
特集第4回のテーマは「ファン醸成」だ。従来、SNSや企業コミュニティーサイトが担ってきた顧客と企業をつなぐ役割がWeb会議システム「Zoom」に広がりつつある。外出自粛の影響で店舗やイベントへの集客がしづらい中、Zoomを活用してコース料理が自宅で楽しめる「Zoom焼肉」や、ビール大手が顧客とつくるビールの発表会などに活用している。
新型コロナウイルスの感染が拡大する中、急成長したサービスと言えば米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズのオンライン会議システム「Zoom」だ。従来は企業向けの会議システムにすぎなかったが、「Zoom飲み」という言葉が生まれるなど、一般消費者にも浸透した。ファンミーティングやオンライン接客など、企業にとってもZoomは顧客コミュニケーションの手段として広がりつつある。果たしてZoomは新たなマーケティングプラットフォームとして定着するのか。先行企業の事例から、その潜在力を探る。
【第2回】Zoomは魔法じゃない マーケ活用には客同士の交流促進がカギ
【第3回】Zoomと組み合わせて使うべきツールは 楽天大学・仲山学長が語る
【第4回】焼肉コースをZoomで再現 参加者の5割がリピート購入する訴求力←今回はココ
【第5回】「あと一押し」に効く驚きのZoom接客 メールやLINEに勝る点は?
【第6回】Zoomマーケが抱える4つの弱点 ツール連携で見込み客育成も
【第7回】招待制カレー店が踏み切ったオンライン化 「Zoom卒業」の理由
【第8回】プリンスホテル内でファンがつながるZoom観戦 自宅にない連帯感
時計の針が19時に差し掛かろうとする頃、Zoomに開かれた“会場”に参加者が集まり始めた。東京都内を中心に店舗を展開する人気焼肉店「にくがとう」が主催する晩さん会だ。さしずめオンライン焼肉店と言ったところだろうか。全部で5人の参加者が集まると、司会者であるにくがとうのオーナー三浦剛氏が参加者に自己紹介を促し始める。参加者全員の自己紹介が終わったところで、ようやく乾杯だ。参加者は三浦氏の説明に従って、肉を焼き始めた――。
にくがとうはコースが売り物の焼肉店だ。赤身にこだわり、うなぎやウニなどを合わせた創作肉料理など、赤身を生かした割烹(かっぽう)仕立てのコースで楽しめることがSNSで話題になり人気を集めた。そのにくがとうも新型コロナの影響を被った。緊急事態宣言の発令後、団体客のキャンセルが相次ぎ、全店の営業停止を決めた。営業停止期間の新たな稼ぎ口は3つ。テークアウト、デリバリー、そして通販だ。にくがとうは新型コロナをきっかけに2020年4月、ECサイト「にくがとどけ」を開設して、肉の通販に乗り出した。
ただし、単に肉をネットで売るだけでなく体験を提供することにこだわった。にくがとうは割烹式のコース料理で人気を集めた店舗だ。顧客が届いた商品を焼いて食べるだけでは、本来店舗で味わえる体験価値には遠く及ばない。「我々は飲食店というよりも、体験で喜んでもらうことを重視してきた。来店できない人たちに対して、どうすれば喜ばせられるのか」(三浦氏)。その解を追い求める中でZoomに目を付けた。自社でも店舗が休業になり、スタッフとのオンライン会議にZoomを活用していた。これを応用すれば、自宅にいる顧客ににくがとうの体験価値を提供し、継続的な関係を構築できるのではないかと考えた。
Zoomは複数の参加者が顔を映しても、ネット環境に合わせて画質などを変化させながら、負荷を減らして動画の配信を停止させない技術を強みにしている。オンライン飲み会のプラットフォームとしてZoomの利用が広がったのは、その強みが生きる利用法だったからだ。にくがとうの活用法は図らずも、「Zoom飲み」と同様にプラットフォームとしての強みを生かした取り組みだと言えよう。
にくがとうがまず始めたのは、「赤身タレ焼肉セット」など特定部位の単品商品の販売と、その購入者を集めたZoom焼肉だ。参加するには、にくがとうのECサイトでメールアドレスを登録後に商品を購入する。商品購入者にはZoom食事会の日程と時間のスケジュールがメールで届くので、参加したい日時を選んで参加できる。Zoom焼肉の配信時間は約2時間半だ。
このコンテンツ・機能は有料会員限定です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー