『2025年、人は「買い物」をしなくなる』(クロスメディア・パブリッシング)の著者でD2Cコンサルタントでもある望月智之氏が、毎回ゲストを招いて「デジタル×新しいビジネス×未来の買い物」を語り合う対談企画。今回は、木村拓哉を起用したTVCMで話題となった男性用スキンケアブランド「BULK HOMME(バルクオム)」の創業者、代表取締役CEOの野口卓也氏を招き、メンズスキンケア市場を開拓したマーケティング手法について話を聞いた。※本企画は、ニッポン放送のラジオ番組「望月智之 イノベーターズ・クロス」(毎週金曜日21:20~21:40)との連動企画です。
※この記事は2020年12月2日に公開した記事を再構成・再掲載したものです。

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野口 卓也(のぐちたくや)氏(左)
バルクオム 代表取締役CEO
慶応義塾大学環境情報学部中退。ITベンチャーや飲食店など複数の企業を立ち上げ、2013年4月2日にメンズスキンケアブランドBULK HOMMEを創業。17年、組織再編を経てバルクオムを設立、代表取締役CEOに就任。

望月 智之
いつも 取締役副社長
東証1部の経営コンサルティング会社を経て、「いつも」を共同創業。同社はEコマースビジネスのコンサルティングファームとして、数多くの企業に戦略とマーケティング支援を提供している。自らはデジタル先進国である米国・中国を定期的に訪れ、最前線の情報を収集。デジタル消費トレンドの第一人者として、消費財・ファッション・食品・化粧品のライフスタイル領域を中心に、ブランド企業に対するデジタルシフトやEコマース戦略などのコンサルティングを手掛ける。2019年に『2025年、人は「買い物」をしなくなる』を上梓(じょうし)。

望月 智之氏(以下、望月氏) バルクオムと言えば、木村拓哉を起用したCMが話題になりました。彗星(すいせい)のごとく現れたバルクオムによって男性化粧品市場に「メンズスキンケア」というジャンルが確立。その市場をバルクオムがけん引しているように思います。

野口 卓也氏(以下、野口氏) 法人化は2017年ですが、実は事業としては13年から行っていたため、自分の感覚としては“粘り勝ち”という印象です。大手企業がメンズスキンケアに参入するというのはよく聞きますが、スタートアップ企業で、しかも専業として何年も続けているのはバルクオムくらいだと思います。

望月氏 ウェブやマスメディアや店頭など、最近はどこででもバルクオムを見かけるようになりましたが、どういったマーケティングをされているのでしょうか?

野口氏 男性向けの市場では「何か行動したときに最初に目に留まる商品である」という状況を築くことが重要だと考えています。私はこれを“定番感”と呼んでいます。もちろんCMなどによる影響も大きいのですが、バルクオムのマーケティングの肝は、「いかに初回のトライアルに誘導し、定期購入につなげるか」なのです。

望月氏 なるほど。木村拓哉起用のCMなどブランディングや認知に注力しているというイメージがありましたが、ダイレクトマーケティングが肝なんですね。初回特典などの魅力でまずは試してもらって、そこから定期購入プランへとつなげていく、というネット通販を起点としたD2Cならではの考え方ですね。

野口氏 その通りです。様々なセミナーでも「バルクオムはダイレクトマーケティングでメンズスキンケアを最も試行錯誤してきたから伸びてきた会社だ」という話をしてきました。過去には初回購入に多くの特典を付けるというような売り方もしていました。これまでスキンケアをしたことがない人にも“刺さる”要素は何か。それらを模索することに命をかけているんです。

定期購入ユーザーを軸とした視点

望月氏 ウェブであれば様々なデータを可視化でき、定期購入へのPDCAを回しやすいと思います。店舗販売などの販売チャネルが増えている中で、そのあたりはどのように確認しているのでしょうか?

