前回までで、戦略の肝である「STP(S=セグメンテーション、T=ターゲティング、P=ポジショニング)」によってニーズ基準で生活者と向き合い、ユニークな価値を設定する方法を理解いただけたと思います。今回は勉強を先に進めましょう。強いブランドを構築するためのマーケティングの歴史、そしてそこで登場した「ブランドパーパス」の概念を見ていきます。

ブランドの思いやルーツを振り返り、現在の生活ニーズや社会変化を網羅的に捉えたとき、ブランドとして社会や生活にどう貢献できるのか。改めてブランドの存在意義を捉え直そうというアプローチが「ブランドパーパス」だ(画像提供/博報堂)
ブランドの思いやルーツを振り返り、現在の生活ニーズや社会変化を網羅的に捉えたとき、ブランドとして社会や生活にどう貢献できるのか。改めてブランドの存在意義を捉え直そうというアプローチが「ブランドパーパス」だ(画像提供/博報堂)
今回学ぶマーケティング用語
「ブランドパーパス」

 マーケティングとは、「価値を創造し、製品やサービスが売れ続ける仕組みを作ること」です。その手法は、時代とともに進化し続けてきました。

 はるか昔には、工場で生み出された製品を顧客に届け、生産コストや価格を抑えて大量に販売することがマーケティングに求められるテーマでした。いわゆる「マーケティング1.0」の時代です。多くの産業は未成熟であり、新しい機能や特徴を持つ製品の登場はそれだけで生活者を魅了しました。豊かな生活を実現するための物質的なニーズをどう満たすか、具体的には「機能的価値」(製品・サービスの機能や性能が提供する価値)が重視されていた時代です。

 そして暮らしが満たされて豊かになり、生活者が十分な情報を持って製品やサービスを選別可能な時代に入ると、マーケティングは2.0へと進化しました。企業は競合と異なる価値を持つ製品を提供すべく、「セグメンテーション」や「ターゲティング」「ポジショニング」の理解に力を入れ始めます。競合関係の中で勝って選ばれ続けようと、物質的なニーズを満たすのみならず、生活者のハートをつかむために感情に訴えかける「情緒的価値」が重視されるようになります。

 そこで発展したのがデザインや世界観、パッケージなど、生活者が好む付加価値をつける「ブランディング」という概念でした。機能的価値と情緒的価値の両面でマーケティングを行う企業が増加したのです。

 その次に現れたのが「マーケティング3.0」。マーケティングの父とされるフィリップ・コトラー氏は、マーケティング3.0について「価値主導のマーケティング」だと説明しています。企業はより大きなミッションやビジョン、価値を持って社会に貢献することを目指すようになり、社会の問題に対するソリューションを提供しようとするようになりました。生活者の側も、その企業の活動を支持する価値があるのかどうか考えるように変わっていきます。高い次元で企業と生活者が共感・共創する潮流が生まれたのです。

マーケティングは歴史的に3段階に進化してきた。現在のマーケティング3.0は、高い次元で企業と生活者が共感・共創する「価値主導のマーケティング」だとされる(画像提供/博報堂)
マーケティングは歴史的に3段階に進化してきた。現在のマーケティング3.0は、高い次元で企業と生活者が共感・共創する「価値主導のマーケティング」だとされる(画像提供/博報堂)

生活者の認識する価値が「ブランド」

 ある商品やサービスは、他とは異なる価値のあるものとして生活者が識別するように活動することを、「ブランド」と呼びます。ブランドの語源は、自分と他の牧場の牛を識別するために施した焼き印だといわれています。マーケティングの世界では、原材料やスペックなど製品自体の特徴だけでなく、好意や信頼、感情などといった無形資産も含めて「生活者が認識する価値」の総称として、ブランドという用語を用います。

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