「再生」したばかりの東京事変やCharaなどの新曲を収めた音楽ファイルを購入すると、応援したいライブハウスの“臨時収入”になる。緊急事態宣言で経営危機に陥っているライブハウスを支援するプロジェクト「Music Unites Against COVID-19」が「応援消費」の新しいビジネスモデルとして注目を集めている。

緊急事態宣言によって営業を自粛。経営危機に陥っているライブハウスを支援するプロジェクト「Music Unites Against COVID-19」が「応援消費」の新しいビジネスモデルとして注目を集めている
緊急事態宣言によって営業を自粛。経営危機に陥っているライブハウスを支援するプロジェクト「Music Unites Against COVID-19」が「応援消費」の新しいビジネスモデルとして注目を集めている

 このライブハウス支援プロジェクトがスタートしたのは2020年4月19日。それから1カ月で500~1万円の支援をした件数が3万4800件以上と、事前の想定を超える多くの支援が集まっている。

 きっかけは東京都の小池百合子知事などが「3密」を招くとして、ライブハウスなどの名を挙げて利用自粛や休業要請をしたことだ。関⻄地方のライブハウスでいわゆるクラスターが発生したこともあり、仕方がない措置ではあったが、これがチケットとドリンクが売り上げの多くを占めるライブハウスの多くを経営危機に陥れたのも事実だ。

 そんなライブハウスを、何とか救えないか。多くのミュージシャンや音楽関係者が知恵を絞る中、声を挙げて自ら動いたのが、海外でも人気を集めるポスト・ロックバンドの「toe」(トー)だ。ECショップ構築サービス「STORES」を展開するストアーズ・ドット・ジェーピー(東京・渋谷)と複数のライブハウス、そして多くのミュージシャンに呼びかけて、業界初となるデジタルを活用した応援消費プロジェクトを、わずかな準備期間で立ち上げた。「もし、また以前のように人々が集まってライブが行えるような世の中になった時、ライブハウスが無くなってしまっていたら、僕たちはどこで演奏すればいいのでしょうか」とtoeはコメントしている。

 具体的な仕組みは次のようなものだ。まずライブハウスを支援したい人がSTORES上のプロジェクトのページ経由で支援したいライブハウスのウェブストアを訪れて、音楽ファイルへのアクセス権を購入する。ファイルには趣旨に賛同したバンドやアーティストの楽曲が入っており、6月30日までのプロジェクト期間中は回数無制限でアクセスできる。ダウンロードして楽しむことも可能だ。支援金額は、500~1万円まで5段階から選ぶ。ちなみに金額にかかわらず、音楽ファイルの内容は同じだ。

 参加ミュージシャン/バンドは発起人であるtoeのほかChara、東京事変など約70組。音楽ファイルは1ミュージシャンにつき1曲で、その多くが新曲だ。参加ミュージシャンは楽曲を無償提供しており、ストアーズも通常1980円のスタンダードプラン月額利用料を3カ月分負担する。売り上げは3.6%の決済手数料を除き、そのままライブハウスの臨時収入になる。

 参加する約300のライブハウスの1つ、東京都世田谷区にあるBASEMENTBARなど7施設を運営するTOOS Corporation(東京・世田谷)の星野秀彰統括マネジャーはこう話す。「4月1日から客を入れての営業を自粛しているので、4月の売り上げは前年同月比で95%のマイナスだ。(この支援プロジェクトの件は)知り合いに教えてもらい、『ありがたい』と参加を即決した」。なお同社が運営する7施設のうち、クラブハウスを除いた6施設が「Music Unites Against COVID-19」に参加している。

TOOS Corporationの星野秀彰統括マネジャー。応援消費プロジェクトは「知り合いに教えてもらい、『ありがたい』と参加を即決した」という
TOOS Corporationの星野秀彰統括マネジャー。応援消費プロジェクトは「知り合いに教えてもらい、『ありがたい』と参加を即決した」という

ライブハウスのデジタル変革が加速

 5月14日に緊急事態宣言は39県で解除されたが、ライブハウスなど3密を招きかねない業態は、多くの地域で営業自粛が要請されたままとなっている。

 こうした事態に、ライブハウス側もさらなる「次の一手」を模索している。前出のTOOSはアフターコロナを見据えて、自前でライブ配信に挑戦するなどデジタル活用を進める考えだ。「店を開けられるようになっても、すぐに客足が戻るとは思えない」と星野氏はみている。コロナ前に収録していた人気ミュージシャンのパフォーマンスを収録した動画を配信するなど、できるものは何でも挑戦するという。

 現在は、動画の試聴料金を無料にしたり有料にしたり、配信フォーマットを変えたりなど、いろいろと試している段階だ。「始めたばかりだが、既に世界中からアクセスがあった。実際にライブ会場へ足を運べない人にもリーチできるという点で、ネットには大きな可能性を感じている」と星野氏。

 ネットでライブ配信を楽しむ。そして、そのバンドの本当のパフォーマンスが見たくなったらライブハウスに足を運ぶ――。小規模経営が多く、ネット配信などデジタル化に出遅れていたライブハウス業界だが、コロナ禍を奇貨として、独自のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めようとしている。

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