誰もが予想しない形で話題をさらうゲームソフトが誕生した。和風アクションRPG「天穂のサクナヒメ」だ。2020年11月に発売されると、たちまち世界50万本の販売を達成するヒット作になった。米を育てる“謎のゲーム”がヒットした理由に迫った。
米を育てることでゲームを攻略する異色のアクションRPG「天穂(てんすい)のサクナヒメ」。まずは舞台設定から説明する。主人公は豊穣神サクナヒメ。しかし、神界に迷い込んだ人間たちによって主神への献上物である米の備蓄を台無しにされ、その失態の罰として、鬼が支配するヒノエ島の調査を命じられる。サクナヒメは、人間たちと共に自給自足の生活を送りながら、鬼退治をすることになる。
注目ポイントは、主人公が豊穣神であること。一般的なRPGは、バトルをこなすことで主人公が強くなっていくが、サクナヒメは良質の米を育てるたびに強くなるという驚きのゲームシステムなのだ。集めた食材によって献立を作り、それらの食事をとることで様々な付加効果も得られる。天穂のサクナヒメで主人公を強くするためには、とにかく「食」が大事なのだ。
このスタンスは細部まで徹底している。天穂のサクナヒメは、一般的なRPGのようなバトル後の派手な演出はないが、秋に米を収穫したときには華々しいメッセージが表示される。また平和な土地が増えて田んぼの面積が広がるとき、その喜びを示すムービーが流れるといった格好。そこで流れる音楽は、素朴な田植え歌だ。
この独特の演出に当初は面食らう者もいただろうが、次第にゲーマーたちは本気で米作りに夢中になり、そのパートが抜群に面白いことに気付いていった。種もみ選別、田起こし、田植え、稲刈り、脱穀などなど、そこでは1年を通しての稲作の工程が完全に再現され、世の中にある多くの攻略サイトですらお手上げの状態になるほどの完成度になっていたからだ。
例えば、田植えのときには苗を一本ずつ植えていくのだが、植える苗の間隔が違うだけでコメの品質に影響するといった徹底ぶり。水深や水の温度も重要で、気候や天気に合わせて水門を開閉して管理しなければならないし、稲の病気や害虫にも気を配らなければならず、そのために堆肥を調整する必要もある。余談だが、ゲームの中で人糞(じんぷん)の「汲み取り」というコマンドがあるのは、おそらくこのゲームが史上初だろう。
こうして米作りに夢中になると、いずれ「量」のみならず、「味」「硬さ」「粘り」「香り」そして「美しさ」まで、どのような米に育てたいかを細かく調整できることにも気付いていく。それらの要素は、豊穣神サクナヒメの個別のパラメーターに影響していくため、ゲーム攻略のためにも、誰もが自然と稲作の奥深さにどっぷりとハマってしまうのだ。
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