コロナ感染対策として3密(密集、密接、密閉)を防止する観点から、「自宅の換気を良くしたい」と考える人が増えている。その消費者心理をうまく突いて、売れ行きを伸ばした家電製品がある。ダイキン工業の家庭用ルームエアコン「うるるとさらら」シリーズだ。特徴は、他社にはない独自の換気機能を搭載していること。加えて、室内の湿度も快適に保てる点が支持されている。
2020年の国内生活家電出荷金額は2兆5363億円(前年比101%)と、24年ぶりの高水準になった(日本電機工業会調べ)。1人当たり10万円の特別定額給付金を使って、コロナ禍による巣ごもり生活への備えとして、居住環境を快適にしたい消費者が家電に飛びついたためだ。ここ数年間は約900万台と大きな増減なく推移していたエアコン市場も、約950万台に伸長。過去最高の出荷台数になった。中でも消費者の注目を集めたのが、換気ができるダイキン工業の「うるるとさらら」シリーズ。20年10月にシリーズを刷新し、市場での存在感を一段と高めている。
単に換気するだけではなく、加湿も同時に行うのがポイント
新モデルの特徴は、「換気はもちろん、湿度調整もできるエアコンはダイキンだけ」というブランドメッセージを、前面に打ち出した点にある。従来モデルでは、主にリビングルームでの利用を想定したフラッグシップ機「うるさらX」のみが、給気換気をしながら暖房・加湿する無給水加湿機能「うるる加湿」を搭載していた。新モデルでは、ベッドルームなどでの利用を想定した小型の「うるさらmini」にも同機能を搭載。また、うるさらXと同等の換気・加湿機能を備えたハウジングエアコンの天井埋め込みカセット型や床置き型も、うるるとさららシリーズに加えて、ラインアップを拡充した。
加えて、うるる加湿を省いた換気対応モデルの廉価版「Vシリーズ」も追加した。なお、すべてのモデルは元々、給気しながら除湿する「さらら除湿」に対応する。
冬場はうるる加湿により、加湿したうえで暖めた外気を室内に取り込める。一方、夏場には、さらら除湿により外気を取り込んだうえで除湿して部屋を冷やせる。最近の住宅は24時間換気システムが標準装備されているが、給気口から冬は冷たい乾いた外気が、夏場は熱く湿った外気がそのまま室内に流れ込んでくる。この問題の解消につながる製品だったこともヒットの要因だ。
最新モデルでは、リモコンの右下に専用の換気ボタンを搭載したのも特徴。これまでは、リモコンのフタを開いてメニューを幾つかたどらないと換気機能をオン・オフできなかった。コロナ禍で換気需要が広がったことを鑑みて、ワンタッチで換気が行えるように改良した。また、別売りの二酸化炭素センサーを内蔵したAI(人工知能)コントローラー「Beside(ビサイド)」と併用すると、室内の二酸化炭素濃度の上昇に応じてエアコンを遠隔操作して自動的に換気も可能になる。かゆいところに手が届く工夫を随所に凝らしている。
フラッグシップのうるさらXならではの新機能もある。人感センサーによって、在室を確認すると換気風量を自動的にアップする「センサー換気」機能を新たに搭載している。
実は2000年代初頭、ダイキン以外の家電メーカーも換気機能についてはエアコン製品に採用していた。ホルムアルデヒドなどの化学物質が原因となるシックハウス症候群対策のため、03年に改正建築基準法が施行され、その中で換気設備の設置が義務付けられたからだ。
しかし06年に施行された改正省エネ法によって、エアコンやテレビ、冷蔵庫などの「統一省エネルギーラベル」の運用が開始。各社は省エネに注力しなければなくなり、換気機能搭載型のエアコンを出すメーカーは徐々に減っていった。03年以降に建てられた新築マンションには、24時間換気システムが必ず導入されるようになったことも、メーカーの背中を押した。
空調専業メーカーのダイキンも換気機能開発競争に参戦したが、総合家電メーカーとの差異化のために取り組んだのは加湿機能だった。1999年にうるるとさらら第1号モデルを発売する直前、エアコン製品のトレンドは「空気清浄機能」。HEPAフィルターやカテキンフィルター、電気集じん機能、マイナスイオン機能など、各社は既に空気清浄機能を訴求していた。当時のダイキンは、住設メーカーや地域家電店などが販売ルートの中心であり、大型家電量販店では大きく後れを取る状況だった。
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