
ゲームの舞台は画面の中じゃない。商業施設や街が丸ごと冒険や謎解きのフィールドになる。主人公はあなただ。AR(拡張現実)ゲームで、店舗のファンを生み出そうとする取り組みが広がっている。5GやARメガネ型端末の登場で、その表現はもっとリアルに。新たなマーケ手法として注目を集めそうだ。
ある画家が思いを込めて描いた不思議な絵。秘密裏にそれらの絵を集めている財団が、展示会を開いた。特殊な塗料が使われているので、劣化を防ぐためにスマートフォンで写真を撮るのは禁止。どうしても撮影したい人は専用アプリを――。
2019年8月末から9月末にかけて東京・豊島の池袋パルコで開催されたARゲーム「あなたが動かすアート展 ~おくびょうキュリオと孤独な絵描き~」では、そんな説明を受けて各プレーヤーが参加した。各フロアに展示された絵をアプリで撮影することで飛び出してくる妖精とのふれあいや、パズル風のゲームを楽しむというものだ。開業50周年を迎えるパルコの記念イベントの1つとして実施し、約1000人が参加した。
【第2回】 独自の通信網が生む新ビジネス 「映像+ローカル5G」の潜在力
【第3回】 パルコ、ららぽーとが激変 ARゲームや5Gのロボ導入で商業施設DX ←今回はココ
【第4回】 実測で4Gの10倍だった 5G端末の主役は2画面スマホとARグラス
【第5回】5Gで仮想テレポーテーション 高速通信が生む感覚伝達のビジネス
「ARは、5Gがなければ単なるおもちゃだ」。池袋パルコのARゲームを開発したスタートアップ、ENDROLL(エンドロール、東京・渋谷)のCEO(最高経営責任者)である前元健志氏はそう話す。もちろん、これまでのように4G(LTE)を使っても、ARのゲームを作ることはでき、十分完成度の高いものを提供してきた。しかし、5Gを使えば「より人間の感覚に近い表現ができる」(前元氏)。

例えば、現実の世界で飛行機が飛んでいるとする。周辺にいる人たちは、飛行機の姿を捉え、だんだんと近づいてくる様子、機体の質感、飛行機雲のゆらぎも分かる。現在のARでは、通信のキャパシティーの問題で、そうしたリッチなイメージを全員でリアルタイムには共有できない。無理にやろうとすれば、動きがぎごちなくなる。高速大容量・低遅延・多接続の5Gなら、それが実現可能になるというわけだ。
周遊の導線でテナント認知
池袋パルコで展開したARゲームで見えてきた成果は、さまざまなフロアを移動する周遊の導線の中で、気になる売り場やテナントを発見してもらい、購買につながる可能性があること。「店内に非日常の世界を作り上げたことで、ゲームに入り込みながら、ここに何か隠れているんじゃないかと、深い興味を持って探すようになる」(前元氏)。販売につながった具体的な額は非公開だが、ゲームを通して気になるアパレルブランドのお店を発見したプレーヤーが、そのまま十万円を超える買い物をした例もあったという。将来は、導線に合わせて周囲のテナントのクーポンを配信する、といった使い方も考えられる。
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