ユーザーとの対話機会を設けることはメーカーとして当然
――デジタル戦略で重要なのが、ユーザー属性の把握と関連データのマーケティング活用だと思います。その点について進展はありましたか。
辻本氏 この1年でユーザー属性に関するデータを多く蓄積できましたが、その活用手法をまだ社内に落とし込めていません。まさに今取り組んでいる段階です。20年度中にはデータ活用のベースが出来上がるでしょう。
今回ユーザー動向に関するデータで特に着目したのは、『ワールド』における『アイスボーン』の購入率です。例えば日本の場合は『ワールド』のユーザーの7割が『アイスボーン』を購入すると計画に織り込んでいました。しかし『アイスボーン』は『ワールド』のシナリオ部分のクリアを前提とした拡張コンテンツですから、買ってもらうにはユーザーに強いモチベーションが生じなくてはなりません。
『ワールド』を購入したうえで、ある程度ゲームをやり込んでいなければ、『アイスボーン』を購入してもその面白さを存分に味わえないということがあります。結果的に購入率は現時点で計画に届いておらず、引き続き長期的な販売に向けたプロモーション活動を実施しています。
ここから得られる課題は2つあります。1つは『ワールド』のクリア率をどう高めるか。もう1つがクリアした人の『アイスボーン』の購入率をどう高めるかです。クリア率などのデータは、今なら分かります。現在も『ワールド』と『アイスボーン』を販売しながら、こうした点をKPI(成果指標)としてチェックし続けています。
例えばクリア率を上げるため、開発チームはどのようなダウンロードコンテンツを投入すべきか。マーケティングチームはクリアしたユーザーに対してどのようなプロモーションを展開し、購入につなげるかといったことです。こうしたアプローチは国や地域ごとに異なるので、各数値をどう高めるかそれぞれ分析しなくてはなりません。SNSによる情報配信など、ユーザーとのコミュニケーションを図りながら、最適な方法を探っています。
――販売面におけるデジタル戦略が、次のステップに移行していますね。
辻本氏 デジタルはあくまで手法です。ゲームメーカーとして、ユーザーの反応を見ながらその方々の不満を解消し、より品質の高いコンテンツを提供することが大切なのです。なぜ買ってもらえないのか、なぜ喜んでもらえているのか、それを分析して次につなげるためにカプコンはユーザーのデータを収集しているのであって、それがデジタルであることの本質です。
デジタルならユーザーが不満を抱えていても、パッチで対応すれば次回作まで我慢してもらう必要はありません。すぐ対応できない不具合でも、まずはネットで対応予定日だけでもご案内する。デジタルの時代、ユーザーとの対話機会を設けることはメーカーとして当然のことと言えるでしょう。
現在、これほどまでデジタル販売の構成比率が上がってきたことで、1つのステップは達成したと言えます。これをさらにグローバルに広げ、いかにより多くのお客さんに購入していただくかが次のステップですね。
カプコン 代表取締役社長 最高執行責任者(COO)
※次回「『モンハン』ハリウッド実写化 マーケティングの相乗効果が狙い」に続きます。
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(写真/稲垣純也、写真提供/カプコン)