著書『アフターデジタル』『アフターデジタル2』で日本企業のDXのあり方について提言を続けるビービット藤井保文氏が、先進的なDX(デジタルトランスフォーメーション)を実践している企業の経営幹部や、同じ未来を見据える識者を直撃する対談連載。1回目は、経営共創基盤(IGPI)の共同経営者で現在ヘルシンキ在住の塩野誠氏に、イノベーション先進国の北欧から見た世界の動きと、そこから日本企業が学ぶべきことについて話を聞いた。
ビービット 藤井保文氏(以下、藤井氏) 塩野さんとは、IGPIとの資本業務提携でビービットの社外取締役に就任いただいたことをきっかけにお話をさせていただくようになったんですが、その見識の広さと鋭い視点にはいつも大いに刺激をいただいています。今日は、日本企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を行っていく上でどのような考え方が必要なのか、という点が主眼になるかと思っています。どうぞよろしくお願いします。
IGPI 塩野誠氏(以下、塩野氏) こちらこそ、よろしくお願いします。
経営共創基盤(IGPI)共同経営者
藤井氏 塩野さんはヘルシンキ在住とのことですが、最初に北欧に拠点をおいている理由をお伺いできますか? 塩野さんが捉えていらっしゃる世界地図をイメージする、という意味も含めて…。
塩野氏 まず海外にいるというのは、私、IGPIと国際協力銀行(JBIC)がつくったJBIC IG Partnersというファンド運用会社で投資の責任者をやっておりまして、JBICが一緒にやっているということから、ターゲットが海外限定なんですね。
世界第3位のGDPを持つにもかかわらず、国内でいわゆる直接金融の株式投資での成長が起こりにくい日本の突破口を開かないといけない、ということがまずあって、海外現地企業への投資、あるいは日本企業への情報提供という役割も担っています。
藤井氏 なるほど。
塩野氏 それから、私個人としては2000年初頭から米西海岸のスタートアップや中国に注目していたんですが、今や彼らはとても大きな勢力になりましたよね。では地球儀を見たときに、他にどこからイノベーションや新しいテクノロジーが出てくるかというと、ソフトウエアテクノロジーで注目されているのは近年ではイスラエルなんです。
イスラエルでは軍隊で一緒だった数人で起業して、ビジネスとして形になったら米国が投資するというパターンが既にできているんですね。今やイスラエルは米西海岸のR&D部隊だと言ってもいいくらいの状況で、米西海岸とイスラエルのバリエーションが高くなってしまい、そこに日本企業が入ろうとしても「誰ですか?」状態になっていて、もう参入の時機は逃してしまったという状況なんです。
では次にイノベーションが起きているところは、と考えると、エストニアやフィンランドが挙がってくる。このあたりはSkypeやLinuxが出てきた国々ですし、特にエストニアは90年代後半にインターネット政策を非常に強化して、コロナ禍の中でも多くの行政手続きの電子化が既に完了していた国として注目されていましたね。
スウェーデン、フィンランド、エストニアといった北欧諸国は、自国市場が小さいこともあり、最初からすべてグローバルを見据えているという特徴があります。また、ノキアが立ち行かなくなったときに、解雇せざるを得ない従業員に対してノキア自体が起業支援のプログラムを提供し、それを政府が全面的に後押ししたという経緯もあって、起業家も増えました。
こういうことを踏まえると、地球儀を眺めて、まだ比較的バリエーションが低く、かつイノベーションが起きていて、日本企業が話をしたいと言ったときに聞いてくれるところ、というと北欧なんですよ。
藤井氏 北欧では、日本はどんな風に見られているんですか?
このコンテンツ・機能は有料会員限定です。