『アフターデジタル』『アフターデジタル2』の著者であるビービット藤井保文氏の連載。『D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略』著者、Takramの佐々木康裕氏をゲストに迎えたオンラインセミナーの後編をお届けする。「ブランド=約束」という考え方から一歩進んだ、多様なステークホルダーと創発するブランドづくりのあり方とは?

ビービット 執行役員CCO兼東アジア営業責任者の藤井保文氏(左)と、Takram ディレクター/ビジネスデザイナーの佐々木康裕氏(右)
ビービット 執行役員CCO兼東アジア営業責任者の藤井保文氏(左)と、Takram ディレクター/ビジネスデザイナーの佐々木康裕氏(右)

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ビービット 藤井保文氏(以下、藤井氏) さて、続々と質問が届いています。何か興味深いものはありますか?

Takram 佐々木康裕氏(以下、佐々木氏) 「D2Cは、世界観をつくるのにお金がかかりそうな一方で、収益化が難しいように感じます。ポイントはありますか?」といただいていますね。

 世界観って、まだまだ“名うてのクリエイターに頼んでかっこいいビジュアルや店をつくること”みたいに思われています。それもありますが、あるブランドが自分にどういう価値があるかを感じ取るとき、入ってくる情報はひとつではないですよね。視覚や聴覚からの情報、テキスト情報など、いろんな世界観の展開の仕方があります。

 先日、ECサイト「北欧、暮らしの道具店」の青木耕平さんと対談する機会がありまして。青木さんの話にはいつも刺激を受けているんですが、同サイトでは例えばPodcastを継続的に使っていて、30分もの番組の聴取完了率がとても高いそうです。

 アテンションを奪い合うこの時代、各種SNSには膨大な広告があふれ、クリックされても即座に離脱されることが多い中で、時間以外のコストがほぼかからない手段でユーザーをそんなにも捉えられている。もちろん、そのための知恵を絞ることは必要ですが、お金をかけなくてもブランドの世界観を伝えられるツールはごまんとあります。そういうものを試していただけるといいんじゃないでしょうか。

藤井氏 そうですね。佐々木さんが運営されているキュレーションメディア「LOBSTERR」は、メルマガ形式ですよね。なぜ、メルマガにしたんですか?

佐々木氏 いくつかの文脈があって、ひとつはこの情報伝達速度が速い時代に「スローメディア」に興味があったんです。速い情報への疲れや、人がディスプレーから離れたがっていることなどを感じていたので、動画やSNSではなく、週に一度メールが届くだけっていうところにあえて逆張りしようかと。私自身、あまのじゃくなので(笑)。メールって1回送ると直せないので、デジタルだけど紙の雑誌っぽいところも面白いと思いました。

21年1月4日に配信された『Lobsterr Letter』vol.93:What We Think About 2021 より抜粋
21年1月4日に配信された『Lobsterr Letter』vol.93:What We Think About 2021 より抜粋

 また、Podcastも配信しています。米国を見ているとD2Cと同じように、すごくはやっているんですよね。海外でのはやりをいち早く試す、というのも自分のスタイルに合っているので、スタートしたという感じです。収録に時間はかかりますが、本当に月額1万円くらいしかかかっていない。

藤井氏 お金をかけずに、いかに世界観を実現して共感を呼ぶかは、工夫の余地がまだまだありますね。この流れで聞きたいのは、では佐々木さんは「世界観」をどうつくっているんでしょうか?

