『2025年、人は「買い物」をしなくなる』(クロスメディア・パブリッシング)の著者でD2Cコンサルタントでもある望月智之氏が、毎回ゲストを招いて「デジタル×新しいビジネス×未来の買い物」を語り合う対談企画。今回は、Greenspoon(東京・渋谷)代表の田邊友則氏を招いて、「パーソナルフード」のサブスクリプションビジネスについて話を聞いた。※本企画は、ニッポン放送のラジオ番組「望月智之 イノベーターズ・クロス」(毎週金曜日21:20~21:40)との連動企画です。
Greenspoon 代表取締役CEO
いつも取締役副社長
望月智之氏(以下、望月) 定額制パーソナルフード「GREEN SPOON」としてスムージーやスープ、ホットサラダのサブスクサービスを提供されていますが、2020年3月にサービスを開始して発売半年で累計13万個売れたりと、すごい勢いで伸びてますよね。「食のサブスク」、「D2C」、そして「パーソナライズ」と今注目のキーワードを全て兼ね備えているサービスだと思います。
田邊友則氏(以下、田邊) GREEN SPOONは、野菜を中心とした200種類以上の食材やフルーツ、スーパーフードを組み合わせて、スムージーやスープにできるサービスです。選んでいただいた商品を瞬間冷凍して、毎月ご自宅に送ります。スムージーやスープを定期的に届けることで、健康な生活を継続できるのが利点です。最初はスムージーのみの提供でしたが、20年11月からはスープも出しました。スープを出す前は「パーソナルスムージーのGREEN SPOONです」と積極的に紹介していたのですが、今後「パーソナル」という言葉をどこまで使っていくかは検討中なんです。
望月 それはどうしてなんでしょうか?
田邊 お客様の声を聞いているうちに、「必要な野菜を簡単にとれること」がやはり一番のベネフィットなんだと気づかされたんです。なので今後ちょっと変えていこうかと考えています。
望月 なるほど。AIやパーソナライズ(パーソナル)は、投資家や取引先などのビジネス向けには響く言葉ですけど、お客様にとっては単なる手段ですからね。
田邊 そうなんです。「パーソナル」ってto Bでもto Cでも最初にコミュニケーションするための言葉としては面白いのですが、最終的には「パーソナライズだからGREEN SPOONにする」というお客様はいなくて、パーソナライズされるからどんなベネフィットがあるのかが重要です。あと、to Bに対しても、すでに今では独自性・新規性がなくなり始めていると感じます。
望月 パーソナライズの先のベネフィットは「必要な野菜を簡単にとれること」かと思います。GREEN SPOONというサブスクサービスを続けてもらうためには、さらにどんなベネフィットが必要なのでしょうか?
田邊 まずは野菜を簡単にとれること、そしてその先に「今日も自分に良いことをした」という自己肯定感を感じてもらうことが重要です。他の要素として、おいしいこと、飽きないための変化があることが大事です。
望月 確かにいくら健康にいいと言われても、まずかったり、同じような味のものを食べ続けたりはできないですよね。ちなみに、GREEN SPOONではどのようなKPI(重要業績評価指標)を設定されていますか?
田邊 重点的に見ているのは、チャーンレート(解約率)、CPA(Cost Per Acquisition:顧客獲得単価)、原価率の3つの指標です。
望月 食品カテゴリーで、InstagramなどのSNS広告でコンバージョンさせるというのは、かなり難しいのではないかなと思います。特に課題があるわけでもないですし、食品はリアルでも購入しやすいですし、なんといってもサブスクなので。
先輩起業家に反対された事業
田邊 そうですね。単純な広告だけだと厳しいでしょうね。SNSで下地を作ってから広告を投下したので、コンバージョンできているのだと思います。SNSで「なんだか皆がGREEN SPOONというのをアップしている」という空気感ができている中で、広告が表示されると、意外と衝動的に購入につながると感じます。
望月 なるほど。広告の前にきちんとUGC(User Generated Content:ユーザーによって作られたコンテンツ)がたまっていたんですね。
田邊 僕が以前、サイバーエージェントに所属していて、メディアやタレントに近い業界にいたので、その辺りの方々にGREEN SPOONを体験いただけたのは大きかったです。その方々がSNSでも発信してくれていました。
望月 それは強いですね。GREEN SPOONのコミュニケーションを見ていると、パッケージデザインなども含めて華やかさを感じますが、ある種の上質さも感じます。単に売れればいいという印象ではなく、しっかりと先を見据えたブランディングをしていると感じますね。
田邊 D2Cベンチャーかいわいでは、「とにかくウェブ広告とアフィリエイトを回せばいい」という風潮があると感じます。ただ、僕らはそもそもの発想として短期的に勝負しにいくよりも、強いブランドを作ろうとしています。特に「こういう世界が美しいでしょ」と胸を張って言えるようになりたいと考えていて、「自分を好きでい続けられる人生を。」というビジョンと「楽しい食のセルフケア文化を創る」というミッションを、社内外に浸透させていくことを大事に考えています。
望月 食のサブスクって、一見華やかに感じますが、かなり大変ですよね。特にパーソナルをやっているとSKU(在庫管理における品目数)が非常に多くなりますし。
田邊 その通りです。SKU、商品開発、冷凍、サプライチェーンと、これらを全て自分達で作っていくことになります。新企画や商品開発、原材料調達まで自社でやって、OEMで製造を行っています。スムージーやスープといった商品だけで40SKU、食品を入れるカップが18SKU、期間限定商品を出していくと100SKUを超えていきます。
望月 そうですよね。しかもユーザーによって届けるものが異なるので、その管理も必要になりますよね。
田邊 お客さんそれぞれに違う商品を届けますし、スムージーやスープを同じBOXの中に梱包する必要もあります。
望月 よくこの食のサブスク領域に飛び込もうと思いましたね。
田邊 何人かの仲のいい先輩起業家に、GREEN SPOONの構想を相談したら、「普通に考えてこのビジネスは成立しないよ。だからやめときなさい」と言われましたね(笑)。でもその中で1人だけ「他の人がそう言っているならやってみたら? 誰もやらないから勝てるよ」って言われて、やることにしたんです。
望月 なるほど。そうなんですね。
田邊 一見スムーズに成長してきたと思われるんですけど、裏側はもう火の海みたいな状態です。ただやり続ける覚悟はあって、数年スパンというよりも、何十年という長期で考えています。だからこそ短期で売り上げを上げるのではなく、習慣や文化になるような事業にしたいなと思っています。
望月 誰もやらないと言っているってことは、逆にやり通せればすごい参入障壁になりますからね。それに加えて、やり続ける覚悟と長期的な視点も持っている。GREEN SPOONが成長している根源は、そうしたところにもあるのかもしれませんね。
(構成/ライター・竹井 慎平、照應堂)