『2025年、人は「買い物」をしなくなる』(クロスメディア・パブリッシング)の著者でD2Cコンサルタントでもある望月智之氏が、毎回ゲストを招いて「デジタル×新しいビジネス×未来の買い物」を語り合う対談企画。今回は、テレビ番組のコメンテーターや雑誌連載、ラジオ番組といったメディアなどで幅広く活躍している早稲田大学大学院教授の入山章栄氏を招いて、経営学の観点からコロナ禍におけるマーケティングについてお話を伺いました。※本企画は、ニッポン放送のラジオ番組「望月智之 イノベーターズ・クロス」(毎週金曜日21:20~21:40)との連動企画です。
早稲田大学大学院 経営管理研究科(ビジネススクール) 教授
株式会社いつも取締役副社長
望月智之氏(以下、望月) 早稲田大学大学院のビジネススクールの教授で、様々な企業に経営の助言もされている入山さんに、経営や経営戦略という視点から「買い物」についてお聞きしたいと思います。まず経営学から見たマーケティングとはどういうものなのでしょうか?
入山章栄氏(以下、入山) 経営戦略論の一つの分野に競争戦略論というものがあるのですが、それは非常にマーケティングに近しいのではないかと思います。私が米国のビジネススクールで教えていたときに、競争戦略論の授業として4Pや差別化戦略などについて話したのですが、「同じ内容をちょっと前のマーケティングの授業でやった」と学生たちに指摘されたことがありました。
望月 なるほど。一部の領域においてはかなりかぶっていて、市場というものを経営側のマクロな視点から考えるか、顧客側のミクロな視点から考えるかの違いということですね。そうしたマーケティングの領域では、デジタルマーケティングやECなど、コロナ禍でますますデジタル化が注目されています。経営戦略において、デジタル化はどのような扱いになっているのでしょうか?
入山 経営戦略としてはやはりDX(デジタルトランスフォーメーション)がキーワードになっています。
望月 株価対策もあるのだと思いますが、ここ数年多くの企業が「DX」という言葉を中期経営計画などに入れていますよね。ただ、実際にはなかなか進んでいない印象です。これからDXはどうなるのでしょうか?
入山 この30年、日本は「経路依存性」という呪縛から抜け出せずにいました。経路依存性とは、「現在の状態は、過去の決断や習慣・体制などによって制約を受ける」ということです。企業や社会は、あらゆるパーツ(要素)が歯車のように互いにかみ合って構成されているのです。だからこそ安定していると言えるのですが、一部を変えようとしたときには他の要素がネックとなってうまく変われません。それこそが日本の失われた30年を生んだ原因だと私は考えています。
望月 なるほど。大手企業から「ECへの取り組みを加速させたい」と相談が来ても、既存の店舗との兼ね合いや物流、システム、人材などがネックとなって進まないことがありました。すでにビジネスモデルが確立している企業ほど新しいことへのチャレンジは難しいということですね。
入山 そうです。各企業は対応しようともがきながらも、評価制度や終身雇用、採用、社員、システムなど様々な他の要素が足かせとなり、思ったほどの効果が得られなかったのが今まででした。しかしコロナ禍によって、良くも悪くも今までの仕組みが機能しなくなりました。企業にとってはこのコロナ禍は変革のビッグチャンスであり、ラストチャンスだと言えるでしょう。
ブランドを作るためには、プライシングから逃げてはいけない
望月 DXの他に、日本企業にとって今後必要なことは何だと考えていますか?
入山 「単なる安売りに逃げず、ブランドを築く」ということですね。ちょっと話がそれますが、米国の経済雑誌「Forbes」が発表した世界長者番付によると、資産額1位が米アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾス氏、2位が米テスラのイーロン・マスク氏。そして3位がベルナール・アルノー氏という方です。ベルナール氏を知っている人はかなり少ないかと思うのですが、実はルイ・ヴィトンやディオールなどを傘下に持つフランスLVMHのCEO(最高経営責任者)です。
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