『バイオハザード RE:2』『モンスターハンターワールド:アイスボーン』とヒットが続くカプコン。2020年9月4日にはハリウッドで製作された実写映画も日米で同時公開される。ゲームで蓄積したユーザーデータを連動させ、マーケティングの相乗効果を狙うという同社の辻本春弘社長に話を聞いた。

カプコンの辻本春弘社長
カプコンの辻本春弘社長

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実写映画はカプコンの手でヒットさせる

――2020年、カプコンの注目タイトルについて教えてください。

辻本春弘社長(以下、辻本氏) 20年2月14日に発売した『ストリートファイターV チャンピオンエディション』は、eスポーツ効果もあって良い数字が上がってきています。そして、データ分析とその活用で今までより一歩踏み込むために、eスポーツ事業とコンテンツを販売する部門との戦略的融合を進めています。eスポーツはここ数年力を入れていて、その盛り上げも大事ですが、同時に見据えておくべきことは、eスポーツを推進することで月間ユーザー数が国ごとにどれくらい増えるか、それにセールスをどのように連動させられるかです。これは20年にやるべき課題です。

『ストリートファイターV チャンピオンエディション』(c) CAPCOM U.S.A., INC. 2016, 2020 ALL RIGHTS RESERVED.
『ストリートファイターV チャンピオンエディション』(c) CAPCOM U.S.A., INC. 2016, 2020 ALL RIGHTS RESERVED.

 現在公表している20年の戦略的タイトルは、4月3日発売の『バイオハザード RE:3』(以下、RE:3)です。19年1月発売の『バイオハザード RE:2』(以下、RE:2)は600万本販売し、データの蓄積も進みました。前回ご説明したように価格戦略も奏功し、年末商戦では想定以上の結果を残すことができました(関連記事「カプコンがデータドリブンを加速 新作なしでも年末商戦は最高益」)。この成功体験を『RE:3』でどう生かすかが、この先のテーマです。

 『RE:2』で1つの結果を出したわけですし、マーケティングやプロモーションをはじめ、さまざまな施策の時期や顧客の反応についても既に数値化されています。『RE:3』では今まで以上の結果を得るため、戦略的に取り組むことが重要です。もしうまくいかなかったとしても、次にデータが蓄積されるのですから。

『バイオハザード RE:3』(c) CAPCOM CO., LTD. 1999, 2020 ALL RIGHTS RESERVED.
『バイオハザード RE:3』(c) CAPCOM CO., LTD. 1999, 2020 ALL RIGHTS RESERVED.

――ゲーム以外にも、20年は大きなトピックがありますね。

辻本氏 『モンスターハンター』の実写映画が、20年9月4日に日米同時公開される予定です。これを自分たちの手でもヒットさせたいと思っています。

実写映画「モンスターハンター」(c) CONSTANTIN FILM Production Services GmbH
実写映画「モンスターハンター」(c) CONSTANTIN FILM Production Services GmbH

――自分たちの手でも……とは、どういう意味でしょうか。

辻本氏 映画「バイオハザード」シリーズはドイツのコンスタンティン・フィルムが製作し、おかげさまで大ヒットしました。それにより当社の「バイオハザード」ブランドが浸透し、世界で知名度が大きく向上しました。第5作(『バイオハザードV リトリビューション』)、第6作(『バイオハザード:ザ・ファイナル』)あたりから、ゲームの発売を映画の公開に合わせたり、DVD発売の際には、共同でマーケティングも展開したりしました。

 しかし今回は少し異なる対応が必要です。『モンスターハンター:ワールド』に関しては、既に世界200以上の国や地域の1500万ユーザーの統計的なデータをカプコンは持っています。この統計データを参考に効率的なマーケティングになるよう相乗効果の最大化を図ります。

――ゲームユーザーの統計データを映画のプロモーションの参考にするということですか?

辻本氏 19年末、ハリウッドで完パケ前の『モンスターハンター』を見た際、コンスタンティンの社長と米スクリーン・ジェムズの責任者に「本作は『モンスターハンター』初の映画だから、ぜひとも成功させたい」と訴えました。それには、ゲームユーザーの傾向を統計、分析した結果を参考にしてもらいたい、と。デジタル戦略では、データの大きさ、量が肝なのです。デジタルでイノベーションを起こしている企業は、どこも膨大なデータを活用しています。

 映画会社がゲームをヒットさせる、映画をゲームにしてヒットさせるといった事例はこれまでもありました。今回はゲーム会社が統計、分析した結果を参考にしていただき、映画のヒットに貢献できるようチャレンジするのです。これがうまくいけば非常にユニークですし、さまざまな業界との付き合い方も変わっていくでしょう。2020年は次のステージを目指したい。幸いなことにドイツは「バイオハザード」から関係の続いているコンスタンティン、日本は東宝、中国はテンセント、それ以外はソニー・ピクチャーズ エンタテインメントと、ゲームともつながりのある配給会社が関わっています。

eスポーツ拡大のカギは「女性プレーヤー」にあり

――ここ数年、eスポーツ事業への傾注が見られましたが、その進展はいかがでしょうか。

辻本氏 これまでeスポーツは米国中心でしたが、国内最大級の展示会である東京ゲームショウ(TGS)で、18年に「CAPCOM Pro Tour ジャパンプレミア」、19年にはさらに拡大して「CAPCOM Pro Tour アジアプレミア」を主催することができ、ファンの意識の高まりを感じています。加えて19年は、大会への参加人数を増やしてeスポーツの裾野を広げるため、個人戦が主流だった「ストリートファイター」の新たな流れとして、3人1組のチーム戦「ストリートファイターリーグ」を創設しました。

