『アフターデジタル』シリーズの著者であるビービット藤井保文氏の連載。経営共創基盤(以下、IGPI)の共同経営者である塩野誠氏との対談の第2回。米国によるTikTokの規制を予見していた塩野氏が、ビッグテックをはじめとした力を持ち過ぎるプラットフォーマーと、それに嫉妬する国家の関係を解説する。

ビービット 東アジア営業責任者の藤井保文氏(左)と、経営共創基盤(IGPI) 共同経営者/マネージングディレクターの塩野誠氏(右)。対談はリモートで行われた
ビービット 東アジア営業責任者の藤井保文氏(左)と、経営共創基盤(IGPI) 共同経営者/マネージングディレクターの塩野誠氏(右)。対談はリモートで行われた

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ビービット 藤井保文氏(以下、藤井氏) 米国によるTikTokの利用規制についても予見していたとお伺いしましたが、塩野さんからは何がどのように見えてそうお考えになっていたのですか?

IGPI 塩野誠氏(以下、塩野氏) テクノロジーが覇権に関係するということ自体は、昔から変わらないんですよね。例えばHuawei問題のときには、日本の経営者の年代では東芝ココム事件を思い出した方が多いのではないでしょうか。

 東芝ココム事件というのは、西側諸国の一員だった日本の潜水艦スクリューの加工技術が、東芝を介して当時のソ連に流れてしまい、それが安全保障上の問題になった、というものです。

 日本の半導体についても、シェアが7割を超えていた時期もあったのに、米国から数値目標を設定されて、簡単に言えば日本は米国の半導体を買う、ということになって、産業そのものが衰退していくことにつながった。

 そういう例を見て、米国という国は一定以上大きくなったものに対してはたたきにくるんだなと、思っていた年配の経営者は一定数いたと思います。それが今や、スクリューのような機械加工技術ではなく、人々のコミュニケーションに関係するテクノロジーにも及んでいるわけで。

 コミュニケーションや思考に関係していて、なおかつ物理的なインフラ、例えば海底ケーブルや5Gの基地局ですが、そういったものの上にデジタルなレイヤーが乗ってしまうと、非常にスイッチングコストが高い。しかも、本当に自分たちのインフラの元栓を握られてしまって、自分たちのコミュニケーションや思考にも関与可能である。例えば大統領選での情報操作やハッキングですね。そういったことが可能になるインフラを自国に招き入れてしまうことへの恐怖というのは、感情論としてあります。

今回の対談ゲスト:塩野 誠(しおの まこと)氏
経営共創基盤(IGPI)共同経営者
国内外で企業の戦略立案・実行のコンサルティング、M&Aアドバイザリー業務、ベンチャー/PE投資を行う。近年は北欧、バルト、ロシアでの企業投資に従事。各国のDXの事例を調査し、日本企業のコーポレートトランスフォーメーションを手がける。近著に『デジタルテクノロジーと国際政治の力学』がある。JBIC IG Partners 代表取締役CIO 、JB Nordic Ventures(Nordic Ninja)取締役、IGPIテクノロジー取締役、ニューズピックス社外取締役、ビービット社外取締役、慶應義塾大学法学部卒、ワシントン大学ロースクール法学修士。ヘルシンキ在住

藤井氏 なるほど。

塩野氏 さらに今回注目を集めたのはFacebookの仮想通貨「リブラ」です。リブラの件でマーク・ザッカーバーグが公聴会に呼ばれたとき、質問した議員が「あなたはもしかして、自分は法の上にいると思っていませんか」と言ったんですね。確かに、当時で24億人のユーザーに対していきなり自分たちの通貨を出せるというのは、それは国家と言うこともできる状態ですよね。

 通貨の発行というのはまさに国家の主権そのもの、権力そのものです。それを一民間企業が、既存の金融インフラを飛び越えていきなりつくれてしまう。そういう例を見たあとで、どうやら中国はデジタル人民元を用意しているらしいとなったときに、その窓口になるのは、TikTokでもWeChatでも、何でもいいのだと分かってしまう。そういう、一気に変えられてしまうという恐怖はあると思っていました。

藤井氏 リブラの件は……あれは2019年の6月ごろでしたよね。その2、3カ月後にデジタル人民元の話が出てきて、そういう流れがなかったら、TikTokを止めるという話にはならなかったのでしょうか。

塩野氏 すべてではないですが、その流れがあって、危機意識が一段と高まったというのはあるでしょうね。

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