人気タイトル『モンスターストライク』が2020年10月で7周年を迎えるミクシィ。スマートフォン向けゲームの先頭を走ってきた同タイトルも近年は市場変化の壁を感じているという。これをどう乗り越えるのか。『モンスト』事業全体を率いる執行役員の根本悠子氏に話を聞いた。
――2019年から執行役員として『モンスターストライク』(モンスト)を担当されていますが、まずは根本さんと『モンスト』の関わりを教えてください。
根本悠子氏(以下、根本氏) ローンチして半年後の14年4月からこのゲームのプロモーションやマーケティングに携わってきました。18年に事業全体に関わるマーケティング本部ができると執行役員としてそれに加わり、組織づくりに取り組みました。19年4月の組織改編で『モンスト』の事業にコミットする立場になりました。
――具体的にはどんな役割を担っていらっしゃるのでしょう。
根本氏 それまで『モンスト』に関する取り組みは、マーケティングやリアルイベント、マーチャンダイジングといった内容によって複数の組織で分担していました。しかし19年4月以降は『モンスト』に関わる全事業を1つに集約することになり、その責任者に私が就任しました。
ですからゲームプロデューサーというよりブランドの責任者というニュアンスが強いですね。『モンスト』は20年10月にリリース7周年を迎えるタイトルで、運用チームの力もついてきましたから、具体的な施策などの権限は現場に委譲しつつ、全体のかじ取りをしています。
組織で挑む『モンスト』改革
――事業責任者として『モンスト』を巡る市場をどう見ていますか。
根本氏 モバイルゲームの国内市場はかなり成熟しています。ゲーム以外のサービスとの可処分時間の奪い合いも激化しており、モバイルゲーム市場全体のアクティブユーザー数が鈍化傾向です。
モバイルゲームだけに注目すれば、家庭用ゲーム機向けのタイトルを主に出していたメーカーや海外勢の参入、FPS(First Person Shooter)やバトルロイヤル、ハイパーカジュアルといったジャンルの台頭もあります。
――確かにモバイルゲームのジャンルは多様化しています。
根本氏 スマートフォンを初めて所持する年齢はどんどん低くなっているのですが、そうした若年層が最初に選ぶゲームとして、『フォートナイト』(米エピックゲームズ)や『荒野行動』(中国ネットイース)が人気を集めています。これらはここ数年で台頭してきたモバイルとしては新しい遊び方で、モバイルゲーム市場のさらなるレッドオーシャン化を感じます。
そこで19年夏頃から、今までの流れを踏襲しつつも先々を見据えた取り組みを始めました。重視しているのはユーザーに「NEW(新しい)」をどう感じてもらうかですね。
19年夏はCM連動の大型プロモーションを実施
――具体的な施策を聞かせてください。
根本氏 1つは19年7~9月の大型プロモーションです。『モンスト』として初めて行ったステップアップ型施策で、3カ月間にわたるプロモーションとゲームを連動させ、10月の6周年イベントに向けたユーザーの熱量を上げるのが狙いでした。
テレビでは安田大サーカスのクロちゃんや俳優の永山瑛太さんらに出演していただいて「モンストプリズン」というシリーズCMを打ち、それに連動して「オーブ」というアイテムを大盤振る舞いしました。7月は毎年恒例のリアルイベント「XFLAG PARK」に合わせてオーブ100個を配布、8月は3週連続で50個以上を配布、9月はオーブ配布の代わりに新しいガチャの遊び方(アゲインガチャ)などを実施しました。
『モンスト』としてはかなり思い切った施策です。それというのも、これまでオーブの配布には慎重だったんです。ユーザーに振り向いてもらうのに効果的ではあるものの、ゲームバランスを崩す可能性がありますから。でも「今は大きく打って出るとき」と判断し、決行しました。
これらはゲームから離れた人に戻ってきてもらうための企画です。それをゲーム内で告知しても話題にはなりにくいので、テレビCMと絡めたわけです。
同時に、久しぶりにゲームに戻ってきてくれた人、新たに始めてくれた人の受け皿となる企画も展開しました。『僕のヒーローアカデミア』や『銀魂』といった人気IP(知的財産)とのコラボ、難易度を下げたステージの導入などがそうです。ちょうど夏休みで、競合のゲームだけでなく、旅行やレジャーにもユーザーの時間を奪われがちな時期だったので、かなり力を入れましたね。
――テレビCMは大々的でしたが、従来と違う取り組みなどあったのでしょうか?
