アジア圏で「三國志」シリーズのIPを活用し、ビジネスを展開するコーエーテクモゲームス。「ペルソナ」や「ONE PIECE」などの他社IPの新作もセールスは順調だ。その一方、社内では新社屋への移転、新型コロナウイルス対策でテレワーク体制も整えつつある。鯉沼久史社長が考える2020年とは。
アジア圏で進む「三國志」シリーズのIP活用
――まず2019年度の振り返りからお願いします。20年3月期の第3四半期までは非常に好調でしたね。
鯉沼社長(以下、鯉沼氏) そうですね。全てうまくいっているというわけでもないのですが、いい方向には進んでいると思います。
例えば、20年1月にリリースした『三國志14』では、海外でのセールスが今までとは比べものにならないくらい成長してきています。逆に言えば、日本ではそれほど目立てていないということかなと思うほどです。それほど海外、特にアジア圏で非常に強いタイトルになってきているのは確かです。
――アジア圏とは国で言えば中国ですか。
鯉沼氏 中国を中心としたアジア圏ですね。あとは、今までゲームで遊ぶことが少なかった国でも市場が広がってきました。中国マーケットは非常に力強さがありますが、東南アジアも含めて全体的に底上げされてきていると感じた1年でした。
突出してよかったのは、5、6年前から進めていたIP(知的財産)を活用した事業です。当社のIPを貸し出して、海外のゲーム会社が制作するというスキームに、非常に手応えを感じました。IPライセンス関連の売り上げが、会社全体の業績をカバーしてくれた印象です。
――IP活用で成功しているタイトルは何ですか。
鯉沼氏 19年9月から中国国内向けのスマートフォンタイトルとして、アリババ系列のAligamesから『三国志・戦略版』を展開しています。17年度にリリースした『三国志2017』(運営は中国Shanghai TCI Network Technologyおよび中国Beijing Star World Technology)も好調でしたが、そのときと比較にならないほどのヒット作になりました。
このように、いろいろなゲーム会社とIP利用の許諾契約を進めています。既に20年以降のリリース予定が決まっているゲームもあるので、期待しています。
『三国志・戦略版』成功の理由
――『三国志2017』と『三国志・戦略版』のときで御社の役割に違いはありますか。
鯉沼氏 ほぼ同じです。タイトルの内容を監修し、必要なら意見を言わせていただく立場です。ただ、今後は座組みが今までとは異なるもの、さらに踏み込んでパートナー企業と一緒に開発するようなものも出てきます。こうした取り組みがうまくいけば、また役割が変わってくると考えています。
――御社から見て、中国系のゲーム開発会社は会社によって社風や方法論が違うものですか。
鯉沼氏 同じ中国の企業でも会社ごとにカルチャーの違いは感じます。ただ、アジア系のスタジオの力強さというか、成長の早さは共通で実感しています。開発者のレベルがグングン上がってきていますから、一昔前なら言葉で伝えても理解してもらえなかったことが伝わるようになってきました。あうんの呼吸じゃないですが、我々の伝えたいことがすぐ伝わりますし、日本のゲーム会社と変わらなくなってきました。
――『三国志・戦略版』が成功している理由は何でしょうか。
鯉沼氏 やはり中国マーケットの特徴を一番分かっているのは中国の企業だということでしょうか。中国人のカルチャーや、嗜好を理解したゲーム運営になっていますし、ゲームユーザーのモチベーションに訴えるのがうまいと感じます。そして、単純に市場規模がものすごく大きい。「中国市場で成功する、というのはこういうことか」と肌で感じられましたし、とても勉強になりました。
――中国ユーザーのモチベーションについて、一番象徴的な例を教えていただけますか。
鯉沼氏 そうですね。日本は多分おみくじや宝くじの文化だと思うんです。「くじを引いて、当たるとうれしい」という文化。自分の運を試す、自分自身との戦いがモチベーションになる文化とも言えます。
一方、中国のゲームファンのモチベーションは「いかに人より上に立つか」。「人よりどれだけ上に行けるか」という目標があって、そのために動く。だから、課金アイテムで解決できるなら課金して人の上に立ちたい、という行動に出やすいのではないかと感じています。
誤解していただきたくないので申し上げますが、『三国志・戦略版』が、ゲーム内課金をあおるような設計になっているということではないです。むしろ、他のゲームに比べると課金をしなくても楽しめるようになっています。お金を使うだけで勝てるゲーム“ではない”ことがはっきりしているから、頭を使って戦略が楽しめる、と人気になっているわけです。
――世界的に見ると、日本のゲームファンの嗜好のほうが他と違うんでしょうか。
鯉沼氏 日本と中国でこれだけアプリが相互に乗り入れ、プレーできるようになってくると、そうしたモチベーション部分もちょっとずつマージされる気はします。日本人でも「何が何でも勝ちたい」という人たちもいらっしゃいますし、反対に中国でもくじ的なものに魅力を感じている人もいるようです。
世界中のゲームマーケットがより成熟することで、そのうちグローバルスタンダードな文化ができるのかなと感じています。欧米のマーケットでも日本や中国のタイトルがいくつか上位に入ってきていますしね。日本料理がグローバル化していくのと、似た動きなのではないでしょうか。