『2025年、人は「買い物」をしなくなる』(クロスメディア・パブリッシング)の著者でD2Cコンサルタントでもある望月智之氏が、毎回ゲストを招いて「デジタル×新しいビジネス×未来の買い物」を語り合う対談企画。今回は、未経験から2年で年商15億円に成長したコスメブランド「PHOEBE BEAUTY UP」を運営し、2022年3月にはシリーズBラウンドで8億円もの資金調達を行ったDINETTE(ディネット、東京・渋谷)のCEO&Founderである尾崎美紀氏に、美容系D2Cとしての今後の展望について話を聞いた。※本企画は、ニッポン放送のラジオ番組「望月智之 イノベーターズ・クロス」(毎週金曜日21:20~21:40)との連動企画です。

尾崎 美紀(おざき みき)氏(左)
DINETTE 代表取締役CEO&Founder
1993年生まれ、名古屋市出身。中央大学在学時に芸能活動を行い、美容に触れる機会が増え自身も興味を持つ。自分のやりたいことのために起業を選択し、2017年3月に大学卒業と同時に美容メディア事業でDINETTE(ディネット)を設立。19年2月にコスメブランド「PHOEBE BEAUTY UP」を立ち上げる。

望月 智之(もちづき ともゆき)氏(右)
いつも取締役副社長
東証1部上場の経営コンサルティング会社を経て、株式会社いつもを共同創業。同社はEコマースビジネスのコンサルティングファームとして、数多くの企業に戦略とマーケティング支援を提供している。自らはデジタル先進国である米国・中国を定期的に訪れ、最前線の情報を収集。デジタル消費の専門家として、消費財・ファッション・食品・化粧品のライフスタイル領域を中心に、ブランド企業に対するデジタルシフトやEコマース戦略などのコンサルティングを手掛ける。19年『2025年、人は「買い物」をしなくなる』、21年『買い物ゼロ秒時代の未来地図―2025年、人は「買い物」をしなくなる<生活者編>』を上梓(じょうし)。

望月智之(以下、望月) DINETTEは、田岡敬さんや音部大輔さんが参画しており、2022年3月には8億円もの資金調達を行うなど、化粧品・美容業界におけるD2Cブランドとして躍進を続けていますね。メイン事業としては、コスメD2Cブランド「PHOEBE BEAUTY UP」(フィービービューティーアップ)と、美容メディア「DINETTE(ディネット)」の運用かと思いますが、現在の収益の柱はPHOEBE BEAUTY UPのサブスク(定期購入)でしょうか?

尾崎美紀(以下、尾崎) そうです。PHOEBE BEAUTY UPサイトでのサブスクがメインですね。あとは、Amazonや楽天市場、LOFTなどで単品での販売も行っています。

望月 なるほど。自社ECを中心としているんですね。自社ECへの集客はどうやっているのでしょうか?

尾崎 集客はインスタグラムなどのSNSで、他にはSEM(サーチ・エンジン・マーケティング)やその他の媒体での集客を行っています。また、メディアでもオーガニックの集客ができています。

望月 PHOEBE BEAUTY UPは、まつ毛美容液が大ヒットしていて、すでに認知されているブランドなので、アフィリエイトやウェブ広告でも効率のよい流入が見込めそうですね。

尾崎 そうです。今は費用対効果がいいので広告を積極的に出している段階です。

望月 DINETTEは、もともと美容メディアの運用から始めて、そこから19年にD2Cプロダクトの開発と販売に乗り出しましたよね。D2Cでは理想とされがちな「メディア×プロダクト」というモデルなのだと思うのですが、メディアはどのような位置付けなのでしょうか?

尾崎 もちろん、PHOEBE BEAUTY UPの売り上げにつなげる施策の1つではありますが、メディアからお客様の声を集めてプロダクトをつくったり、改良していたりします。

望月 メディア運営は想像以上に大変だと思いますが、自社の事業における役割をしっかりと決めて覚悟を持ってやり切ると、さまざまな効果が生まれるんですね。

尾崎美紀氏。芸能活動を経て、19年にコスメブランド「PHOEBE BEAUTY UP」を立ち上げた
尾崎美紀氏。芸能活動を経て、19年にコスメブランド「PHOEBE BEAUTY UP」を立ち上げた

尾崎 メディア運営だけの時代は本当に厳しく、常に毎月のキャッシュフローを見ながらの状態で、資金調達にも苦労していました。だからこそメディア運営からD2Cブランドへと転換しようと思えましたし、結果としてメディアは無駄ではなかったと実感しています。自社ブランドのPRが無料で行えるうえ、メディアにはフォロワーも多く、積極的に営業をしなくても月に数百万円単位で企業の広告依頼も来ています。

望月 ほとんどのD2C企業のメディアは収益化していないと言われますが、すごいですね。最初にメディア事業から始めたことが、メディアとプロダクトのそれぞれが収益としては独立しつつ、お互いがよい相乗効果を持つ関係へとつながっているのでしょうね。

D2Cブランドの成功は、全部やり切れるかどうか

望月 資金調達も行って、IPO(新規株式公開)に向けて進めていくのだろうと思いますが、今後の展望についてお教えいただけますか?

尾崎 今は女性最年少での上場を目指しています。そこに向けて、まつ毛美容液と同じくらいのヒット商品をあと2~3つ作っていくことと、ファイナンスなども含め上場に向けてバックオフィスを整えるということの両方に注力しています。

望月 尾崎さんは製品開発も全てチェックしているんですか?

