全国に52の拠点を構え、年商15億円を上げる「久遠チョコレート」。有名ショコラティエのブースが連なる全国の百貨店の催事でも、近年引っ張りだこの人気ぶりだ。各拠点で働くスタッフのうち、約7割は障害者。彼ら・彼女らが手作りする高品質なチョコレートを、しゃれた店舗で販売する異色のショコラトリーが目指すのは、障害者の労働の価値と賃金の向上だ。

人気商品の「QUONテリーヌ」。ドライフルーツやナッツなどを交ぜたチョコレートはカラフルで写真映えもする
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 近年、口コミで人気を高めている「久遠チョコレート」。愛知県豊橋市に本店を持ち、北海道から九州まで全国各地に、工房付き店舗や製造所を展開する。運営母体はラ・バルカグループという一般社団法人で、各拠点で働く約550人のスタッフのうち、約350人は障害者なのが特徴だ。

 創業者の夏目浩次氏は元建築設計コンサルタント。駅のバリアフリー計画に携わったことを機に福祉に関心を抱いた。

久遠チョコレート本店(左)とラ・バルカグループ代表の夏目浩次氏(右)
久遠チョコレート本店(左)とラ・バルカグループ代表の夏目浩次氏(右)
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 一般企業での就労が困難な障害者は、「就労継続支援B型事業所」と呼ばれる福祉作業所で働くケースが多い。このB型事業所では障害者は自分のペースで働ける一方、法が定める最低賃金は適用されず、平均工賃は月額1万5000円程度。それを知って憤りを感じた夏目氏は、「月給1万5000円の壁」を打破すべく、障害者が稼ぎ、自立できる場を作ろうと決意した。

 27歳で会社を辞め、「パンの知識も商売の実績も全く無いまま」(夏目氏。以下、発言者の記載が無いコメントは同氏)に知的障害のあるスタッフ3人を雇い、地元の豊橋市にベーカリーを開業。借金を重ねつつ、最低賃金を保証して雇用を守り続けた。

 その後も、障害を持つ子の働く場所を求める親たちの要望に応じ、印刷、配送、カフェ、クリーニングなどの事業を展開。「ただ、事業を継続させるために顧客満足度を高めようとすると、業務の効率化が必要となって仕事についてこられない人が出てしまう。ジレンマを抱え、悶々(もんもん)としていました」

 働き手を誰一人排除せず、顧客満足度を上げられる方法はないか。答えをもたらしたのが、異業種交流会で偶然出会った野口和男氏だった。製菓機械の職人から、40代でショコラティエに転身。原料調達から製造加工、商品開発にまで至るノウハウを駆使し、星付きレストランや名門菓子店向けに高級チョコレートを企画・製造する人物だ。

 「その野口さんが、『フランスやベルギーに留学したり、有名店で修業したりしなくても、正しい素材を正しく使えばおいしいチョコレートは誰にでも作れる』と言うんです。半信半疑で東京の彼のラボに行くと、本当に隣にある日本語学校の留学生たちがチョコレートを作っていた(笑)。さっそく私も研修させてもらうことにしました」

 パンは製造工程が複雑で、やけどの危険も伴う。また賞味期限が短く、売れ残りが出やすい。対してチョコレートの製造は、原料を低温で溶かし、型に流して固める安全な作業の繰り返し。しかも、チョコレートを溶かして固める「結晶化」は、数回ならやり直しがきき、味も落ちない。賞味期限が長くてロスが出にくいうえ、ギフト需要から値段を高めに設定できる利点もある。

 「作る過程で誰も排除しないチョコレートは、障害者に寄り添い、社会を変え得る食材だと確信しました」。誰も取り残さないというこの理念は、近年社会的に機運が高まるSDGs(持続可能な開発目標)に通じるものだ。

半年で大手百貨店の催事に出店 フランチャイズもスタート

 2014年、豊橋市内に小さな工房を構え、数人の障害者を雇用してチョコレート製造を開始。野口氏から、「大半のショコラトリーが主力商品とするバレンタインなど『特別な日』のための生チョコやボンボンではなく、毎日気軽につまめるチョコレートを主体にして独自性を出すといい」と助言され、コンセプトを「デイリー&カジュアル」に設定。チョコレート生地に様々なドライフルーツやナッツなどを交ぜ、固めてスライスした種類豊富な「QUONテリーヌ」(店頭販売価格・1枚248円から。税込み。記事冒頭に写真あり)を看板商品とすることにした。

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