ビールやカフェラテなどの泡の上に絵などを描く“泡アート”が劇的に進化し、「映える」点に目を付けた敏感な消費者の間で泡アートをSNSに投稿する動きが広がっている。火付け役は、イスラエルのスタートアップ企業リップルズ。同社の専用マシンを使うと文字や写真を精細に、しかも全自動で泡の上に印刷できるとあって導入店を急速に増やしている。
リップルズが開発した「リップルメーカー」を使うと、ビールなど泡のあるドリンクを注いだグラスなどをセットするだけでイラストやメッセージ、客の顔写真などを印刷できる。バリスタによる「ラテアート」と違って、マシンさえ導入すれば店員の誰でも泡アートを提供できるのが特徴だ
「SNS映え」するプレモル、口コミで店舗に客が来る
既にサントリービールが高級ビール「ザ・プレミアム・モルツ」(以下、プレモル)のプロモーションのために採用し、飲食店への導入を積極的に進めている。「プレモルの最大の売りは、きめ細かな“神泡”の存在によって、香りとこくがさらに引き立つことにある。その魅力をもっと多くの人々に知ってもらうのに、打ってつけの装置だった」。サントリービール プレミアム戦略部の豊島孝郎氏は、リップルメーカーの採用を決断した背景をこう明かす。クリーミーな泡でなければ絵や文字を印刷しても輪郭がぼけてすぐに崩れてしまう。「プレモルだからこそ美しい泡アートを表現できる。そこに感動体験を演出できるチャンスがあると考えた」(豊島氏)
リップルメーカーを導入できる店舗は、キャンバスとなる泡を最高品質で作り上げることができる「神泡超達人店」に限っている。客に確実に感動体験してもらうためだ。プレモル提供店は全国に6万7000店あり、そのうちサントリービールが“神泡”を提供できると認定した店舗は3万9000店。その中でも厳しい基準をクリアしたのが神泡超達人店で、全国に1600店ある。現在、約370店まで導入が進んでいるという。
超達人店の1つである都内JR新橋駅近くの居酒屋「三芳八(みよしや)」は、リップルズメーカーを導入した店舗の一つだ。2019年11月から、プレモルを注文してくれた客に対して、ロゴなどをあしらった基本パターン5種類のいずれかを必ず印刷した状態で提供している。誕生日の客には「HappyBirthday」というメッセージを印刷することもある。
実際に店舗を訪ね、印刷するところを見せてもらった。超達人がテクニックを駆使すると、ピカピカのグラスに驚くほどきめ細かい泡のあるビールが注がれていく。これをリップルメーカーにセットすると、わずか10秒程度で印刷が完了した。漢字は細かな部分まで再現され紙に印刷したかのごとくきちんと読み取れる。しばらくたっても、絵柄はほとんど崩れることもない。つい誰かに自慢したくなり、スマートフォンで撮影してSNSに投稿したくなる人が多いのもうなずける。
「リップルメーカーを導入後、プレモルを何杯も飲んでくれる客が増え、売り上げアップに確実に貢献している。ほぼ100%の客がスマホで写真を撮ってくれるので、口コミで知って泡アート見たさに来店してくれる新規顧客もずいぶん増えた」(同店店長の緑川朝博氏)。泡アート入りのプレモルが出せることは、すなわち最高においしいビールが飲める店舗であることの証明でもあることから、店員のモチベーションアップにも大いに役立っていると話す。ビールのおいしさについて、客とコミュニケーションする機会もずいぶん増えたそうだ。
泡アートが神泡超達人店しか扱えないとあって、超達人店以外の飲食店が品質向上に力を注ぎ始める副次的な動きも出てきている。間接的にプレモルブランドの底上げに寄与する効果もリップルメーカーは生んでいるわけだ。
新型コロナウイルスの感染拡大が収束した後にサントリービールが期待するのは、各種イベントでの展開だ。実は19年、同社が特別協賛する食のイベント「FOOD SONIC 2019」(全国12カ所)にリップルメーカーを持ち込んだところ、全部で約2万杯もの泡アート入りのプレモルが売れ、大半の客がSNSに写真付きで投稿。神泡の認知拡大に大きく貢献した。
また、野球のイベント「サントリードリームマッチ 2019」(ドリームマッチのイベントロゴを印刷)や、国内女子ゴルフトーナメントの「宮里藍 サントリーレディスオープン」(大会アンバサダーの宮里藍プロや、18年優勝の成田美寿々プロの顔写真を印刷)などでは、イベントの内容に合わせて泡のデザインをカスタマイズする試みを行った。
「権利問題をクリアする必要はあるが、音楽イベントでアーティストの顔を印刷したり、コンテンツ関連イベントで人気キャラクターを印刷したりできれば、ファンに喜んでもらえそうだ」(豊島氏)。現在、様々な構想を温めているという。
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