『買い物ゼロ秒時代の未来地図』の著者でD2Cコンサルタントでもある望月智之氏が、毎回ゲストを招いて「デジタル×新しいビジネス×未来の買い物」を語り合う対談企画。今回は日経クロストレンドと日経トレンディが主催した「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」を受賞し、昨今のワークマン躍進の立役者である土屋哲雄氏をお招きして、これからの実店舗とECの可能性について話を聞いた。本企画は、ニッポン放送のラジオ番組「望月智之 イノベーターズ・クロス」(毎週金曜日21:20~21:40)との連動企画です。

土屋哲雄(つちや てつお)氏(左)
ワークマン専務取締役
東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿公司総経理、三井情報取締役を経てワークマンに入社。常務取締役経営企画・情報システム・ロジスティクス担当としてアウトドアウエア新業態店「WORKMAN Plus」を企画。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。20年10月に初の著書『ワークマン式「しない経営」―4000億円の空白市場を切り拓いた秘密』(ダイヤモンド社)を上梓

望月智之(もちづき ともゆき)氏(右)
いつも取締役副社長
東証1部の経営コンサルティング会社を経て、株式会社いつも を共同創業。自らはデジタル先進国である米国・中国を定期的に訪れ、最前線の情報を収集。デジタル消費の専門家として、消費財・ファッション・食品・化粧品のライフスタイル領域を中心にブランド企業に対するデジタルシフトやEコマース戦略などのコンサルティングを手掛ける。番組ナビゲーターを務めるニッポン放送「望月智之 イノベーターズ・クロス」のほか、J-WAVE、東洋経済オンライン、ダイヤモンド・オンラインなど、メディアへの出演・寄稿やセミナー登壇など多数。著書に『2025年、人は「買い物」をしなくなる』、『買い物ゼロ秒時代の未来地図』(ともにクロスメディア・パブリッシング)がある

望月智之(以下、望月氏) 一昔前までワークマンは、職人向け作業服の販売会社で一般人には縁遠いイメージでした。それが「#ワークマン女子」2号店を東京ソラマチに出すなど、この数年で一般の生活者との距離を一気に縮めているように思います。

土屋哲雄氏(以下、土屋氏) もともとワークマンの店舗は、わざと目立たず入りにくいような色やデザインにしていたんです。僕も入社したときにどうしてこんな外観なんだろうと思って社内に聞いてみたら、実は結構有名なデザイナーにデザインしていただいていたんです。当時は、「ワークマンの店舗は入りにくくていいんだ。会員制の店みたいなものだから」というのが考えとしてありました。有名なデザイナーにお願いしている手前ちょっと悩んだのですが、最終的にはワークマンの今後を考えて色を塗り替えちゃいました。

望月氏 従来のワークマンの良さを生かしつつも、大胆に新しい市場を創っていったことで、土屋さんは「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」に選ばれました。私が7年前に土屋さんにお会いしたのもECに関するイベントで、当時ECにきちんと向き合っている大手企業が少ない中、土屋さんはアンテナの張り方がすごいなと思った記憶があります。今のワークマンはECも実店舗も両方拡大させていきながら、お互いをきちんと融合させているように思いますが、それぞれの販路についてどのように考えていらっしゃいますか?

土屋氏 販路については7~8年くらい前からAmazonなどのECモールを意識して考えています。当時から、「Amazonにどこかで負ける部分は出てくるだろうから、別の負けない仕掛けを作らないといけない」と思っていて、負けないための3つの方針を立てていました。1つは価格。ミャンマーやエチオピアなどの製造業からするとマイナーな地域に工場を開拓していくことで、低価格を実現しました。さらにそれぞれの工場の閑散期に作ることで通常よりも10%安く製造できるように交渉するなど、とにかく工夫しています。2つ目は「配送費をかけない」、3つ目が「広告宣伝費をかけない」ことで、これらがECや実店舗という販路やそれぞれにおける施策に影響しています。

望月氏 なるほど。2つ目の配送費をかけないために、どのようなことをされているんでしょうか?

土屋氏 ワークマンは全国に約900店舗あります。これは、生活のだいたい半径3キロ圏内にはワークマンがあるという状況です。クリック&コレクト(ECサイトで商品を購入し、自宅以外の場所で商品を受け取るようにする仕組み)を推し進めることで、生活者にとって「自宅に配送してもらうよりも、店舗で受け取った方が楽だし早い」という状況をつくろうとしているのです。

望月氏 配送費というのは、かなり利益を圧迫しますからね。日本は米国や中国と違って面積が狭いので、明日以降に届くECよりも、車で10分の店舗に取りに行った方が楽だし早いというのは理にかなっていると思います。多くの企業がコロナ禍で店舗数を縮小しようとしていますが、逆に店舗数を増やすことが魅力になっていくということですね。

土屋氏 そうです。さらにこれから10~15年かけて2000店舗まで拡大し、生活圏の半径2キロ以内にはワークマンがあるようにしたいと考えています。

望月氏 そうした時にECと実店舗の関係については、どのように考えているのでしょうか?