佐々木氏 超・難しい質問ですね(笑)。先ほど、自分があまのじゃくだとかスタイルだとか言いましたが、基本的には世界観とは「キャラ」だと思うんです。クリエイトするものではないし、その必要がない。

 例えば自分が「この人がすてきだな」と思うとき、その人がつくっているものに惹(ひ)かれるというより、着ている服や読んでいる本、見ている映画やよく行くお店がすてきだから、といったことが多いんじゃないでしょうか。つまり、その人が選ぶものによって、世界観はつくられるんですよね。だから「LOBSTERR」もクリエイトではなくキュレーションしている、というところもあって。

 今、D2Cというと新規ブランドが主に注目されているので、キュレーションして世界観を生み出している事例があまり挙がりませんが、今あるものの組み合わせで世界観を打ち出すこともできるし、さまざまなつくり方があると思います。最近、Spotifyでプレイリストをつくるブランドも多いですよね。受け取る側が、「お、分かってんじゃん」と感じるような。

現代のブランドに必要なのは、カルチャーをつくる力

藤井氏 ありますね、分かります。同時に、求心力が高いブランドが「これを集めたのでどうぞ」と、EC化する流れも生まれていますよね。私が『アフターデジタル2』で取り上げた中国の電気自動車メーカー「NIO」が、まさにそれ。ユーザー限定のECを提供し、旅行やホテル宿泊もサポートしてくれる。

佐々木氏 あの事例はすごく面白いと思いましたし、自分の考えも影響されました。生活を丸ごと捉え、良い体験を提供している。それがブランド側でつくっているわけではなく、ブランドの世界観と合うものをキュレーションしているという形ですよね。

 なので、行き着くところは1つでも、山の登り方が2つあるわけです。1つはオリジナルのプロダクトを軸に世界観を築くパターンと、もう1つは自分でクリエイトせずにキュレーションによって世界観をつくるパターン。

 いずれにしても、現代のブランドが何をすべきかというと、カルチャーをつくることです。文化をつくろうとするとき、自分たちが提供するプロダクトだけでは不十分なことも多いけれど、家も車もホテルもつくっていたらいつまでたっても事業が完成しないですよね。なのでコアではない部分はキュレーションして、顧客接点を増やしてデータを取得しながら関係を築いていくことが、ますます必要になると思います。

藤井氏 とても興味深いです。今のお話に近いところで、ブランドのEC化に代表されるような、ブランドへの求心力を使ったモデルはすごく強いと思っていました。

 人が集まるハブは、昔はマスメディアでした。それがPCの時代になり、検索できるポータルに皆が集まるようになった。自分のニーズがすでに発生していて、調べに行くから、そこに用意されているコンテンツはあくまで“ついでに見る”感じでした。

 対してモバイルが登場し、「ニーズがなくても毎日接点が生まれる」状況が日常になって、ロジックが変わりました。ニーズが発生して調べに行くという行動ではなく、メールが来たから返信する、移動のために乗り物に乗らないといけないからアプリを開く、といった行動になってくる。すると、いつも使っているデイリーアクティブなアプリがポータル化していく。これがつまり「スーパーアプリ」(複数のビジネスの起点になる、プラットフォーム化したアプリ)モデルですね。

 この、スーパーアプリ時代のプラットフォーマーに対するカウンターカルチャー的な側面が、ブランドのEC化にはあると思っています。同時に、メディアのEC化にもそんな側面がある。先にメディアの話をすると、例えば中国のTikTokはエンタメ動画が中心の日本のTikTokとはかなり違っていて、料理、旅行、靴や化粧品など多種多様な動画があり、化粧品なら動画の後に購買動線が張られています。しかもどこまでの動線がシームレスで短いので、好みのコンテンツを見ているうちに顕在化していないニーズに気づかされ、一瞬で買える。

佐々木氏 コミュニケーションとエンターテインメントとコマースの接続がすごくナチュラルで、シームレスですね。

藤井氏 そうなんです、これがメディアのEC化です。一方、ブランドのEC化は「このブランドが最高に好きだ、情報にいつも触れたい」と思う人がそこを訪れ、その場所を起点にSNSなりECなりに触れながら、世界観にずっと浸れる状態になる。つまり心理的シェアが増え、信頼が絶大になります。すると別にオリジナルでない商品も買うし、そこに選択の余地がない状況になる。

 ただ、メディアのEC化はひたすら見てしまうというstickinessが重要だし、ブランドのEC化ならば世界観に裏打ちされたエンゲージメントやロイヤルティーが重要になってくると思います。

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