『アフターデジタル』の著者であるビービット藤井保文氏による新規連載。2回目は、「価値の共創」を掲げる丸井グループ青井浩社長に話を聞いた1回目の続きをお届けする。「オフラインのない時代に生き残る」ための経営術を先んじて実践している青井社長が藤井氏の疑問に答える。
藤井保文(以下、藤井氏) 「信用の共創」という創業者の理念をはじめ、「思い」のようなものを社内に伝え、現場に落とし込み、スピード感を持って実現するというのはなかなかできることではないと思うのですが、青井社長はどのようにされているのですか?
戦略を変えるためは、まず文化を変える
青井浩社長(以下、青井社長) 考えていることをどうやって組織として共有するか、ということで言うと、「対話の文化」をつくってきたことが大きいのではないかと思います。
時代が変わっていく中で、企業戦略を変換していかなければいけない場面というのがあると思うのですが、新しい企業戦略が機能するためには、分母にある企業文化が変わらないといけません。企業戦略がアプリケーションやソフトウエアで、企業文化がOS(オペレーティングシステム)と捉えてもいいと思います。新しいソフトを実装するためにはOSを変えなければいけない、というイメージですね。
この「古い企業文化」というのがいわゆる指示命令で、新しい文化が対話である、と考えています。この10年ほどひたすら対話の実践をしてきて、対話を通じて信用の共創も生まれるし、対話を通してオープンイノベーションも生まれてくると実感しています。
藤井氏 著書にも書いているのですが、私はアフターデジタル社会では企業が提供すべきものがバリューチェーンからバリュージャーニーに変わると考えています。
バリューチェーンの時代には、指示命令で価値あるプロダクトがつくれればそれでよかった。ただ、バリュージャーニーに変わることで、マーケティングをする人、デジタル接点を持つ人、リアル店舗にいる人、そういうすべての人が同じ価値をユーザーに提供しないといけないので、価値の定義をきちんとする必要があると思っています。
それを実現するために、これまではまず企業戦略を考えて価値を定義した上で全社に落とし込んでいく、という順番で考えていたのですが、青井社長は逆だと捉えていらっしゃることに驚きました。文化があってこそ、初めて戦略が落とし込める。そう考えていらっしゃるのですね。
青井社長 逆に言うと、多くの大企業が苦労しているのは、戦略を新しくしたのに文化が変わらないというところなのではないかと思います。
イメージとして、企業戦略の方がすぐにお金になりそうに思うのでしょう。しかし、それだけでは結果が出ないのです。なぜかと言うと、文化が変わっていないから。本当は創発的に共創すべき価値なのに、指示命令のヒエラルキー組織で進めてしまうので、食い違いが生まれてしまう。
結果として、DX(デジタルトランスフォーメーション)を掲げてやっているのに、考え方や行動が変わっていないので、ただデジタル投資が増えていくだけ、という構造に陥っているケースが多いのではないでしょうか。
藤井氏 企業も共感の時代、体験の時代と言われていますが、それは対ユーザーのビジネスサイドだけでなく、対従業員のガバナンスサイドにも当てはまるということなのだなと感じました。
対話の実践、社員食堂で若手社員からOKをもらう
藤井 私はアフターデジタルという考え方について発信をしているのですが、実はデジタルのことは言っていないのです。デジタルとリアルが融合した世界のことを話しているつもりで。
ただ、そこのところが伝わりきっていないケースも多いと実感している中で、青井社長は理解はもちろん、もう既に実現まで進んでいる。本当にすごいことだと思って拝見しています。
青井社長 僕が藤井さんのアフターデジタルで好きなのが、DXのことを言っていないところです。マインドセットと言えばよいのでしょうか。
藤井氏 私自身は、視点転換の話をしているつもりです。
青井社長 そう、視点転換ですよね。オンラインの中に入ったときのオフラインは、ただのオフラインだったときとは別のものになる、というこの仮説が面白いわけで、そのことを僕は「売らないお店」と言っています。
売らないお店というのがあるとしたらどういうことができるのだろうか、と考えているのですよ。
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