野口氏 AmazonなどのECプラットフォームや店舗で単品購入する人の中には定期購入の解約者が存在しています。そのため自社ECとその他のチャネルは有機的につながっていると考えています。

望月氏 なるほど。別々のチャネルとして捉えるのではなくて、定期購入を軸にそれぞれがつながっていると考えているんですね。確かに定期購入を解約する人の中には、「毎月じゃないけど商品は欲しい」など、いろいろなパターンがありますよね。

野口氏 そうです。定期購入を解約した人が他社ブランドにいくのか、バルクオムの他のチャネルにいくのかは、かなりチェックしています。一般的な化粧品会社のマーチャンダイジング的な考え方だと、「まず店頭で目にして購入し、気に入ったら定期的に買う」と発想するんですけど、バルクオムは逆なんですよね。

望月氏 確かに多くの企業は、何となくオフラインで認知を高めて、オンラインで「LTV(Life Time Value)」を確保するというイメージになっていることが多いです。

野口氏 バルクオムはまずオンラインでの定期購入を前提としています。だからこそ特典などを付けて初回購入の魅力を高めるべきだ、という考え方なのです。

望月氏 バルクオムの商品は、LOFTなどでよく見かけます。そうした店舗などオフラインにおけるチャネル選びや相性についてはどのように考えていますか?

野口氏 店舗については実は全く考えていません。相性の良い店舗のバイヤーさんの方から買いに来ていただいているので。我々は定期購入のサイクルを回し続けることに注力しています。

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望月氏 それではオンラインでのチャネルは何か選定されていたり、運用に当たっての基準があったりするのでしょうか?

野口氏 自社EC以外のすべてのチャネルは定期購入からの離脱先だと捉えています。そのため、特にチャネル選定などはしていません。販売する面が広がって「定番感」が増し、どこかで単品購入した人が気に入って定期購入してくれると考えています。

望月氏 面白いですね。多くの企業では、自社ECと他のチャネルでサービスレベルや買い方などのブランド体験を統一したいと考えています。そのためチャネルの客層はもちろん、ブランドを毀損するようなセールの頻度まで気にすることもあります。しかし、バルクオムは「売れた」というデータを基にしているので、そういった情緒的な判断や思い込みに引っ張られないということですね。

野口氏 定期購入の比率は自社ECがもちろん高いですが、他のチャネルでも購入単価やリピート率などは大きく変わりません。また、ブランドが毀損されることを気にする人は確かにいます。でもラグジュアリーブランドの高級バッグが商店街の中古ショップで扱っていたりしますが、それでも人気ですよね。

木村拓哉起用のCMが生まれた裏事情

望月氏 テレビCMの効果はどうでしたか? CMを打つとCTA(Call To Action:行動喚起)が良くなるといわれていますが、バルクオムの場合は再現性のあるアプローチになりそうでしょうか?

野口氏 実は19年に福岡でテレビCMをやっているんです。それもダイレクトマーケティングの考え方で、まず反応を見てPDCAを回していこうとしました。結果としては大惨敗で、CTAどころではなかったです。

望月氏 なるほど。失敗の要因はどこにあったんでしょうか?

野口氏 クリエイティブを広告代理店任せにしてしまったことが原因だと考えています。提案されたクリエイティブ案は格好いいけれども、どう行動喚起させるかという視点が抜け落ちているように感じました。しかしクリエイティブディレクターの方に「いやいや大丈夫です。まぁ見ててください!」と言われて、そのままGOサインを出してしまいました。

望月氏 そうなんですね。それでも全国的なCM展開につなげたのはなぜでしょうか?

野口氏 本当は、CMはもうやりたくないと考えていました。こうした大きな投資については、きちんと因数分解してどういう数字に落ちそうかということまで90%以上理解できないとやらないようにしています。ただ、木村拓哉を起用するCMを提案してくれた社員は、福岡のCMの経緯や失敗を知っていたうえで、「もう一回やりましょう」と言ってくれたんです。一度は却下したんですが、そこからさらに追加の提案もあって、「それならチャレンジする価値がある」と思えるまで説得してくれたことが大きいですね。

望月氏 これからのクリエイティブは感覚頼りではダメですね。きちんと仮説を立てて、検証していくことが必要です。クリエイティブこそ数字が大事だと改めて思いました。

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この記事は2020年12月2日に公開した記事を再構成・再掲載したものです。
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(構成/ライター・竹井 慎平、照應堂)