2020年10月にモデルチェンジをしたSUBARU(スバル)のワゴン車「レヴォーグ」が好調だ。月販計画台数2200台に対して、21年3月末までに累計2万2000台を販売している。最新の運転支援システム「アイサイトX」がよく注目されるが、売れる理由はそれだけなのか。スバルに刷新の狙いを聞いた。

好調な販売を続ける「レヴォーグ」。SUBARUの次世代運転支援システム「アイサイトX」を搭載する
好調な販売を続ける「レヴォーグ」。SUBARUの次世代運転支援システム「アイサイトX」を搭載する
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 スポーツワゴンやステーションワゴンといえば、かつて一世を風靡した人気車種だった。しかし近年は、多目的スポーツ車(SUV)などの人気に押されてほとんどのモデルが消滅している。そんな中にありながら、今や唯一無二の存在として気を吐いているのがSUBARU(スバル)の「レヴォーグ」だ。

 2020年10月15日に発表された新型レヴォーグは、初年度の月販計画台数が2200台に対して、先行受注だけで8290台を記録。21年3月末までの累計販売台数も約2万2000台と好調を維持し、スバルで最も売れるクルマとなっている。しかも、レヴォーグは同社では旗艦モデル。価格帯も310万2000~409万2000円(税込み)と高めではある。それでもバンバン売れてしまう秘密はどこにあるのだろうか。

 そもそも日本のスポーツワゴンブームの火付け役となったのは、同社が1989年に発売した初代「レガシィ ツーリングワゴン」だ。ビジネスユースのイメージが強かったステーションワゴンを、セダンの走りの良さとワゴンの機能性を両立した新しい価値のクルマとして提案。そのモデルの中に、高性能エンジン搭載車を設定したことで、スポーツワゴンとしての地位を確立した。

89年発売の初代レガシィ ツーリングワゴン
89年発売の初代レガシィ ツーリングワゴン
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 90年前後は、RV(レクリエーショナル・ビークル)ブームの影響で、多目的に使えるワゴン車のようなクルマのニーズが高かった。その中でレガシィ ツーリングワゴンは走りの良さで、多くのクルマ好きからも支持された。

適度なサイズ感で人気得た初代レヴォーグを全面アップデート

 このスポーツワゴンの流れを受け継ぐのが、2014年に発売されたレヴォーグだ。当時のレガシィは、主戦場となる米国のニーズを受けてサイズが大型化していた。初代レヴォーグは、従来サイズのレガシィを好むオーナーの受け皿として投入されたのだ。この狙いは見事当たり、当時のレヴォーグも14年6~11月の約6カ月で2万8092台を販売する人気車種となった。

 しかし、登場から6年以上が経過して他のスバル車が進化したこともあり、旗艦モデルのポジションを維持すべく、全面的なアップデートを図る必要性が出てきた。

「アイサイトX」の装着率は驚異の93%

 スバルでレヴォーグの開発責任者を務める五島賢氏は、モデルチェンジに当たって「先進安全、スポーティー、ワゴン価値、の3つの価値を柱に、従来型を大きく超える超革新のレヴォーグを目指した」という。そのために、新開発のエンジンと国内初となる新プラットホーム、次世代の運転支援システムなど多くの新技術を積極的に投入した。そこまで開発にコストをかけるのは珍しいが、これはレヴォーグが、スバルの国内での旗艦モデルに位置付けられているからだ。

 五島氏は、レヴォーグの好調さには先進安全機能が大きく寄与しているという。そのコア技術が、スバルの運転支援機能である「アイサイト」。人間の目と同じように2つのカメラ(ステレオカメラ)で道路や障害物を識別するシステムとなっているのが特徴だ。新型レヴォーグでは、アイサイトのカメラをより広角タイプにするなど基本性能を磨き上げるだけでなく、高速道路や自動車専用道路での高度運転支援機能を実現した「アイサイトX」を新たに採用した。これにより、高速道路で時速50キロメートル以下の渋滞時には、ハンズオフ(手放し)の運転もできるようになった。

「アイサイト」用の新型ステレオカメラ。視野角を従来の2倍にし、画像認識ソフトと制御ソフトの性能も向上させている
「アイサイト」用の新型ステレオカメラ。視野角を従来の2倍にし、画像認識ソフトと制御ソフトの性能も向上させている
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 アイサイトXは高速道路をほとんど使わない人には必要ないため、スバルでは進化させた標準タイプのアイサイト搭載車も残していた。しかし蓋を開けてみると、全体の93%が38万5000円も高価なアイサイトX搭載車を選んでいた。安全性と疲れにくさ、高度運転支援機能による新しさが、顧客の心を捉えたのは間違いない。その安全性の高さが評価され、新型レヴォーグは従来よりも年齢が高い人にも選んでもらえており、そこは新たに開拓できたニーズだという。

