『バイオハザード RE:2』『モンスターハンターワールド:アイスボーン』とヒットが続くカプコン。デジタル戦略が加速し、蓄積したデータのマーケティング活用が着実に実を結ぶ。データドリブンを強める辻本春弘社長の狙いとは。

カプコンの辻本春弘社長
カプコンの辻本春弘社長

マーケデータの収集が一気に進んだ2019年

――最初に、カプコンにとって2019年はどのような1年でしたか。

辻本春弘社長(以下、辻本氏) 19年は1月に『バイオハザード RE:2』(以下、RE:2)、3月に『デビル メイ クライ 5』を発売し、さらに9月に『モンスターハンター:ワールド』(以下、ワールド)の大型拡張コンテンツである『モンスターハンターワールド:アイスボーン』(以下、アイスボーン)を、デジタル販売を中心にリリースしました。

『バイオハザード RE:2』(c)CAPCOM CO., LTD. 1998, 2019 ALL RIGHTS RESERVED.
『バイオハザード RE:2』(c)CAPCOM CO., LTD. 1998, 2019 ALL RIGHTS RESERVED.
『デビル メイ クライ 5』(c)CAPCOM CO., LTD. 2019 ALL RIGHTS RESERVED.
『デビル メイ クライ 5』(c)CAPCOM CO., LTD. 2019 ALL RIGHTS RESERVED.
『モンスターハンターワールド:アイスボーン』(c)CAPCOM CO., LTD. 2018, 2019 ALL RIGHTS RESERVED.
『モンスターハンターワールド:アイスボーン』(c)CAPCOM CO., LTD. 2018, 2019 ALL RIGHTS RESERVED.

 カプコンは数年前から全社を挙げてデジタル戦略に取り組んでおり、19年はこれらコンテンツのデジタル販売を通してデータ収集に注力しました。現在、カプコンがコンテンツを販売している世界の国と地域は200以上に及び、PlayStation4(PS4)やXbox One、PCなどのプラットフォームごとに、今まで判明していなかったような興味深いデータが入手できるようになりました。

 17年1月発売の『バイオハザード7 レジデント イービル』以降、店頭のセルスルー(販売本数)と在庫状況、そしてデジタル販売のダウンロード状況を見ながら、コンテンツの動向を分析できるよう指標の数値化に力を入れてきました。

 従来は販売店から得られる実売データだけを手掛かりに保守的な価格戦略を取らざるを得ないこともあり、その結果、収益ロスが生じることがありました。20年3月期時点では、コンシューマータイトルにおけるカプコンのダウンロード販売の比率は、本数・売上高ともに7割を超えており、デジタル化の推進でこうした問題もクリアしつつ、販売動向に応じて的確な事業運営ができるようになりました。こうした変化によって、パッケージ版についても適切な数量で出荷可能となり、積極的な価格施策を講じることができます。

――価格戦略など、データ重視のアプローチやデジタル販売の推進で成果のあった、具体的な事例について教えてください。

辻本氏 今回の年末商戦で確信したのですが、これまで欧米で「ブラックフライデー(感謝祭翌日の金曜日)」や「サイバーマンデー(感謝祭の翌週の月曜日)」は、それほど意識していませんでした。しかし今回は戦略的にダウンロード版の価格を下げた結果、この期に新作がなかったにもかかわらず過去最高益を達成することができました。

 20年3月期第3四半期の業績として、『アイスボーン』の寄与に加えて、これまで蓄積した販売データや他社の数字、「割引セール」に対する消費者の期待値などを基に、ブラックフライデーやサイバーマンデーの年末商戦の時期にどれくらいの値引き率が必要かをはじき出して価格に反映したことが、『RE:2』や『デビル メイ クライ5』などのカタログタイトル販売の大きな収穫につながったのです。この価格戦略の手応えによって、蓄積したデータを今後のマーケティングに活用できる時期が来たと思っています。

――17年はパッケージの売上比率が6割以上とまだ高かったのに、20年3月期時点では逆転し、ダウンロード売り上げが7割以上となりました。ここまで一気にデジタルに振れた理由をどうお考えですか。

辻本氏 消費者の意識がデジタルシフトしているためではないでしょうか。さらにゲームのプラットフォームにおけるPCの存在が大きくなってきたことも要因の1つでしょう。カプコンはこれまで家庭用ゲーム機を中心にビジネスを展開し、PCはやや副次的な扱いでした。

 しかしデジタル戦略を推進する上で、PCもメインプラットフォームの1つと位置付け、戦略的に展開することに決めたのです。デジタル化を進めていく中で、家庭用ゲーム機以外でゲームを楽しんでいる国や地域、市場の広がりを実感しました。こうしたPC戦略の強化が、ダウンロード販売比率の上昇につながったのだと思います。

 家庭用ゲーム機は約5年おきに新ハードが発売されています。一方、PCは比較的短い期間で新しいCPUやグラフィックボードが登場し、アップグレードしています。つまりPCに対応することで、常に最先端のデバイス企業と関係を持ち、知見が蓄積されていくのです。その結果、次世代プラットフォームのゲーム開発もスムーズになるというメリットもPC戦略に注力する大切な要素と言えます。

