NTT東日本がeスポーツを専業とする子会社「NTTe-Sports」を2020年1月31日に設立した(関連記事「NTT東がeスポーツ新会社 インフラ支援で地方大会開催を後押し」)。同社が持つ通信ネットワークやICT技術を軸に、eスポーツビジネスを企画、運営していく。「かげっち」の名で活躍する対戦格闘ゲームの有名プレーヤーであり、新会社設立の一端を担った影澤潤一副社長に今後の展開を聞いた。
――まずはNTT東日本がeスポーツ事業への参入を検討した経緯や影澤さんがその事業に抜擢(ばってき)された理由を教えてください。
影澤潤一氏(以下、影澤氏) NTT東日本のeスポーツ事業については、同社の井上福造社長が2019年1月の「SankeiBiz」のインタビューで語ったのが最初だと思います。注目分野としてeスポーツを挙げ、「有名プレーヤーもいるのでeスポーツを事業化させようかとも思っている」と発言しました。その時点では、自分のこととは思いませんでしたが、どうやら私のことだと後から聞かされました。
イベントを機に「かげっち」とばれた
――影澤さんは、対戦格闘ゲーム「ストリートファイター」シリーズで「かげっち」という名で知られる有名プレーヤーですからね。
影澤氏 プレーヤーとしてはだいぶ前に一線を退いて、イベントオーガナイザーとしての活動のほうが長いですけどね。当時私の仕事はNTT東日本における新規事業の検討で、幹部層からのオーダーで様々な分野の調査を進めていました。18年のことです。そこにはRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)や働き方改革、自動車の自動運転技術などと並んで、eスポーツが入っていました。ただその時は、数ある調査項目の1つであって、NTT東日本が本気でeスポーツを手掛けるとは考えていませんでした。
その後、eスポーツが勢いづいてきたころに、私がかなり詳しいということが社内にばれたんです。仕事でeスポーツイベントに視察に行ったときのことですが、プロ選手やメーカー、イベント運営の方たちが私を見かけて挨拶してくれるんですよ。当時、ゲーム関係の方々は私がNTT東日本の社員であることは知りませんし、視察で来ていることももちろん知りませんでした。だから、普通に遊びに来ているんだと思って声を掛けてくれる。それを見た同行の上司や同僚に「お前、何者だ?」と言われて、その様子が社長の耳に入ったようです。
――それが19年1月の井上社長の発言につながるんですね。
影澤氏 社長の大きな方針として「通信から非通信へ」というものがありましたし、状況的にICTと親和性が高いeスポーツに取り組むのは非常によかったと思います。ただ、展開はかなり早いですね。
事業化に向けた実績作りとして、19年3月に東京・秋葉原で行われた「ストリートファイターリーグ powered by RAGE」にICTサプライヤーとして参加し、NTT東日本の閉域網(フレッツ網)とパブリッククラウド、地方の局舎ビルなどを使い、高速低遅延の通信を生かしたサービスを展開しました(関連記事「NTT東日本がeスポーツに参画 地方大会向けシステム提供に商機」)。
NTTグループの命題である地域活性化に取り組むには、NTT東日本としてよりも子会社のほうがいい側面もあるんです。子会社のほうが地域や他のNTTグループと連携が取りやすく、全国展開や事業展開がしやすいんですよ。
地方では今、思った以上にeスポーツへの関心が高まっています。そんなときも、事業主体が「NTT東日本」だとどこに話を持っていけば分からない。「NTTe-Sports」ならば社名も扱う業態もeスポーツそのものなので、門をたたきやすいと思います。
企画立案や許諾でも自治体や地方企業をサポート
――NTTe-Sportsとして、実際にはどのような事業を行うのでしょうか。
影澤氏 先ほど地方でeスポーツの関心が高まっているという話をしましたが、地方自治体の場合、eスポーツに取り組んでみたいと思っても、どうすればいいか分からないというところは多いと思います。
そこで、まずは地域課題をeスポーツでどう解決するかを一緒に考えます。コンサルティングを進めていく上で、仮にeスポーツがマッチしないことがあれば、そのときはNTTグループ間の連携でeスポーツ以外のソリューションを提案することもあるでしょう。