根本氏 モバイルゲームに関しては、2~3年前から広告などのトレンドが変わってきていると思います。当社に限らず、各社ともCMの出稿量を減らしています。どこのゲームもそれなりに認知度が上がり、量で戦う時期は過ぎました。
特にテレビCMはアプリへの誘導が証明しにくいところがありますし、どの時間帯に流すかも含めてかなり慎重になっていました。そんな中、19年7~9月は緩急をつけながらも出稿量を増やし、リーチを伸ばす方針をとりました。
好調の陰で見落とした不調の要因
――19年第3四半期では24四半期ぶりの赤字となり、『モンスト』の売り上げ不振が要因の1つに挙げられました。
根本氏 第3四半期の赤字はオフィス移転費用の形状などによる一時的なものです。ただし、モンストの減収は事実で、ユーザー分析がこれまで不十分だったのではないかと考えています。マーケット畑の私が事業責任者になったのを機にそうした部分の改善を進めてきました。19年はそのための戦略やそれを実行する組織の見直しに掛けた1年と言っても過言ではありません。
『モンスト』はリリースから6年たちましたが、売り上げが落ちた時期もコアユーザーのプレー時間や課金額はほとんど変わっていないんです。他社のゲームもそうでしょうが、売り上げに大きく影響するのは浮遊層ともいうべきミドルユーザー、ライトユーザーの動きと、新規ユーザーの獲得です。
『モンスト』は好調な時期が長く、何らかの施策を打てばそれが響く状態がずっと続いていました。結果的にはこうした好調な時期に、浮遊層をコアなユーザーに転換できなかったこと、新規ユーザーの獲得が手薄だったことが現状の不振につながったと仮説を立てています。
コアユーザーが高い収益をもたらしてくれるのは確かでも、中長期的に考えた場合はミドルユーザー、ライトユーザー、新規ユーザーに投資していかないと全体的なユーザー数減は避けられません。新規ユーザーの獲得を怠ると初心者が入りにくい状態が加速するという面もあります。言うのは簡単で当たり前のことですが、長期運営では意外と難しい問題なんです。
今後、施策は全方位的に進めます。ただし、優先順位をつけて時期ごとに施策のターゲットを変え、1年を通したときにどんな層も楽しく遊べる状態をつくることを目指しています。
――モバイルゲームは長期間サービスが継続します。ジャンルの多様化など、市場変化への対応も必要です。
根本氏 『荒野行動』や『IdentityV 第五人格』(中国ネットイース)などの新たな流れには「お家芸を取られた」という感覚があります。13年に『モンスト』が出たときは、1人で隙間時間に遊ぶ非リアルタイム系のゲームが大半でした。そこに「友達と遊ぶ楽しさ」という視点を持ち込んだのが『モンスト』だったと自負しています。それが市場での優位性や差異化につながり、1カ月でユーザーが100万人以上増えるほどの大きな広がりを生んだわけです。
しかし今や友達と遊べるのは当たり前です。『荒野行動』などは100人同時、クラス全員どころか学年全員とだって遊べます。その結果、「友達と遊ぶ楽しさ」という『モンスト』の強みが埋もれてしまった。こうした環境の変化も影響していると思います。
強みを再確認し新規ユーザー獲得を目指す
――そんな中、『モンスト』の強みを発揮するためにはどんなことが必要でしょう。
根本氏 小中学生を中心に初めて自分のスマートフォンを持つという人が毎年、何十万人といるわけですから、その人たちに「最初に遊ぶゲーム」としていかに『モンスト』を想起してもらうかですね。
遊べば面白いと分かってもらえるのは、どんなゲームでも当然です。そのうえで、『モンスト』には6年続いてきた時間やIPの力があります。実際、ブランドイメージや認知の高さはリサーチの結果にも表れています。ただ、ここ2~3年はその強みを十分に生かせていなかった。原点に返り、「キャラクターを引っ張って弾き飛ばして遊ぶシンプルなゲーム性」や「友達と一緒にプレーして盛り上がる」面白さを改めて打ち出していきたいと思います。
また、長く続いてきたからこそ、ユーザーの経験にリンクできるという強みもあると思っています。「お兄ちゃんやお姉ちゃん、お父さんが楽しそうに遊んでいたな」という記憶が、遊んでみたいという気持ちを後押ししてくれることもあるんじゃないでしょうか。
ブレイク前に目を付けた「鬼滅の刃」
――『モンスト』というとコラボが盛んですが、20年2月の「鬼滅の刃」とのコラボは大成功でしたね。
根本氏 実はこの企画が持ち上がったのは「鬼滅の刃」の人気に火がつく前の段階で、明確な勝算があっての判断ではありませんでした。それでもコラボを決めた理由は、先に触れた「NEW」という要素です。「鬼滅の刃」はその時点でどことも大きなコラボをしていない、手つかずの作品でした。その点に賭けたら、賭けに勝ったという感じです。
コラボと「鬼滅の刃」ブレイクのタイミングがぴったり合ったことはもちろんですが、それ以前に友達と共闘して敵を倒す『モンスト』のゲームデザインと「鬼滅の刃」の世界観がマッチしたことが成功の理由だと思っています。
この成功には、私だけでなく現場も「コミットしてよかった」という思いがあるでしょう。判断の軸に「NEW」を置くことで、仮にうまくいかなかったとしても新しいことを始められた、そこに学びがあるはずだと考えていましたが、組織が変わったタイミングで実績を積めたことはよかったですね。
――今後についてはいかがですか。
根本氏 20年の施策や戦略も考えていますが、新型コロナウイルス感染症が世界的に流行している今は何とも言い難い状況です。ただ、イベントにしろキャンペーンにしろ、その逆風を最小限に食い止めつつ、別の形でユーザーにとっての「NEW」を生み出せるバックアッププランを考えていくことが大事だと思っています。
今は外出を自粛すべきときなので家にいる時間を楽しめるよう、16年に公開されたモンスト初の劇場用アニメ『モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ』の期間限定、無料配信をYouTubeで実施したり、ニンテンドー3DS版の『モンスト』を期間限定で100円でダウンロード販売したりもしました。外に出られないことで鬱々とする気持ちを少しでも払拭してもらえたらいいですね。
『モンスト』は家にいながらも遊ぶことができるので、それを生かせる取り組みを矢継ぎ早に展開していくのが喫緊の課題です。当社の戦略としても社会的な意義としても取り組むべきことだと考えています。
ミクシィ 執行役員モンスト事業本部長
(写真/志田彩香、写真提供/ミクシィ)