米ナイキが2020年6月11日に国内発売したスニーカー「スペース ヒッピー」。発売して間もなく、ECサイト上には「完売」の文字が躍った。プラスチックのボトルやTシャツ、糸くずなどといった廃材を85%以上素材に使ったフライニット糸を採用するなど、今までにない高いレベルで環境へ配慮した点が消費者に支持された格好だ。売れるアパレル商品の条件を根底から覆した、象徴的な商品になるかもしれない。
ナイキは工場の床に廃棄されるスクラップを「宇宙ゴミ」と位置付け、これを活用して完成させたのがスペース ヒッピーだ。ナイキでデザインリードを務めるノア・マーフィー=ラインヘルツ氏は、「宇宙探索の世界では『もし月や火星に滞在するなら、必要なものは現地調達できるもので作らないといけない』というISRUと呼ばれる考え方がある」と話す。ISRUとは「In-Situ Resource Utilization(ありあわせの資源)」の略。この概念に基づき、「ナイキにとってのスペースジャンク(宇宙ゴミ)である工場の床に落ちたスクラップ素材をよみがえらせて商品を作ることにした」と、開発経緯を説明する。モデルによって幅はあるが、最大のケースで商品全体の重量の50%以上にリサイクル素材を使っているという。
ただし、単に環境に配慮しただけではない点が、このスニーカーの興味深いところだ。例えばソールのクッション部は、人気のランニングシューズシリーズ「ヴェイパーフライ 4%」の製造工場から出たスクラップを使っている。ヴェイパーフライ 4%は、着用したランナーが好記録を連発したことで一時話題となったことで知られる。
再生素材だからこその個体差も魅力に
個体ごとに微妙にディテールが変わるデザイン性の高さも魅力。再生素材を100%使用したアッパーは、染色工程を省いており、結果として原料次第で色合いが変わる。再生素材を混ぜ込んだソールも同様でさまざまな色のアクセントが入り、個体ごとに模様が異なる。シューレースの有無といった形状やカラーも変えられるため、カスタマイズで自分らしさも主張しやすい。「忙しく動き回る都市型のライフスタイルに最適だ」(ラインヘルツ氏)。
機能性に加えてデザイン性でも訴求したことが、環境への意識が高い人にとどまらず、多くの消費者をとりこにしたのだろう。
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