イメージしやすい事業例はイベントソリューションでしょうか。タイトル選びやイベントコンセプト、ICTを活用した新しいイベントシーンをお客様とコミュニケーションを取りながらワンストップで提案、提供していきます。
イベントを行う上では、他のイベントとの差異化や効率化が重要ですが、それらと並んで課題となるのがIPの許諾関連ですね。多くの自治体や企業は現状、eスポーツイベントの開催に当たって、使用するゲームタイトルのIPホルダー(ゲームメーカーなど)に許諾を取らなければいけないことを知りません。あるいは、許諾が必要なことは知っていても、自治体や地方企業はIPホルダーとつながりがないので、連絡手段がない場合もあります。IPホルダー側にしても、全国の自治体や企業、団体から届く多数の許諾申請を全て精査、判断するための時間や人員が足りません。
NTTe-Sportsが間に入ることで、そうした現状を改善できるのではと考えています。IPホルダーとは信頼関係ができていますし、面倒な手続きを一括して任せられるのは地方の方々にとっても利点になるでしょう。申請してきた企業や団体を審査するスキームも作る予定です。プラットフォーム化することで効率化し、IPホルダーやイベント主催者の負荷を軽減していきたいと考えています。
企画立案から全て任せてもらって、手ぶらでeスポーツに参画できるような仕組みをNTTe-Sportsとして構築していきますが、一方でこれまでeスポーツイベントを手掛けてきた企業の方々はたくさんいらっしゃいます。そうした企業とは市場の奪い合いをするのではなく、パートナーとして共に強みを生かして市場自体を活性化していきたいですね。その中で、我々の強みは通信環境やシステム構築、新技術や自治体連携などにあると考えています。
イベント事業の他にも、20年7月に東京・秋葉原UDXに開設予定の施設事業や、プラットフォーム事業、サポート事業など多角的に事業に取り組んでいきます(関連記事「NTT東がeスポーツ新会社 インフラ支援で地方大会開催を後押し」)。
――NTTe-Sportsの発足を発表したことについて、外部の反応はいかがでしょう?
影澤氏 想像以上にプラスの反響をいただきました。ゲームメーカーをはじめとした企業の方々やゲームコミュニティーからも好意的な意見をいただいています。
NTT東日本では、サービス開発やネットワーク運営の際、常に正常、準正常、異常の状態を想定して検証をしています。それらでこれまで培ってきた信頼や対応力の高さがNTTe-Sportsへの期待と信頼につながっているのかと思います。
――影澤さん個人としては、NTT東日本の経営企画部営業戦略推進室担当課長からNTTe-Sportsの副社長への大抜擢です。個人的な目標がありましたら聞かせてください。
影澤氏 副社長という対外的にそれなりのパワーを持つ立場になりましたが、現場を大切にいろいろなチャレンジをしていこうと思っています。個人としても、会社としても、ゲームやeスポーツを日本のカルチャーとして定着させるのが目標です。
NTT東日本がNTTe-Sportsという会社を設立したこと、私が副社長になったことを1つのきっかけに、ゲームやeスポーツに伴うネガティブな要素を払拭していきたい。それこそ、ゲームで遊ぶことのマイナスイメージをなくし、誰もが大手を振ってできるようにしたいです。NTTグループには、スポーツ科学や教育に関する研究をしている機関もあるので、外部の大学などとも連携して取り組んでいきたいと思います。
また、NTT東日本には、「TERA HORNs(テラホーンズ)」という公式eスポーツチームもあります。総勢約40人が複数タイトルに取り組み、企業対抗戦などにも積極的に出場しています。これもゲームやeスポーツの地位向上の一環です。ゲームをやっていることでNTT東日本に入社し、入社してからもゲームをし続けられる環境を作って、ゆくゆくは実業団のように選手兼社員として活動してもらえればいいと思います。さらにその活動を全国に広げて、都市対抗野球のように様々な企業や地域を巻き込んでいきたい。目標はもっと気軽に、堂々とゲームを楽しめる社会づくりです。
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(写真/志田彩香)