ブランド企業に対するデジタルシフトやEコマース戦略などのコンサルティングを手掛け、『2025年、人は「買い物」をしなくなる』(クロスメディア・パブリッシング)の著者でもある望月智之氏が、ゲストと「デジタル×新しいビジネス×未来の買い物」を語り合う企画。今回は、レノボ・ジャパン代表取締役や資生堂チーフストラテジーオフィサー(CSO)などを経て、現在SUNDREDのCEOとして「新産業共創スタジオ」を運営する留目真伸氏に次世代の産業について意見を聞いた。※本連載は、ニッポン放送「望月智之 イノベーターズ・クロス」(毎週金曜日21:20~21:40)との連動企画です。

望月智之(もちづき ともゆき)氏(左)
いつも.取締役副社長
東証1部の経営コンサルティング会社を経て、いつも.を共同創業。 同社はEコマースビジネスのコンサルティングファームとして、数多くの企業に戦略とマーケティング支援を提供している。自らはデジタル先進国である米国・中国を定期的に訪れ、最前線の情報を収集。デジタル消費トレンドの第一人者として、消費財・ファッション・食品・化粧品のライフスタイル領域を中心に、ブランド企業に対するデジタルシフトやEコマース戦略などのコンサルティングを手掛ける。2019年に『2025年、人は「買い物」をしなくなる』を上梓(じょうし)。

留目真伸(とどめ まさのぶ)氏(右)
SUNDRED 代表取締役/パートナー
早稲田大学政治経済学部卒業。総合商社、戦略コンサルティング、外資系 IT、日系製造業等において要職を歴任。元レノボ・ジャパン、NEC パーソナルコンピュータ代表取締役社長。大企業のマネジメント経験、数々の新規事業の立ち上げ、スタートアップの経営を通じ、個社を超えて全体像を構想し自在に社会に対して価値を創出できる「社会に雇われる経営者(経営者 3.0)」が求められていると実感。HIZZLE(ヒズル)にて「経営者の育成」「未来型企業へのトランスフォーメーション支援」に取り組む。資生堂 CSO を経て 2019 年 7 月より SUNDRED の代表に就任し、「新産業共創スタジオ」を始動

望月智之(以下、望月氏) 留目さんはレノボ・ジャパン(東京・千代田)や資生堂を経て、17年にSUNDREDを立ち上げられましたが、現在、具体的にはどのような活動をされていますか?

留目真伸氏(以下、留目氏) 様々な企業が手を組み、新しい時代にふさわしい価値創造や組織のあり方を探るための“場”として「新産業共創スタジオ」というものを運営しています。そこでは、例えば「フィッシュファーム(陸上養殖)産業」や「ユビキタスヘルスケア産業(医療のデジタル化推進)」など多くのプロジェクトが進んでいます。

望月氏 面白いのが、対象が「事業」ではなく「産業」なんですよね。事業だと1つの企業活動にすぎないですが、産業はより全体の経済活動、つまりエコシステムを指すイメージですね。

留目氏 その通りです。明るい未来に向けて100個の新産業を共創することを目的に、SUN(太陽)+HUNDRED(100個)で「SUNDRED」という社名をつけました。

望月氏 過去を振り返ると、例えば「セカンドライフ」や「セカイカメラ」、「3Dテレビ」など、非常に面白くて新しいテクノロジーなのに、最終的に産業にまで発展し切れなかったケースは多くあります。「新産業共創スタジオ」ではどのようにして産業化していこうと考えていますか。

留目氏 産業化には、「プラットフォーム」と「アプリケーション」が重要だと考えています。いかに素晴らしいアプリケーションがあってもプラットフォーム化されていないと使われないし、逆もまたしかりです。両方の事業をきちんとそろえて発展させることこそが産業化につながると考えています。

望月氏 なるほど。プラットフォームとアプリケーションと言うと、スマートフォンがすごくわかりやすい例ですよね。例えばスマホが普及してから人々の生活は大きく変わりました。iPhone登場以降、手元で気軽に買い物ができるようになり、さらにSNSの影響で集客チャネルも変化した結果、EC業界全体が急成長するなど、大きな後押しとなりました。

留目氏 そうですね。レノボ・ジャパンにいたときにもずっと考えていたのですが、パソコンというのはそういう点では非常にクローズドな領域なのです。

望月氏 2019年のパソコン市場は、Windows 7のサポート終了に伴う買い替え需要もあり、国内の出荷台数は過去最高の1570万台(前年比41.5%増)でした。スマホの高性能化でパソコンは“オワコン”(終わったコンテンツ)と言われることもありますが、テレワークが活発化するなどまだまだ需要はありますよね。留目さんは、未来のパソコン市場をどうみていらっしゃいますか?

留目氏 皆さんご存じの通り、パソコンって「パーソナルコンピューティング」のことなんです。もともとメインフレームでやっていたコンピューティングパワーを、一人ひとり個人で使えるように開発したという優れたイノベーションでした。

 パソコン業界では、CPUやメモリーなど必要なパーツを社外にアウトソーシングするなど分業体制を構築して安価にして普及してきましたが、もはや伸びしろはあまり残っていないと思います。現在ではパーソナルコンピューティングという当初の目的はほとんど果たしている状態なのです。もちろんパソコン自体がなくなることはありませんが劇的な変化はないでしょう。

 こうした状況でどこに立ち返るべきなのかということが重要です。私は、パーソナルコンピューティングには“その先”があると思うんです。水や空気のように、あらゆる生活シーンがコンピューティングに支えられている状況、というのはまだ実現できていないですよね。

 ここから先は、パソコンメーカーだけではできません。色々な業界と“次世代のパソコン”を作っていこうという取り組みをパソコンメーカーが旗振り役となって行動していかなければいけないのに、なぜか今も“箱”だけを作っています。既存の目的をやり遂げて、次の目的に移行できていない状態なのです。

望月氏 ほとんどの産業がそうだと思います。社会の中にある本質的な目的を企業が忘れてしまっていて、事業の結果ばかりを求めた結果、シェアの奪い合いになっているのが現状だと思います。それに対して、CES 2020での豊田章男氏(トヨタ自動車社長)の「スマートシティー構想」はすごいと思いました。トヨタのような大企業でこうした取り組みに着手するのは相当難しいことだと思います。

留目氏 そうですね。私も会社の社長を務めていましたが、保守的な人たちがいる株主総会や取締役会でスマートシティー構想のような話を通すのは非常に難しいと思います。独裁体制を生み出さないためとか、会社としてのリスクを潰すことがそもそもの取締役会の役割ですし。

望月氏 企業が立ち返るべきなのは、きちんとこれからも成長できる産業になっているかどうか。そして、その要素がプラットフォームとアプリケーションということですね。

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