 好調のもう1つの要因は、レヴォーグ伝統のスポーティーさがありつつ、快適性や乗り心地を改善したことにある。新型レヴォーグでは、新世代スバル車に採用する新プラットホームの「SGP(スバルグローバルプラットホーム)」によって全面刷新を図りつつ、「フルインナーフレーム構造」を組み合わせることで、よりボディー剛性も高めた。フルインナーフレーム構造とは、ボディー全体の骨格部材を接合させてから外板パネルを溶接する工法のことで、ねじり剛性が大幅に向上し、走行時の安定性がアップする。

フルインナーフレーム構造の仕組み
フルインナーフレーム構造の仕組み
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 走行性能が評価されていることは、最上位グレード「STIスポーツ」が受注の5割を超えていることからも分かる。グレード名にも使われるSTI(スバルテクニカインターナショナル)は、スバルのモータースポーツ部門で、市販車向けの高性能パーツ開発なども手掛けており、まさに高性能スバルの象徴だ。新型レヴォーグが、スバルファンだけでなくクルマ好きの心をがっちりとつかんでいることを感じる。

「STIスポーツ」グレードは専用サスペンションによってスポーティーな走りが強調されている。専用内外装による質感の向上も図られている
「STIスポーツ」グレードは専用サスペンションによってスポーティーな走りが強調されている。専用内外装による質感の向上も図られている
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STIスポーツは、走りの特性を5つのモードから選んでワンタッチで切り替えられる「ドライブモードセレクト」機能を備える
STIスポーツは、走りの特性を5つのモードから選んでワンタッチで切り替えられる「ドライブモードセレクト」機能を備える
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駐車場事情の考慮など日本専用の仕様が奏功

 もう1つ、レヴォーグの好調の要因として見過ごせないのが、日本専用車として開発されたことによる使いやすさだ。新型レヴォーグは、旗艦モデルでありながら全幅を1795ミリメートルにとどめており、エントリーSUVの「SUBARU XV」(全幅1800ミリメートル)よりも車幅が小さい。これは日本の駐車場事情を考慮してのこと。五島氏も、「世界戦略車なら大型化は必至だが、それでは日本市場では検討候補から外れてしまう。そのため、車幅を抑えることは必須であった」と強調する。こうした、日本の利用者を想定した細かな配慮がなされている大型車は意外に少ない。

レヴォーグのインストルメントパネル。中央に11.6型の大型モニターを備える
レヴォーグのインストルメントパネル。中央に11.6型の大型モニターを備える
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 同社では、レヴォーグのターゲットを、45~55歳の「子離れ一段落」層だと想定していた。それまでミニバンのようなファミリーカーを愛用していた人が、子供が育ったことで、もう少し趣味性が高く、走りも良くてロングドライブも楽しめるクルマが欲しくなる。そんな市場を狙っている。このため、「最大の競合は他社モデルではなく、購入者の奥様だ」と、五島氏は冗談めかして話す。このとき、扱いやすいサイズが大きな説得材料になるのも事実だろう。

CMでは、MISIAがNHK紅白歌合戦でも歌った「アイノカタチ」が使われた
CMでは、MISIAがNHK紅白歌合戦でも歌った「アイノカタチ」が使われた
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流行を追わない独自の立ち位置で成功

 個人的には、レヴォーグが最近流行のSUVの影響を受けていないのも興味深い。あえてスポーツワゴンに徹するのは、スバルの顧客の幅を広げるのが狙いだろう。スバルには、SUBARU XVの他、「フォレスター」「レガシィ アウトバック」などのSUVがある。もし旗艦モデルのレヴォーグもSUVライクにしてしまうと、スバル内でカニバる可能性が高い。それよりも明確な差別化で、目標の月販2200台を維持した方が、ビジネス面でもスバルブランドの向上という効果が見込めるという。「レヴォーグは、既にワゴンの一種というよりも『レヴォーグ』というカテゴリーとして捉えられているのでは」と、五島氏は指摘する。

 ニッチな市場を狙ったスポーツワゴンをつくり続けて、着実に安定して売れる人気車を目指す。その分かりやすさこそ、レヴォーグの最大の強みなのだ。この姿勢は、今のスバルのクルマづくりをよく表している。自社の強みを生かし、スバルを選んでくれる人に刺さるクルマをしっかりとつくる。トヨタ自動車と共同開発による「SUBARU BRZ」のフルモデルチェンジの予定を21年4⽉に発表したように、厳しい境遇に置かれているスポーツカーを出し続けるのも、スバルらしい生き残り術の1つといえるだろう。

 この狙いは成功しており、今やSUVとスポーツカーがスバルの2本柱へと成長。それが、スバル⽀持層の広がりにつながっていることを感じる。昨今は、ユーザーの商品選びの目が厳しくなった。そんな時代に、一見不器用にも映るスバルの真面目さが、消費者の心を引きつけるのだろう。

トヨタ自動車と共同開発された「SUBARU BRZ」。国内では21年夏に発売予定
トヨタ自動車と共同開発された「SUBARU BRZ」。国内では21年夏に発売予定
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(写真提供/SUBARU)