尾崎 他社で化粧品を作っていたことのある開発メンバーが成分などを選択したり調整したりしつつ、競合分析なども含めた調査はマーケティングチームが行っています。そうした報告をもらいながら、私も一緒に商品開発を行っています。

望月 なるほど。今の軸足は現場よりも経営視点でのかじ取りになってきているんですね。ヒット商品を作っていくとのことですが、商品開発においてどのようなことを意識していますか?

尾崎 「全部やり切る」ということは意識していますね。例えば、商品パッケージのデザインを頑張っても、ファンがいなかったり、成分がよくなかったりしたら買ってもらえません。また、価格帯が高すぎてもだめですが、安すぎても本当にいいものなのか不安にさせてしまいます。だからこそ、全部やり切らないと売れない市場だと思っています。本来は多くの資金がかかるはずなんですが、DINETTEがインフルエンサーとメディアを持っていたことは非常に幸運だったと思います。

世界で戦う日本発の化粧品D2Cブランドに

望月 コスメはフランスや韓国の企業が強いと思います。このあたりは気にしていますか?

尾崎 フランス企業は資金力があるのと、韓国は安価なのにクオリティーが高いので、真正面から競合していては太刀打ちできないです。韓国企業には、成分やブラシの形状・容器の技術など、コストとしても日本企業がまねできないところが結構あります。なので、商品力などを参考にしてはいますがそこまで意識はしていないですね。

望月 中途半端に寄せていこうとすると、うまくいかないですよね。DINETTEはフランスや韓国企業が強いグローバル市場にも進出しようとされていますが、どういう目的でしょうか?

尾崎 世界で戦っている日本の化粧品D2Cブランドが少ないと感じていて、それを我々がやっていくということに勝手に使命感を持っています。目的と言われたら「私がやりたいから」ですね(笑)。

望月 中国市場を狙っていくのでしょうか?

尾崎 中国市場はIPO後にしようと考えています。なぜなら非常にお金がかかる割に、売り上げに反映されるまでかなりの時間がかかるからです。また、IPO後に中国市場を狙っていくことで、今後も伸びていくということを分かりやすく示せるだろうという経営判断でもあります。

望月 20年にIPOした基礎化粧品のプレミアアンチエイジングさんも、同じような戦略でやられていますね。日本ブランドというだけでなく、確かな成分など独自の強みを持った商品であれば、十分中国市場でも戦えるでしょうね。

D2Cブランドにとっての実店舗の役割

望月 直営店舗やポップアップストアを出店されていますよね。ウェブだけだと顧客獲得に限界もあるし、エンゲージメントという観点からも店舗があったほうがいい、という話になりがちですが、実際にはD2Cブランドの店舗運営は難しいのが現状です。リアルの立ち位置についてどのように考えていらっしゃいますか?

尾崎 単にECだったり小売店に卸すだけだったりだと、やはりお客様の顔が見えないですし、ブランドの世界観も完全には体験いただけないので、それを解決するのはやはり直営店舗しかないと思っています。

D2Cブランドが実際に店舗運営するのは難しいと話す望月氏
D2Cブランドが実際に店舗運営するのは難しいと話す望月氏

望月 どのようなKPI(重要業績評価指標)を持っていますか?

尾崎 店舗だけのKPIでは見ておらず、ブランド全体のコミュニケーションで考えています。ただ、ポップアップショップを出してみて想像以上の効果があったことは分かりました。

望月 売り上げということでしょうか?

尾崎 そうです。20年12月に出店したのですが、クリスマス商戦とはいえコロナ禍だったのでそこまでは期待はしていませんでした。2週間の出店で数百万円程度を売り上げ目標にしていたのですが、結果はその3倍以上になりました。さらに、お客様が実際に商品を手に取って喜んでいるのを初めてちゃんと見たり、「PHOEBEのおかげで……」と直接言葉をいただいたりとオンラインでは得られないものを体験できました。

望月 今後は全国に出店していくのでしょうか?

尾崎 IPOまでには全国に数店舗は出店したいと思っています。まずは東京の有楽町でやってみて、そこから具体的に考えたいです。

望月 ちなみに店舗作りにおいて重視していることはなんでしょうか?

尾崎 写真を撮りたくなること、拡散したくなることが重要だと考えています。指名買いで来ていただける場所としてではなく、「PHOEBEを人に伝えたくなる場所」をもっとつくっていきたいのです。あとは世界観ですね。オンラインストアだと、どうしても液体のテクスチャーの感じなどをうまく表現できないんです。なので接客も含めてリアルだからこそ伝えられる世界観をつくり込んでいくことで、「噂に聞いていたけれど、こんなにいいんだね」という納得感を持ってもらう場所にしたいです。店舗で商品を買わなくても問題なくて、自社ECやAmazonなどで購入いただければと思います。

望月 多くの小売店舗が「売らない店舗」に挑戦していますが、正直うまくいっていないと感じています。D2Cブランドを短期出店して購入はECで、というだけでは「写真を撮りたくなる」や「世界観を体験できる」場所ではないですよね。結局、納得感も得られないからなんだろうな、と尾崎さんのお話を聞いて思いました。

(構成/ライター・竹井 慎平、照應堂)

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