『2025年、人は「買い物」をしなくなる』(クロスメディア・パブリッシング)の著者でD2Cコンサルタントでもある望月智之氏が、毎回ゲストを招いて「デジタル×新しいビジネス×未来の買い物」を語り合う対談企画。今回は、SNS起点のレディースブランド「POCHER(ポシェ)」を運営するCREATE(東京・港) CEO(最高経営責任者)の鳴澤大地氏に、複数のインフルエンサーでブランドを作る方法などについて話を聞いた。※本企画は、ニッポン放送のラジオ番組「望月智之 イノベーターズ・クロス」(毎週金曜日21:20~21:40)との連動企画です。

鳴澤 大地(なるさわ だいち)氏(左)
CREATE 代表取締役CEO
長野県出身。立命館大学を卒業後、2019年にアパレルD2C及びAmazon D2C事業を行う株式会社CREATEを立ち上げる。21年秋に自社の全株式を韓国のビデオコマース企業「Mediquitous(メディコトス)」に売却し、グループ入り。メディコトスのアパレル子会社であるメディケアラボが運営する「NUGU(ヌグ)」の日本事業も担い、自社ブランド「POCHER(ポシェ)」と合わせ22年度50億円の売り上げを目指す。

望月 智之(もちづき ともゆき)氏(右)
いつも取締役副社長
東証1部上場の経営コンサルティング会社を経て、株式会社いつもを共同創業。同社はEコマースビジネスのコンサルティングファームとして、数多くの企業に戦略とマーケティング支援を提供している。自らはデジタル先進国である米国・中国を定期的に訪れ、最前線の情報を収集。デジタル消費の専門家として、消費財・ファッション・食品・化粧品のライフスタイル領域を中心に、ブランド企業に対するデジタルシフトやEコマース戦略などのコンサルティングを手掛ける。19年『2025年、人は「買い物」をしなくなる』、21年『買い物ゼロ秒時代の未来地図―2025年、人は「買い物」をしなくなる<生活者編>』を上梓。

望月智之(以下、望月) 鳴澤さんが代表を務めるCREATEのレディースブランド「POCHER(ポシェ)」が若い女性に注目されています。特に「ポシェ所属のインフルエンサーたちが商品やコーデをSNS(交流サイト)で紹介して売っていく」というコミュニケーションは面白いと思います。インフルエンサーを販売スタッフにしようという動きは、他のアパレルやコスメ領域でもどんどん取り入れられていますよね。

鳴澤大地(以下、鳴澤) そうですね。よく自分たちのことを「SNS起点のアパレルブランド」と言っています。それは「商品を作り、広告を行い、店舗や通販サイトで売る」という今までの売り方ではなく、さまざまなジャンルで活躍する感度の高いインフルエンサーがInstagramでまずは発信するということを起点としているからです。

望月 2020年に資生堂は、全国の販売スタッフ(資生堂ビューティーコンサルタント)120人がInstagramで情報発信していくと発表して話題になりました。またバニッシュ・スタンダードが提供する「スタッフスタート」のように、スタッフがECサイトなどで情報発信でき、店舗以外でもコミュニケーションできるサービスが注目されています。一方でポシェはそもそもがインフルエンサーを自社のスタッフとして抱えていますよね。スタッフをインフルエンサー化することとインフルエンサーをスタッフ化するのでは結構違いがあるかと思いますがいかがですか?

鳴澤 ポシェの場合は、所属しているインフルエンサーのことをスタイリストと呼んでいるのですが、それぞれのスタイリストが熱量のあるフォロワーを保有しています。Instagramではストーリーズ(ストーリー)がよく見られるのですが、ユーザーはどんどん次のストーリーを見ていくので、普通なら情報は流れていってしまいます。でもポシェは複数のスタイリストたちがそれぞれストーリーを投稿するのでユーザーの目に留まる機会も増えます。

望月 なるほど。情報発信のルートとしてスタイリストの方々のアカウントでの投稿と、公式のアカウントでの投稿の2つあるということですね。

鳴澤 そうです。公式アカウントに興味がなくなった人がいても、フォローしているスタイリストが新しく投稿したストーリーから公式アカウントに遷移することがあり、結果として公式アカウントへのエンゲージメントにもつながります。