2019年9月15日にTGS2019内で開催された「CAPCOM Pro Tour 2019 アジアプレミア」(c) CAPCOM U.S.A., INC. 2016, 2018 ALL RIGHTS RESERVED.
2019年9月15日にTGS2019内で開催された「CAPCOM Pro Tour 2019 アジアプレミア」(c) CAPCOM U.S.A., INC. 2016, 2018 ALL RIGHTS RESERVED.

 20年の目標は女性プレーヤーを拡大させることです。そのためのトーナメントを計画しています。eスポーツはプレーヤーの性別や年齢など関係ないのですが、あえて女性に絞る理由は、女性の大会参加率にまだまだ伸びしろがあると考えているからです。カプコンはeスポーツを興行として捉えていますから、参加者の障壁を下げる努力を怠ってはいけません。女性だけのトーナメントで腕を磨き、ランキングが上がって世界最高峰の大会である「Capcom Cup」に参戦するとなれば、それは女性たちにとって1つの夢になると思います。

――これまで注力されてきて、興行としてのeスポーツに手応えはありましたか。

辻本氏 19年3月に「ストリートファイターリーグ powered by RAGE」の決勝大会を約500人規模の集客で開催しました。チケットは半分をスポンサーやメディア向けの営業関係者用として、残りの半分を一般向けとして有料で販売し、無事完売しました。それではまだ興行としては成り立ちませんが、非常に盛り上がりました。

 続く19年12月の「ストリートファイターリーグ:Pro-JP operated by RAGE グランドファイナル」では約300人分が完売。入場料以外の収益を生むため、アルコール類の販売や物販も行いました。そうしたデータを次につなげようとしている段階です。スポンサー集めなどで営業をかけていますが、よりさまざまな企業から興味を持っていただくにはまだまだアピールが必要です。プロ野球やJリーグに比べれば道のりは長いですが、着実に進めていくことが重要だと思っていますので、全く焦ってはいません。

2019年12月1日にクラブeX(東京・港)で開催された「ストリートファイターリーグ:Pro-JP operated by RAGE グランドファイナル」(c) CAPCOM U.S.A., INC. 2016, 2018 ALL RIGHTS RESERVED.
2019年12月1日にクラブeX(東京・港)で開催された「ストリートファイターリーグ:Pro-JP operated by RAGE グランドファイナル」(c) CAPCOM U.S.A., INC. 2016, 2018 ALL RIGHTS RESERVED.

――最後にこの連載のタイトルに絡み、ゲームビジネスの“進化”について何か一言いただけますか。

辻本氏 ゲーム会社はこれまで各ゲーム機の普及台数を踏まえながら、各タイトルのセールスを計画してきました。デジタル化が進み、PCやスマートフォンといったデバイスが加わってゲーム人口が拡大している今、タイトルの伸びしろはさらに広がっています。ユーザーがどのデバイスで遊ぶかは関係なくなり始めています。プラットフォームの動向を気にしてビジネスを展開するのではなく、自分たちで市場を開拓し、形成していく時代なのです。

 これは発想の転換で、そちらのほうが面白い。だから『モンスターハンター』の映画でも、映画会社がどうするかではなく、「成功させるために我々がどうするか」に取り組んでいるのです。ゲームビジネスは従来色々なことにとらわれていましたが、カプコンは新たな発想の扉を開きつつあり、業界を巻き込みながら進化していこうと決意しています。

辻本 春弘(つじもと はるひろ)氏
カプコン 代表取締役社長 最高執行責任者(COO)
1964年、大阪府生まれ。大学在学中よりアルバイトとしてカプコンで働き始め、機器の修理などの現場業務の経験を積む。87年、大学卒業と同時にカプコンに入社。当時の新規事業だったアミューズメント施設運営事業の立ち上げに参加し、業界ナンバーワンの高収益ビジネスモデルの確立に貢献。97年には取締役に就任し、以後は家庭用ゲームソフト事業の強化に注力。常務取締役(99年~)、専務取締役(2001年~)を経て、04年からは全社的構造改革の執行責任者として、コンシューマー用ゲームソフト事業の組織改革(開発・営業・マーケティングを一体化した組織への改革)、海外事業の拡大などに携わる。06年に副社長執行役員となり事業全体を統括。07年7月には創業者である父・辻本憲三(現、代表取締役会長最高経営責任者)から社長職を引き継ぎ、代表取締役社長 最高執行責任者(COO)に就任し、現在に至る

「東京ゲームショウ2020」公式サイトはこちら

(写真/稲垣純也、写真提供/カプコン)