ホンダの多目的スポーツ車(SUV)「ヴェゼル」の新モデルが発売から約1カ月で約3万2000台を受注し、一部のグレードは約1年待ちとなっている。前モデルも好評だったがそこに安住せず、デザインの大幅な変更や斬新なテレビCMなど、新しい施策を次々と打った。そのモデルチェンジの戦略をホンダに聞いた。
ミニバンやセダンに代わる新たな乗用車の主力として、各社の多目的スポーツ車(SUV)が台頭している。その中で、2021年上半期一番の注目株は、21年4月にフルモデルチェンジしたホンダの「ヴェゼル」だ。発売1カ月後の受注台数は、なんと3万2000台を突破。これは月販計画5000台の6倍を超える。コロナ禍の状況を鑑みれば、その数字はより重みを増す。
そもそもヴェゼルは、13年発売の初代モデルの国内累計販売台数が約45万台以上で、世界の累計販売台数も384万台に上るという大人気車。既にホンダを代表するクルマの一つになったと言える。となれば、モデルチェンジでも従来モデルからのコンセプト継承をアピールするのがよさそうに思う。しかし、新型ヴェゼルに初代の面影はあまり感じられず、大胆な変化を遂げたように見える。それでいて好調なスタートを切れたのはなぜだろうか。
まず、新旧ヴェゼルの違いを簡単に把握しておこう。初代ヴェゼルが発売された13年は、SUVブームの兆しこそ感じられたものの、日産「エクストレイル」やホンダ「CR-V」のようなミドルサイズが中心で、コンパクトSUVは少なかった。その中でヴェゼルは、未来を見据えた小さめのSUVとして送り出された。
その特徴は、一見するとスマートな2ドア車のように見えるクーペライクなデザイン。一方で、格好良さだけでなく、SUVの力強さやミニバンの使いやすさを備えるなど、機能的には様々なタイプのクルマから良いとこ取りをしていた。コンパクトなサイズで現実的な価格(13年モデルは税込み187万円~、18年のマイナーチェンジで税込み207万5000円~)という武器もあり、19年までSUV販売台数では常に1位、2位を争っていた。
新型ヴェゼルは、227万9200~329万8900円(税込み)であり、中心価格帯は従来型とほぼ同等と言える。コンパクトSUVであり、クーペライクなデザインは受け継いでいるものの、デザインはかなり変わって見える。まず外観は、スクエアで長く見える鼻先と車室(キャビン)の大きなガラスエリアによって、低重心を強調したデザインになった。ボディーや屋根(ルーフ)は、前から後ろに真っすぐラインを引いたような直線的なデザインで、伸びやかさを表現している。前面は、フロントグリル(正面開口部を覆う網状の部品)が大型化して以前よりも強調され、SUVらしい力強いデザインになった。
これが、ヘッドライトとフロントグリルが一体的にデザインされていて、ボディー形状も塊(かたまり)感の強かった従来モデルとの大きなイメージの違いにつながっている。内装でも、広いガラスエリアがもたらす開放感と共に、水平方向の線が強調された、装飾の少ないシンプルなダッシュボードが目を引く。これを初めて見たときは「こんなに変えてしまって大丈夫なのか」と筆者は思った。
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