スズキが2021年9月に発売した、スライドドア搭載の軽ハイトワゴン「ワゴンRスマイル」が好調だ。受注台数は月平均で目標の月販5000台を上回っており、ワゴンRシリーズ全体の販売台数伸長に大きく貢献している。一方で、ワゴンRスマイルは、デザインやサイズがワゴンRとはあまり近くない。それなのになぜ「ワゴンR」を名乗り、ヒットしたのだろうか。スズキに開発の狙いを聞いた。

21年9月に発売された「ワゴンRスマイル」。写真は「HYBRID X」
21年9月に発売された「ワゴンRスマイル」。写真は「HYBRID X」

 軽ハイトワゴンのパイオニアであるスズキの「ワゴンR」シリーズに、スライドドア付き軽ハイトワゴン「ワゴンRスマイル」(129万6900~171万6000円・税込み、以下同)が追加された。2021年8月の投入前、ワゴンRシリーズの21年販売台数は10位前後を推移していたが、発売直後の9月にいきなり3位に急上昇。10月には月間1位を記録し、以降はトップ5以内を維持している。ワゴンRを再び人気車にした「ワゴンRスマイル」とは一体どんなクルマであり、好評の理由はどこにあるのか。スズキで開発を指揮した、チーフエンジニアの高橋正志氏に話を聞いた。

 昨今の軽自動車市場は、スズキ「スペーシア」、ダイハツ「タント」、ホンダ「N-BOX」など、「軽スーパーハイトワゴン」と呼ばれる、全高1700ミリメートル以上の背の高い軽乗用車が主力だ。これは軽自動車がファミリーカーとして使われるようになった背景がある。その武器となっているのが、背の高さによる乗降性の良さと積載性の高さ、そして、後席スライドドアの利便性だ。ミニバンでおなじみのスライドドアは、狭い場所でも開閉でき、開口部が広いので後席に乗り込みやすい。

スズキ「スペーシア HYBRID X」。写真は21年12月発売モデル。全高は1785ミリメートルで、ワゴンRスマイルより90ミリメートル高い
スズキ「スペーシア HYBRID X」。写真は21年12月発売モデル。全高は1785ミリメートルで、ワゴンRスマイルより90ミリメートル高い

 新型車のワゴンRスマイルは、軽スーパーハイトワゴンより低い全高1695ミリメートルの「軽ハイトワゴン」サイズのボディーにスライドドアの利便性を加えたクルマだ。CMや公式ウェブサイトでも、「ワゴンRにスライドドアついた!」のキャッチコピーが強調されており、クルマの役割はすんなり理解できる。しかし、実際にワゴンRと見比べてみると、デザインやキャラクターは全く異なる。あえてワゴンRを名乗るのはなぜか。その理由を高橋氏は「ワゴンRのサイズ感やワゴンRの利便性を備えた新型車であることをアピールするため」と説明する。スズキの調査では、ワゴンR購入者と軽乗用車検討者に、「乗り換えるとすればどのようなクルマがよいか」という趣旨のアンケートをそれぞれ実施したところ、いずれも約4割が「スライドドアが付いたワゴンRクラスのクルマ」と答えたという。つまり、ワゴンRサイズのスライドドア車を出せばヒットすることは、事前の調査である程度分かっていたと言える。

ワゴンRスマイルのCMイメージ
ワゴンRスマイルのCMイメージ
軽ハイトワゴンのスズキ「ワゴンR HYBRID FZ」は全高1650ミリメートル。ヘッドライトの形状など基本デザインはワゴンRスマイルと異なる。写真は19年12月発売モデル
軽ハイトワゴンのスズキ「ワゴンR HYBRID FZ」は全高1650ミリメートル。ヘッドライトの形状など基本デザインはワゴンRスマイルと異なる。写真は19年12月発売モデル

 ミニバンのようなスライドドアが軽ハイトワゴンでも求められるようになったのは、今の自動車の購買層の多くが、ミニバンで育った世代であることが影響している。若者は、自宅にミニバンがあり、その親である中年以上の世代は、自身が子育てのためにミニバンを選んできた。そのため、スライドドアの利便性をよく知っており、箱型のクルマに抵抗がない。だからこそ、ミニバン的でないクルマにも「スライドドアがあれば」と考えるのだろう。完成されたと思われていた軽乗用車市場だが、スライドドアというアイテムをうまく活用することで、新たな価値が創造できた。制約の多い軽乗用車にも、まだ多くの可能性があることを証明したと言えそうだ。

 スライドドア付きの軽乗用車には、既に軽スーパーハイトワゴンという選択があった。スズキも、商用車ベースの軽ワゴン「エブリイワゴン」と軽スーパーハイトワゴン「スペーシア」では既にスライドドアを搭載していた。しかし、先ほどのアンケートで4割が「スライドドアが付いたワゴンRクラスのクルマ」を求めていたということは、軽スーパーハイトワゴンに納得していない層も一部にあったことを示す。高橋氏は、「(軽スーパーハイトワゴンの)ファミリーカー色を敬遠する声はあった。特に女性からは、背の高さによる圧迫感や『運転しにくそうと感じる』などの意見もあった」と話す。実は、ワゴンRシリーズとスペーシアの最小回転半径は同じ4.4メートルなので、取り回しなど運転しやすさの差はほとんどない。しかし、デザインや形状が与えるイメージはずっと大きかったのだ。

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