直近6年間で、市場が4倍以上に急成長しているフリーズドライ味噌汁市場。そこで、トップシェアを走るのがアサヒグループ食品のフリーズドライ「アマノフーズ」だ。1983年の発売以来、過去最高売り上げを更新し続ける背景には、味へのあくなき追求があった。

アサヒグループ食品「アマノフーズ」ブランドのフリーズドライ味噌汁「いつものみそ汁」が2020年8月31日にリニューアル。通常版(左)に加え、減塩タイプ(中)やぜいたくタイプ(右)も幅広くラインアップ
アサヒグループ食品「アマノフーズ」ブランドのフリーズドライ味噌汁「いつものみそ汁」が2020年8月31日にリニューアル。通常版(左)に加え、減塩タイプ(中)やぜいたくタイプ(右)も幅広くラインアップ

 アマノフーズブランドの快進撃が止まらない。主力商品のフリーズドライ味噌汁が2019年、前年比105%となる売上高139億円を達成。急拡大するフリーズドライ味噌汁市場で、約7割のシェアを獲得した(インテージ調べ:19年1月~19年12月。金額ベース。沖縄を除く全国。食品SRI/即席味噌汁(FD市場)全業態)。人気のあまり需要過多となり、18年秋から19年夏まで発売休止が続いたほどだ。流れを受けて20年から21年にかけて19億円を投資。年間製造力を19年の3.1億食から21年までに4.2億食に引き上げる。

 20年8月31日には、主力商品の「いつものみそ汁」シリーズのリニューアルを図った。レギュラーラインの「レギュラー」(税別100円)、塩分25%カットの「減塩」(同100円)、具材・量・調理工程にこだわった「贅沢」(同130~180円)の3ラインに整理。シーンにあわせて選びやすくなったことで、よりユーザーのロイヤル化を促せるとみている。

今回追加された新商品の減塩タイプ「ほうれん草」の調理例。お湯を注ぐだけで、たっぷりの具材が入った味噌汁が出来上がりすぐに食べられる
今回追加された新商品の減塩タイプ「ほうれん草」の調理例。お湯を注ぐだけで、たっぷりの具材が入った味噌汁が出来上がりすぐに食べられる

 人気の背景にあるのが、共働き世帯の増加や女性の就業率上昇による生活スタイルの変化だ。特に中食(自宅で食べる加工品)の「簡便さ」「時短」への需要増や、健康意識の高まりが成長をけん引していると同社は分析する。また現在のコロナ禍において、買い置きニーズも生まれている。一度に複数買うため購買単価が伸び、成長はさらに加速傾向にあるという。

 活況のマーケットの中で、アマノフーズが“一人勝ち”している要因は何か。それは前身の天野実業時代から続けてきた「おいしさ」と付加価値の追求にあるようだ。

フリーズドライ味噌汁は社長夫人の一言で生まれた

 フリーズドライとはそもそも、水分を含んだ食品を急速に凍結させたまま真空状態で乾燥させる技術で、お湯を注ぐだけで食べられる点に特長がある。調理したてのような味や香りに加えて、栄養価を損ないにくいことや常温で長期保存ができるといった利点がある。

パッケージの中には、フリーズドライの味噌汁がトレイに入った状態で収められている
パッケージの中には、フリーズドライの味噌汁がトレイに入った状態で収められている

 アマノフーズのフリーズドライ味噌汁の場合、製造した味噌汁を1食分ずつトレーに入れて零下約30度で8時間以上冷凍する。そして真空状態の乾燥機の中で、24時間以上かけて水分を抜いて完成させている。

 岡山県で創業した天野実業は、もともとフリーズドライ製法を用いてカップ麺用の具材を作っていた。味噌汁の開発に乗り出したきっかけは、あるとき社長の妻が発した一言にあった。「1人分の味噌汁を作ったり、暑い夏にだしをとったりするのは大変だから、フリーズドライで作れないか?」。

 開発でこだわったのは、「主役である具材をおいしく味わえる」こと。具材によってだしの原料や配分、30種以上の味噌のブレンドをすベて変えた。

 08年にアサヒビールと業務提携しアサヒグループ食品のブランドとして再出発して以降も、その製法は受け継がれている。今でも6人ほどのスペシャリストが、経験を基に商品ごとにレシピをゼロから作り上げているという。アマノフーズブランドはリピーター率が高いことでも知られている。

 中でもブランド主力の『いつものみそ汁』シリーズはダントツで、評価されているポイントはおいしさにある。秘密は、東日本の人にも西日本の人にも試食テストで高評価になるような味付けだ。通常、東日本と西日本では味の好みが分かれると言われ、よく買われる味噌の種類も異なる。ところがアマノフーズは地域を問わず一つの味なのだ。この手法を応用し、製品ごとに違う味噌を使っている。

「いつものみそ汁」はリニューアルによって全28種類となった。同社はほかにもフリーズドライ食品を多数ラインアップしており、アンテナショップには100種以上の商品がずらりと並んでいる
「いつものみそ汁」はリニューアルによって全28種類となった。同社はほかにもフリーズドライ食品を多数ラインアップしており、アンテナショップには100種以上の商品がずらりと並んでいる

 「具材の良さを引き出すような味噌のブレンドにこだわれば、誰が飲んでもおいしい味ができることの証明だ。味噌メーカーではないため、様々な味噌を使えることが強み。商品ごとに味を変えているメーカーは、他にないのではないか」。アマノフーズブランドのマーケティングを担当する食品マーケティング部課長の宮本雅美氏は、他ブランドとの違いをこう話す。

 お湯を注いでわずか10秒で食べられる状態に戻るという驚きを持った体験も、おいしさに付加価値を与えているようだ。「おいしさと驚きがセットになることで、インプレッションが強まっている」(宮本氏)

ブランド認知を浸透させるマーケ戦略

 一人勝ち状態で「製品自体には全く弱点はない」と断言する宮本氏。ただ唯一の弱点として挙げるのが、ブランドの認知度だ。

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