羊毛フェルトのキャラクターを使ったストップモーションアニメ「PUI PUI モルカー」(テレビ東京系)が快進撃を見せている。朝7時半からという早朝の放送枠、2分40秒という短さにもかかわらず、最新話の放送後には毎回Twitterでトレンド入りをし続け、YouTubeの見逃し配信では再生回数が380万回を超える回もある。大人も巻き込み、人気が拡大する理由に迫った。
かわいらしい羊毛フェルトのキャラクターとは相反するブラックユーモア……たった3分弱のストップモーションアニメの勢いが止まらない。2021年1月5日(火)からテレビ東京系列で放送が始まった「PUI PUI モルカー」だ。モルカーとはつまり「モルモット+カー(車)」のことであり、モルモットが車の役割を果たす世界の物語。スマホを見ながらモルカーを運転する運転手や、銀行強盗をした上にモルカーを盗難する犯人、路上にゴミを不法投棄する運転手など、とにかく“愚かな人間”が次々登場する。
「人間は愚か」「人間はゴミ」といったパワーワードとともにじわじわとその内容が拡散され、初回放送から数日経ってTwitterでトレンド入りを果たした。そして期待が高まる中、1月12日に第2話が放送されると、「モルカー」のワードがTwitter上で50万件以上つぶやかれる異常事態が発生。羊毛フェルトで“マイモルカー人形”を自作したり、キャラ弁など料理を作ったり、ファンアートをSNSに投稿したりする人が続出しており、公式グッズも新商品の発売が告知されるたびに「早く欲しい!」という声があふれている。
YouTubeの再生回数からも、そのブーム拡大は一目瞭然。PUI PUI モルカーは「BANDAI NAMCO Arts Channel」で毎話1週間限定の見逃し配信が行われており、第1話の再生回数は40万7085回だったが、第2話では268万6179回と約6.6倍もの伸びを見せた。さらに第3話はそこから100万回以上も増え、382万6679回という驚異的な数字を記録。第4話以降も200万回超えがもはや当たり前となり、第5話は302万2482回と再び300万回超えを達成した。再生回数の急増に貢献しているのは、Twitterなどでも大変な盛り上がりを見せる大人世代だという。
作品誕生の発端は、「クレヨンしんちゃん」や「ドラえもん」といった人気アニメの制作を手掛けるシンエイ動画が、立体のアニメーションにも挑戦したいとの思いを持っていたことにある。同社社長の梅澤道彦氏がアニメーション作家を探していたところ、見里朝希氏が18年に東京藝術大学大学院修了制作として発表し、「国際短編映画祭ショートショート フィルムフェスティバル&アジア2019」でジャパン部門優秀賞などを受賞したストップモーションアニメ「マイリトルゴート」に出合った。
「マイリトルゴート」は、グリム童話「オオカミと7匹の子ヤギ」を題材に、児童虐待もテーマとして、ホラーや残酷な要素もあるダークな内容だった。梅澤氏は、「良い意味で毒のある作家性が魅力的に映った。シンエイ動画でも2Dでは表せない立体の質感を求めて『クレヨンしんちゃん』のオープニング映像に粘土で作った人形によるストップモーションアニメを採用するなどしてきたが、見里氏には、フェルト人形を自作した作品作りにオリジナリティーを感じた」と語る。そして19年の夏前、見里氏にとっては初となるテレビアニメシリーズの話をシンエイ動画が持ち掛けたことが、モルカーが生まれる第一歩となったのだ。
PUI PUI モルカーの企画は、見里監督から3~4個ほど提案があったうち、シンエイ動画が選んだ。「監督自ら制作した羊毛フェルトのキャラクターを実際に見たり触ったりして、予想よりもさらに表情豊かでかわいかったことが決め手になった」と梅澤氏は言う。子供向けのアニメという想定の企画だったため、子供に人気があるパトカーや救急車など働く車が登場するようシンエイ動画から提案も行った。今話題を呼んでいる、大人にも刺さるブラックな内容を盛り込むことは当初の予定にはなかったという。
では一体なぜ、ここまで大人をも巻きこむ一大ブームとなったのか。梅澤氏の話から、ヒットの裏側には「大人の考察意欲をそそる」要素があることが浮かび上がってきた。
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