JR東日本スタートアッププログラムから生まれた新たなサービスが次々に成果を生み出している。第1回はJR東京駅構内の商業施設「グランスタ」で、食品ロス1トンを削減したベンチャー企業。実は、当初のもくろみとは違うアプローチから生まれたSDGs(持続可能な開発目標)サービスだった。
土産屋や飲食店が店じまいを始める夜の東京駅。そんな流れに逆らって、22時に開店準備を始める店がある。22時半から1時間だけオープンするその店が取り扱うのはパンやお弁当だ。300円と500円という破格のツープライス。あまりの安さに連日完売が続く。だが残念ながら、一般客は購入できない――。
この店の名は、外食支援ベンチャーのコークッキング(東京・港)が運営する「レスキューデリ」。2020年1月14日から1カ月間、実証実験として行われたものだ。目的はフードロス削減。東京駅で大量に発生する食品廃棄を減らすことが狙いだった。客は当直などのために夜勤で働く駅員や、グランスタなどで働き帰宅する前の従業員たちだ。
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このアイデアはどのようにして生まれたのか。その端緒は、19年の「JR東日本スタートアッププログラム」にさかのぼる。
同プログラムは19年時点で3回目。ベンチャー企業などから駅や鉄道、グループ事業の経営資源や情報資産を活用したビジネス、サービスの提案を募り、実現していくというものだ。今、ここを起点として年間約20件の実証実験が行われ、実業に結び付いた例もあるなど、スタートアップが新たな事業を生み出す土壌になってきている。19年は262社が手を挙げ、そのうちの1社がコークッキングだった。
同社は15年に立ち上げたベンチャーで、主力は「TABETE(タベテ)」という外食業者の支援事業。店で余ってしまった料理やパンなどを安くでもいいから購入してほしい外食側と、お得に購入したい一般の登録者を結び付けるもので、掲載店舗数は約800、登録者数は約25万人を数える(20年4月時点)。
具体的には、外食側がフードロスが発生しそうだと思った段階でTABETEに掲載。アプリでその情報を入手した登録者がその店を訪れ、通常よりも安い価格で購入する、というものだ。店側はフードロスが売り上げに変わるというメリット以外にも、TABETEを通じて新規の顧客にアプローチできるという側面もある。
コークッキングが前述のスタートアッププログラムに応募したのも、「当初の目的は駅ナカにTABETEをうまく広げていきたい、というシンプルなものでした」(同社社長の川越一磨氏)。「営業終了後に我々が売れ残りを引き取って、一般ユーザー向けに売りつなげないかと思っていました」。
ところが、JR側と話していくうちに、当初とは全く別の案が浮かび上がる。それが、「駅員を客にする」というアプローチだった。
「駅員さんが毎晩100人ぐらい東京駅に泊まっていることなんて私は全然知らなくて。でも考えてみると、夜勤の人は確かに食環境が悪そうだなと。普段何を食べているんですかと聞くと、周りのお店も閉まるので買うところがない、夜のうちにコンビニとかで買っている、と。それはむしろ何とかしないといけないんじゃないの、ということになったんです」(川越氏)
なぜ東京駅が実験場に選ばれたのか。これには2つの理由があるという。
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