴史を持つ名門企業だが、ロックダウン(都市封鎖)のあおりで全846店舗の3分の1を閉鎖。さらに2020年度内に192店、21年度も50店舗を閉鎖する計画を明らかにしている。
年末までに2万店以上が閉鎖か
高級ランジェリーブランド「ヴィクトリアズシークレット」を展開する米アパレル大手Lブランズの破綻も、大きなニュースになった。今後、ヴィクシーと姉妹ブランド「ピンク」の米国・カナダにある約250店舗を閉鎖するという。
このほか、東京などにも店舗があった米家具・インテリア販売「Pier 1 Imports」(ピア・ワン・インポーツ)や、大手デパートの装飾雑貨を安価に買えると人気だった「チューズデー・モーニング」など、コロナ禍で経営破綻した流通サービス企業は、枚挙にいとまがない。
先のコアサイト・リサーチの発表によれば6月8日までに発表された20年の流通・サービス企業の店舗閉鎖数は4005店。見方を変えれば、今年12月31日までの6カ月間に、さらに2万1000以上の店舗が閉鎖される可能性があるわけだ。
企業清算や廃業は今後も増え、失業者も記録的に増えてしまうだろう。実は米国の失業率は今年4月に、第2次世界大戦以降で最悪の14.7%を記録したが、5月は13.3%へと1.4ポイント、改善している。
だが、これはロックダウンによる休業が一部地域や業種で解除されたためであり、決して楽観できる状況にはない。20年後半に向けて雇用状況が悪化し、失業率の戦後最悪記録が、不幸にも更新されてしまう懸念は拭えない。
では米国の流通サービス企業は、この100年に1度の世界的な危機にどう対応し、会社のあり方を変革しようとしているのか。世界最大のスーパーマーケットである米ウォルマートと、世界最大のEC企業である米アマゾン・ドット・コムという先進2社の取り組みから「コロナ後の一手」を読み解いてみよう。
日本にいるとウォルマートの先進性がいまひとつ実感しにくいかもしれない。だがウォルマートがAI(人工知能)やさまざまなデジタル・テクノロジーの導入・活用に極めて積極的なのは事実だ。
AIやEC関連のテクノロジー人材を積極的に採用し、投資もしている。同社がリテール・テクノロジーの分野で世界トップクラスなのは紛れもない。
そんなウォルマートがアフターコロナを見据えて注力している施策の1つ目がロボットの活用だ。
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