地域によりますが米国では2020年6月、劇場(映画館)の営業再開が始まりました。キャパシティーを4分の1に絞るなどソーシャルディスタンスを保った上での再開であり、ハリウッドスタジオが従来劇場のウインドーで得ていたような大きな興行収入はまだ見込めない状況です。ただ大きな一歩を踏み出したことは確かでしょう。

(写真/Shutterstock)
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 新型コロナウイルス禍によって、2020年6月までの直近4カ月間は世界中の劇場が閉鎖されていました。その間スタジオは、作品の撮影延期やブリッジローンによる資金の確保などに加えて、映画ビジネスにまつわる様々な対応をとりました。

 ウインドー戦略にまつわる主要な対応としては、まずは作品の公開延期です。『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』『ムーラン』『ゴジラVSコング』『ブラック・ウィドウ』『ワンダーウーマン1984』『TENETテネット』など、少なくとも数億ドル以上の全世界興行収入をたたき出しそうな大作が次々と公開日を後ろ倒しにしました。劇場のキャパシティーができるだけ満杯になるタイミングを見計らって公開されます。

 ウインドーの順列にも大きな動きが見られました。ウォルト・ディズニー・スタジオは新作『アルテミス・ファウル』(当初20年5月に劇場公開予定)のウインドー戦略を変更。劇場公開せず、DVDやデジタルでの販売・レンタルによるリリースもせず、自社のストリーミング型の配信サービス「ディズニープラス」を通じて6月12日に公開・配信を開始しました。

 この作品は、最近『オリエント急行殺人事件』などの作品で活躍しているシェイクスピア俳優のケネス・ブラナー氏がプロデュースしています。ティーン向けベストセラー小説シリーズを映画化したもので、新しい『ハリー・ポッターシリーズ』のような立ち位置となり得る作品としてディズニー一押しの作品です。

 ディズニーはまた、トニー賞を受賞したブロードウェーミュージカル「ハミルトン」を実写映画化した『ハミルトン』(リン=マニュエル・ミランダ氏制作)についても、当初2021年秋に劇場公開する予定だったのをアルテミス・ファウルと同様、劇場公開せずにディズニープラスで7月に公開・配信開始することを発表しました。多くのハリウッドスタジオ間で競争入札した結果勝ち取った大型作品です。

 一方、前評判が高くアニメーションを実写化した「ムーラン」については、公開日を延期して劇場で公開する予定です。このようにディズニーは、劇場から始まる従来通りのウインドーに基づく作品と、劇場自体をスキップしてストリーミングから始める新しいウインドー戦略による作品とを分け始めています。

波紋を呼んだユニバーサルCEOの発言

 ユニバーサル・ピクチャーズは、劇場が数多く閉鎖されていることを理由に3月に劇場公開を予定していた『トロールズ ワールドツアー』(邦題『トロールズ ミュージック パワー』)を「プレミアムVOD」(PVOD)と呼ばれる形で4月に同時公開しました。劇場公開したのは、米国の一部ドライブインシアターだけでした。

 PVODの特徴は、通常のデジタル方式のレンタルサービスに比べて価格が“プレミアム”な点。通常のレンタルでは新作は4~5ドル程度ですが、PVODは19ドル99セント(48時間視聴可)。デジタル方式で公開した作品としては、史上最高の初日売り上げを達成しました。さらに3週間で、1億ドルもの売り上げを上げたとユニバーサルは後に明らかにしています。

 劇場公開の場合、1カ月以内で1億ドルの興行収入を上げられれば大ヒット作品とされます。しかも劇場では売り上げの50%程度の配給収入が標準ですが、PVODなら最低でも売り上げの70%、交渉次第で80~90%の収入が見込めます。同じ1億ドルでも利益は大幅にアップするわけで、今回のトロールズ ワールドツアーのPVODによる公開は、ユニバーサルにとって大成功だったと言えます。

 成功を受けてNBCユニバーサルのCEO(最高経営責任者)ジェフ・シェル氏は、今後劇場公開と同じタイミングでPVODでも作品を公開していくと発言しました。この発言は後に大きな問題を引き起こします。実は、劇場側の反発を招き、米AMCという劇場チェーンは今後ユニバーサルの映画は一切上映させないと宣言するまでに至りました。コロナ禍の中で劇場の大部分が閉鎖されていたための例外的措置だったと静観してきた劇場にとり、今後恒常的にPVODで同時公開されてはたまったものではありません。

 今後両社は話し合いを進めるとしていますが、断絶がいつ解決するかは予断を許しません。これまでスタジオと劇場は繊細なトピックであるウインドーについては水面下で話し合ってきました。根回しなしに公の場でスタジオの上層部がウインドー戦略の変更について発言するのは極めて異例なことでした。映画業界出身ではないビジネスパーソンがどんどんスタジオの世界に入ってきて変革を促している片りんがうかがえるのではないでしょうか。

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