永守イズムで変革に挑む京都先端科学大学から、組織改革・人材改革の秘密をひも解く本連載。第5回は、永守氏が130億円以上もの私財を投じたという大学改革の核心部、工学部の全貌を明らかにする。カリキュラム設計から教員人事まで、ゼロから立ち上げた工学部長の田畑修氏の挑戦を追う。
- “英語を学ぶ”のではなく“英語で学ぶ”仕組みをつくり、多様な留学生を集める
- 3年次からリアルな企業の課題解決にチームで取り組み、実践力をたたき込む
- 「頭」ではなく、「実践」を通して力を得た“ストリートスマートエンジニア”を養成
2020年4月、京都先端科学大学・京都太秦キャンパスで、新設の工学部がついにスタートした。同大学を運営する学校法人永守学園の理事長で、日本電産会長CEO(最高経営責任者)の永守重信氏が130億円を超える私財を投じた大学改革の本丸、待望の工学部の幕が切って落とされた。工学部は「機械電気システム工学科」の単科学部で、電気自動車、ロボット、ドローンなど未来の産業に欠かせない技術領域を視野に、工学の基礎やモーター技術などを学ぶ。
新規に建てられた工学部の入る南館には、最新鋭の3Dプリンターやレーザー加工機などが導入された機械工房を設置。24時間365日利用できる図書館に加え、キャンパスの随所にグループワークに適した共用スペース「ラーニングコモンズ」を備える。2月末の南館の竣工式において、永守氏は「社会に貢献する大学をつくるという強い気概で教育に当たり、世界人財となる立派な学生を輩出する」と決意を新たにした。
これまでも優れたモーター研究者・開発者を支援する「永守賞」の創設、京都大学にモーター研究の寄付講座を設立するなど人材育成に取り組んできた永守氏。だが、ついに自らの手でモーター技術者の養成を始動させたことになる。この工学部のカリキュラム設計から教員採用まで、ゼロから立ち上げる大仕事を任されたのが、元・京都大学大学院工学研究科教授の田畑修氏だ。
「実践力重視」の工学部をつくるチャンスに懸けた
田畑氏は民間企業で研究に従事していた際に社会人博士号を取得。その後、私立大学を経て15年以上にわたって京都大学で教壇に立ったが、今回の新鋭工学部の設立プロジェクトに参加するために早期退職を決意した。
国内最高峰の一角ともいえる京都大学大学院の工学研究科教授のポストをなげうってまで飛び込んだのは、17年6月、京都大学大学院工学研究科長から直接この話を持ち掛けられたからだ。元をたどれば、永守氏が工学部の新設に当たり京都大学総長に支援を依頼したことがきっかけ。最終的に田畑氏に白羽の矢が立ったのだ。「退職まで京大で骨を埋めるつもりだったが、これまでにない工学部をゼロからつくるというのは千載一遇のチャンス。永守理事長の考えには共感する部分が多く、前田正史学長と浜田忠章副理事長とも同じ課題意識を持っていると感じ、この道を選ぶことを決意した」(田畑氏)。同年12月に永守氏と日本電産本社で初顔合わせをし、正式に工学部長として動き出すことになった。
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