ホンダが2020年11月にフルモデルチェンジをした軽トールワゴン「N-ONE」が、21年2月末までに1万5000台を販売・受注。一部モデルでは約4カ月待ちになるほど人気を博している。興味深いのは、デザインを全く変えていないのに、運転好きな男性など新たなユーザー層を獲得できている点だ。異色のリニューアル戦略をホンダに聞いた。

2020年11月発売の「N-ONE Original」。159万9400円(税込み)から
2020年11月発売の「N-ONE Original」。159万9400円(税込み)から

 自動車のフルモデルチェンジでは、新たな魅力を創出するために、がらりと雰囲気を変えるのが一般的だ。しかしながら、2020年11月に初のフルモデルチェンジを行ったホンダの軽トールワゴン「N-ONE」は、12年発売の初代モデルにそっくり。それもそのはずで、初代のマイナーチェンジモデルと全く同じ外装パネルを採用しているのだ。それにもかかわらず、発売後1カ月で月間販売計画台数の4倍となる8000台を受注(ホンダ調べ)し、21年2月末には1万5000台を突破。好調な滑り出しを見せている。なぜこの「見た目を変えないモデルチェンジ」が成功したのだろうか。

12年11月に発売された初代N-ONEもほぼ同じ形状。当時の価格は115万円(5%税込み)から
12年11月に発売された初代N-ONEもほぼ同じ形状。当時の価格は115万円(5%税込み)から

 初代N-ONEは、「N-BOX」「N-BOX+」に続く「Nシリーズ」の第3弾モデルとして、12年11月に発売された。1967年に発売されたホンダ初の軽乗用車「N360」をモチーフとした愛らしいデザインが特徴の、プレミアムな軽トールワゴンとして開発された。これが個性的なクルマを好む層や、小さなクルマに乗り換えたいと考えるダウンサイザーの心をつかむことに成功。2013年には、10万7583台を販売するほどの人気があった。

 しかし、より安価な軽トールワゴンである「N-WGN」が13年11月に投入されると、実用性を重視する一部ユーザーがこちらに流れた。また、ダイハツの軽トールワゴン「ムーヴ キャンバス」やスズキの軽セダン「ラパン」、スズキのクロスオーバー「ハスラー」など、デザインを売りとする個性派モデルの登場やモデルチェンジにより、ここ数年はN-ONEの存在感が薄くなっていた。

「N-WGN L・Honda SENSING」(写真は現行型の19年モデル)はN-ONEよりも角張ったデザイン
「N-WGN L・Honda SENSING」(写真は現行型の19年モデル)はN-ONEよりも角張ったデザイン

形を変えずに“中身”を進化。前代未聞の開発がスタート

 そうなれば、再起を図るべく劇的なモデルチェンジを図るのが正攻法だろう。にもかかわらず、N-ONEは外観を変えなかった。その経緯を、ホンダ商品ブランド部商品企画課の矢野達也氏は、「当初は全く違うデザインも模索したが、新たなデザインはどれもN-ONEらしさが感じられなかった」と説明する。初代のオーナーからの聞き取り調査でも、「デザインは変えないでほしい」という声が大きかった。

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