発売から1年余りを経過したサントリースピリッツの蒸留酒ジン「翠(SUI)」が、“快走”を続けている。2020年3月に「家でも外でも居酒屋メシなら何でも合う」「ソーダ割りにすれば毎日でも飲みたくなる」といった触れ込みで市場に投入すると、世代や性別を問わずスピリッツに縁がなかった層も含めて興味喚起することに成功。リピート買いも誘発し、年末までに当初計画の3倍となる9.5万ケース(8.4リットル換算)を販売した。
2020年に登場し、2000円以下の国産ジンとしていきなり7割強のシェアを握り、トップブランドに躍り出たサントリースピリッツの蒸留酒ジン「翠(SUI)」。ジン市場は長年、「ボンベイ サファイア」「ゴードン」「タンカレー」「ビーフィーター」といった著名海外ブランドが席巻していたが、翠がけん引役となり、20年12月に国産ジン製品の売り上げ規模が輸入製品を上回る現象も起こした。
ジンで、角ハイボールブームを再現させる
酒類全体でたった1%規模でしか国内で飲まれていないジン。なぜ翠はヒットしたのか。それはサントリーが自身で08年に仕掛けた角ハイボールブームを、今度はジンを使って再現しようと試みたことが奏功したためだ。
「おじさんが氷の入ったグラスを傾ける」という昔のウイスキーのイメージを一変させるためにひねり出したのが、低価格な「角瓶」をソーダで割ってカジュアルにウイスキーを楽しもうという角ハイボールのアイデア。言うまでもなくこの作戦は当たり、ハイボールは今ではすっかり市民権を得た。同じようにジンでも、炭酸で割った「ジンソーダ」を自宅や料飲店で訴求しようと考えた。
実はサントリーのジンづくりの歴史は古い。1936年には前身の寿屋が初の製品「HERMES GIN」を世に送り出している。37年発売の「角瓶」より1年早いことはあまり知られていない。現在発売中のプレミアムジン「ROKU」(実勢価格・税込み4400円)は、その流れをくんだもので、6種の和素材を使うなどで著名ブランドと差異化を図っている。ジンは、香り付けのためのボタニカル(植物の種や根、皮などの素材)としてジュニパーベリー(セイヨウネズ)の実を使うことを除けば、素材選びから製法まで自由度が高い。そこでサントリーはオリジナリティーを追求。独特の味わいは海外ファンの間でも評判を呼び、輸出も好調だ。
翠は、1500円程度と買い求めやすい価格帯を狙いつつも、ROKUで培ったノウハウを投入して「この味でこの価格?」といった驚きの味を追求したという。「日本人の舌に合う味へと作り込み、毎日でも楽しみたくなるお酒を目指した」。翠のプロジェクトリーダーであるRTD・LS事業部事業開発部の佐藤純氏は、開発に着手したきっかけをこう話す。
ジンの製造工程は、だいたい次のような流れで進む。(1)穀物や果物に酵母を加えて発酵させ、これを蒸留してベースとなるスピリッツをつくる。(2)ベーススピリッツにボタニカルを投入して再蒸留する。サントリーならではのこだわりの一つは素材選びである。「ユズ」「緑茶」「ショウガ」といった和素材を採用した。
「日本人は食中にお酒を飲むことが多い。そこで焼き鳥や唐揚げ、ポテトサラダなどといった定番の居酒屋のおかずを用意し、和素材を片っ端から試験蒸留して試した」(佐藤氏)という。工夫したのは、単体で飲むことよりも、炭酸水で割った「ジンソーダ」で飲んだときに最も日本人好みとなる相性の良い組み合わせを探し求めた点。ハイボールブームの再現を狙うため、開発中にはお酒単体のおいしさだけでなく、食事とのペアリングを重視して追い込んだという。
最終的に選定した3素材は、それぞれに役割を持たせている。まず苦みのあるユズは、最初に一口飲んだときにソーダ割りならではの爽やかな香りで食欲をそそるのが役割。次に食事を口に運び始めると、自身のうま味で食事とのうま味を調和してくれる緑茶の出番。食事の終盤で役割を担うのがショウガで、辛みによって口の中をすっきりさせる演出をする。
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