土屋氏 店舗を増やすには、ECなどのネット施策の強化は必須だと考えています。実はワークマンのECのお客さまの6割が、店舗受け取りなのです。つまりECはワークマンにとって集客の手段であり、ECに注力すればするほど来店されるお客さまが増えるのです。しかも来店されたお客様の約6~7割が固定客になり、年間2~4回来店され、生涯LTV(Life Time Value/ライフタイムバリュー。顧客生涯価値)は40万円近くになることが分かっています。

望月氏 そこまでクリック&コレクトを進めているんですね。多くの企業では店舗やECそれぞれが単体での売り上げ目標を立ててしまって、両者が一向に交わらないのが現状です。きちんと実店舗とECを融合させているのはすごいですね。

土屋氏 実は人事評価からそうなるように設計しています。例えば、ワークマンのネット販売部長の業績評価は、ネットでの売り上げではなく店舗に誘導させた人数、もっと言うとウェブ上でワークマンの店舗の地図を見た人になっているのです。

ワークマンが目指す「Connected」とは

望月氏 店名の「#ワークマン女子」も、SNSでワークマン製品を愛用している女性客のつぶやきから取ってますよね。こうした顧客を巻き込んでいく仕掛けが非常にうまいなと感じます。3番目の広告宣伝費をかけないというところにもつながっていくと思うのですが、#ワークマン女子はどのような店舗にしているのでしょうか?

土屋氏 #ワークマン女子は、「Connected Store」と位置付けています。お客さまにご来店いただき、店内にあるフォトスポットで写真を撮ってインスタグラムにアップしてもらうなど、デジタルやオンラインとの融合をさらに考えた仕掛けに取り組んでいます。平日にはあまり使われない試着室をインスタグラム用の部屋にしてしまうくらいのこともやっています。こうした投稿を見た人が来店し、さらに自らの投稿をアップする。来店いただける新規のお客さまの半分は、ネットの情報を見て来てくれているのでSNSと店舗をつなげる仕掛けをいろいろ用意しています。

望月氏 なるほど。いかにワークマンを好きなインフルエンサーを巻き込んで発信してもらうかということですね。ボッテガ・ヴェネタがSNSの公式アカウントを削除して話題になりましたが、企業発信ではなくいかにファンに発信してもらうかは今後さらに重要になりそうですね。お客さんがお客さんを呼ぶという。

土屋氏 そうなんです。最近「Connected(コネクテッド)」の意味をよく考えています。2019年に店の中での情報検索を強化しようとしました。商品の前にQRコードを貼っておいて、お客さんがスマートフォンでそれを読み込むとワークマンのアンバサダーのサイトに飛べて、そこには動画などでの商品紹介がある、というような設計です。でもほとんどの人が使わなかったんですよ。(笑)

望月氏 「買う前にスマホ情報検索をする」という生活者の行動から、商品近くにQRコードを設置して詳細サイトに飛ばそうという店舗の取り組みはよくありますが、実際にうまくいったという声はほとんど聞きません。

土屋氏 そうなんです。お客さんにヒアリングしてみると、「そもそもこの売り場に来たのは、キャンプで有名なサリーさんのサイトを見たから」という人が9割だったんです。そもそもウェブで強化すべきは店の中での情報検索ではなくて、店に来てもらう仕掛けだということが分かりました。なので今はワークマンのアンバサダーを立てて、そこを中心として他のお客さんを呼べるかということに注力しているのです。

望月氏 企業目線では論理的に正しいように思えることも、実際お客さん目線では不自然なことは多いです。これは仮説を立てて試行錯誤を繰り返すしかないと思います。そうしながら、お客さんの自然な行動の中に企業の思惑を入れ込んでいける方法を見つけることが重要で、それこそがConnectedである価値だろうと思います。

内部でデータ分析ができる体制が強み

望月氏 今はあらゆる企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)ということをキーワードにしています。土屋さんは、このDXをどのように捉えていますか?

土屋氏 「お客さまとの関係が」とか「店舗が」とかではなくて、まず「人が」DX化しなくてはいけないんです。DXにおいて、人がデータ分析やデジタル的な思考を持って取り組めるかどうかが一番重要だと思います。

望月氏 単なるツールの導入を「DX」と考えている企業の多くは、その視点が抜け落ちていることが多いですよね。

土屋氏 そうですね。ビジネスでは因果関係、つまり原因を見つけるということが最も重要なのに、AI(人工知能)などをうたうツールでは相関関係しか出ないことが多いです。なぜこの商品が売れているのか、なぜこの商品が棚に残っているのかということが重要なのに、「結局どうすればいいの?」という結果ばかり出して満足することになります。例えば、「あるスーパーで紙おむつとビールが一緒に売れている」と。そんな結果が出たって、企業はどうしようもないんですよね。

望月氏 「変える」ことに役立てられないデータ分析は、読み物としては面白いですが、ビジネスとしてはあまり価値がないですよね。

土屋氏 外部のデータサイエンティストに依頼して分析してもらっても、恐らくそれは生かせない分析結果なんです。「アパレル業界って多分こうだから」という子供でも知っているような結論を出すことになるでしょう。そうではなくて現場の人がデータを自分で分析して使えるようにすることが大事です。商品を100個仕入れたのに50個残ったとなると死活問題です。その原因を見極めるためには、実験して分析するしかありません。「入れ物のアソートが悪かったからではないか」「サイズが悪かったからではないか」という仮説から改善策をそれぞれ出して、翌年に実験してデータでどちらの改善がより売れたか見て、さらに翌年に実験するのです。ワークマンは、開発から現場までほとんどの社員がこういう分析と改善ができるんです。ちなみにワークマンでは社長までデータ分析講習に出ていますよ。

望月氏 課題起点での分析でないと意味がないのは非常に分かります。店舗はECよりもデータが取りづらいといわれていますが、店舗でもまだまだやれることは多そうですね。

(構成/ライター・竹井慎平、照應堂)

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