
植物肉や培養肉といった代替タンパク質、食のデジタル化を象徴する「キッチンOS」プラットフォーマーの勃興など、世界で巻き起こる食分野のイノベーションを取り上げる本特集。第1回は、猛威を振るう新型コロナウイルスの影響下で今、食分野では何が起き、フードテックはどんな貢献をしていけるのか、探った。
新型コロナウイルスによるグローバル規模の大流行(パンデミック)により、人々の健康、生活、産業活動すべての側面でディスラプション(崩壊、混乱)が起こっている。いまだ、未曽有の危機が続く中、世界のフードテックコミュニティーでは、「コロナ禍で私たちが学ぶべきこと」「どんなアクションを取るべきなのか」など、活発な議論がなされている。
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パンデミックで食分野はこう変わった
新型コロナ感染の拡大で国ごとロックダウン(都市封鎖)を実施し、厳格な外出制限がかかったイタリア。ロックダウン開始後、食料品のオンラインデリバリー販売がそれ以前と比べて90%も増加している。学校も閉鎖されたことで、子供たちの食事へのアクセスが制限され、給食向けに卸していた食材は行き場を失っている。
また、米国の外食業界では、70%がレイオフを実施、44%が一時的な閉店に追い込まれた。一方、これまで苦戦してきたミールキット宅配サービスが改めて注目を集め、有力企業のBlue Apronの株価が2倍以上に跳ね上がった他、家庭での料理の機会が増え、調理家電の売り上げも急激に伸びている。米国ではホームベーカリーの販売台数は前年同期比で8倍に増えているという。
都市封鎖で都市への食料供給が滞り、農作地帯においてはフードロスも発生している。多くの米国の酪農家は、1日当たり乳牛480頭分の牛乳(約4700ガロン)を廃棄せざるを得ない状態だという。これらはほんの一例であり、どの国でも今、不都合な状況が続いている。
こうした食のディスラプションは、社会課題をも浮き彫りにした。米国では、新型コロナウイルス感染者のうち、黒人の死亡率が高いことが問題視されている。米APM Research Labの統計(2020年4⽉16⽇時点)によると、感染者数10万人当たりの死亡率は、白人が4人、ラテン系が4.1人、アジア系が5.1人なのに対し、黒人は14.2人に跳ね上がる。これは黒人に貧困層が多く、安価な加工食品を多用する食生活から肥満・糖尿病の持病を抱えている比率が高いことが要因として挙げられている。「フードデザート」と呼ばれるこの社会課題は、以前から問題視されていたのだが、今回のパンデミックの被害が集中してしまった格好だ。
また、今回のウイルスがどこで発生したかは諸説あるところだが、関連して現在の「工業的畜産」の在り方に警鐘を鳴らす専門家もいる。現代は技術進化によって、狭い場所でも大量の家畜を育てられるようになったが、動物と人間との距離が縮まったことで新たなウイルスへの接点も増えたことを危険視しているのだ。これまで、動物愛護や地球環境保護の観点から肉食を減らし、植物性代替肉に切り替える動きがあった。だが、今後は「感染症対策」として、「食」の動物への依存度を減らすべきだ、という専門家の声もある。実際、Nielsenによる米国の購買データによると、3月最終週の米国における植物性代替肉は、鮮肉で前年比256%増、加工肉製品で同50%増となっている。
フードシステムをどうRESETするか?
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