――この勢いだと、パッケージ販売は縮小傾向になるでしょうか? こうしたデジタル販売拡大の流れはどこまで進むと思いますか。

辻本氏 まだ通信インフラの整っていない国や地域がありますし、パッケージ販売を中心に展開する地域もあるでしょう。いかに多くの人たちにカプコンのゲームを遊んでもらうかという点を考えれば、当面パッケージとの併売は不可欠です。

 また、ダウンロード販売には決済の問題もあります。クレジットカード保有者の割合が低い地域もあるので、デジタル化を推進していくにはカード以外の決済方法を考えなくてはなりません。ただ、全体として見れば、当社の想定以上にダウンロードでゲームをプレーする時代へと進展していると思います。

ユーザーとの対話機会を設けることはメーカーとして当然

――デジタル戦略で重要なのが、ユーザー属性の把握と関連データのマーケティング活用だと思います。その点について進展はありましたか。

辻本氏 この1年でユーザー属性に関するデータを多く蓄積できましたが、その活用手法をまだ社内に落とし込めていません。まさに今取り組んでいる段階です。20年度中にはデータ活用のベースが出来上がるでしょう。

 今回ユーザー動向に関するデータで特に着目したのは、『ワールド』における『アイスボーン』の購入率です。例えば日本の場合は『ワールド』のユーザーの7割が『アイスボーン』を購入すると計画に織り込んでいました。しかし『アイスボーン』は『ワールド』のシナリオ部分のクリアを前提とした拡張コンテンツですから、買ってもらうにはユーザーに強いモチベーションが生じなくてはなりません。

 『ワールド』を購入したうえで、ある程度ゲームをやり込んでいなければ、『アイスボーン』を購入してもその面白さを存分に味わえないということがあります。結果的に購入率は現時点で計画に届いておらず、引き続き長期的な販売に向けたプロモーション活動を実施しています。

 ここから得られる課題は2つあります。1つは『ワールド』のクリア率をどう高めるか。もう1つがクリアした人の『アイスボーン』の購入率をどう高めるかです。クリア率などのデータは、今なら分かります。現在も『ワールド』と『アイスボーン』を販売しながら、こうした点をKPI(成果指標)としてチェックし続けています。

 例えばクリア率を上げるため、開発チームはどのようなダウンロードコンテンツを投入すべきか。マーケティングチームはクリアしたユーザーに対してどのようなプロモーションを展開し、購入につなげるかといったことです。こうしたアプローチは国や地域ごとに異なるので、各数値をどう高めるかそれぞれ分析しなくてはなりません。SNSによる情報配信など、ユーザーとのコミュニケーションを図りながら、最適な方法を探っています。

――販売面におけるデジタル戦略が、次のステップに移行していますね。

辻本氏 デジタルはあくまで手法です。ゲームメーカーとして、ユーザーの反応を見ながらその方々の不満を解消し、より品質の高いコンテンツを提供することが大切なのです。なぜ買ってもらえないのか、なぜ喜んでもらえているのか、それを分析して次につなげるためにカプコンはユーザーのデータを収集しているのであって、それがデジタルであることの本質です。

 デジタルならユーザーが不満を抱えていても、パッチで対応すれば次回作まで我慢してもらう必要はありません。すぐ対応できない不具合でも、まずはネットで対応予定日だけでもご案内する。デジタルの時代、ユーザーとの対話機会を設けることはメーカーとして当然のことと言えるでしょう。

 現在、これほどまでデジタル販売の構成比率が上がってきたことで、1つのステップは達成したと言えます。これをさらにグローバルに広げ、いかにより多くのお客さんに購入していただくかが次のステップですね。

カプコン代表取締役社長 最高執行責任者(COO)の辻本春弘氏
カプコン代表取締役社長 最高執行責任者(COO)の辻本春弘氏
辻本 春弘(つじもと はるひろ)氏
カプコン 代表取締役社長 最高執行責任者(COO)
1964年、大阪府生まれ。大学在学中よりアルバイトとしてカプコンで働き始め、機器の修理などの現場業務の経験を積む。87年、大学卒業と同時にカプコンに入社。当時の新規事業だったアミューズメント施設運営事業の立ち上げに参加し、業界ナンバーワンの高収益ビジネスモデルの確立に貢献。97年には取締役に就任し、以後は家庭用ゲームソフト事業の強化に注力。常務取締役(99年~)、専務取締役(2001年~)を経て、04年からは全社的構造改革の執行責任者として、コンシューマー用ゲームソフト事業の組織改革(開発・営業・マーケティングを一体化した組織への改革)、海外事業の拡大などに携わる。06年に副社長執行役員となり事業全体を統括。07年7月には創業者である父・辻本憲三(現、代表取締役会長最高経営責任者)から社長職を引き継ぎ、代表取締役社長 最高執行責任者(COO)に就任し、現在に至る

※次回「『モンハン』ハリウッド実写化 マーケティングの相乗効果が狙い」に続きます。

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(写真/稲垣純也、写真提供/カプコン)