望月 特にアパレルにおいては、服自体よりも、どう着こなすかが大事だと思うので、スタイリストよる投稿はフォロワーに刺さりそうですね。

鳴澤 同じ商品であっても、155センチ、160センチ、165センチなどのようにサイズが違うと着たときの印象も変わります。複数のスタイリストがいることで、それぞれの身長や体形、好みなどに合わせた写真素材を撮ることができ、それが高いコンバージョンにつながっています。

望月 インフルエンサーをスタッフにすると、独自の視点で着こなしなどを編集して発信してくれるので、それが“生きた情報”になりますよね。フォロワーに不快な気持ちや違和感を覚えさせずに商品の投稿をできるのは、インフルエンサーの能力だと思います。スタッフをインフルエンサーにすると、やはりどうしてもぎこちなさが出たりしますからね。では、インフルエンサーをスタッフに抱えるうえで気をつけている点はありますか?

鳴澤 実は弊社の最初の社員は、CS(カスタマーサポート)とエンジニアだったんです。とにかくCSとシステム領域を強めてディフェンス部分を固めることに注力しました。というのも、配送遅延や顧客対応の遅さって、スタイリストにクレームが直撃してしまうんです。ビジネスモデルとして、スタイリストが思いっきり活動できる環境が非常に重要なので、徹底的に対策しました。

望月 インフルエンサーが自分のブランドをつくり、主にSNSを通じて売るようなP to C(Person to Consumer)でも、企画と宣伝ばかりに注力してしまって、きちんと配送されなかったり、問い合わせ対応がずさんだったりで炎上しているケースは見られますね。インフルエンサーをスタッフ化しようとすると、バック側の整備が一番のネックになりそうなところですが、会社の仕組みとしてカバーしていることがよく分かりました。

立ち上げ当初は、スタイリストにクレームが向かないよう、CS(カスタマーサポート)やエンジニアの体制固めに注力したと語る鳴澤氏
立ち上げ当初は、スタイリストにクレームが向かないよう、CS(カスタマーサポート)やエンジニアの体制固めに注力したと語る鳴澤氏

ロイヤルカスタマーのためにセールはしない

望月 ポシェは、インフルエンサーとファンのつながりを非常に大事にされていると感じます。CS以外にどのような施策を重視されていますか?

鳴澤 僕らは「セールをしない」ということを最初に決めました。

望月 セールが常態化してしまっているアパレル企業も多いですよね。たとえプロパー価格(定価)での売り上げが下がっても、全体の売り上げや在庫処分の観点からセールをやめられないと聞きます。そんななか、ポシェはどうしてセールをしないのでしょうか?

鳴澤 ポシェにとって、多くのファンは、発売日に定価で買ってくれるようなロイヤルカスタマーでもあります。そうしたロイヤルカスタマーにとって、1カ月後に同じ商品の値段が下がっていたら悲しい気持ちになりますよね。ただそれだけですが、一番大事なことだと思っています。単純にファンの気持ちに寄り添った結果、「セールの禁止」「ダサいクリエイティブの禁止」、そして「売上目標も設定しない」ということを決めました。

望月 売り上げも追わないんですね。

鳴澤 毎月の施策をきちんとやりきれているかを追ったほうがよいと考えています。ブランドビジネスにおいて売り上げを追いすぎると、ロイヤルカスタマーやスタイリストとの関係を壊しかねないですからね。

望月 ECモールでも頻繁にキャンペーンを行っていると定価では買われなくなるものの売り上げは伸びるのでやめられない、という声は多いです。一度セールをしてしまうとその金額で買えるものなんだと覚えられてしまうので、結局はブランドの毀損につながっているんだろうなと思います。

この記事は会員限定(無料)です。

有料会員になると全記事をお読みいただけるのはもちろん
  • ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
  • ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
  • ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
  • ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー
ほか、使えるサービスが盛りだくさんです。<有料会員の詳細はこちら>
1
この記事をいいね!する