2016年に大ブームをもたらし、今なお根強い人気を誇る『ポケモン GO』をはじめ、位置情報を活用したAR(拡張現実)ゲームで存在感を発揮するNiantic(ナイアンティック)。スポーツ庁の「Sport in Life」認定など、リアルとの融合を推進するARゲームの現在と未来を日本法人社長の村井説人氏に聞いた。

Niantic(ナイアンティック)の日本法人社長で米ナイアンティック副社長の村井説人氏
Niantic(ナイアンティック)の日本法人社長で米ナイアンティック副社長の村井説人氏

スポーツ庁の認定で『ポケモン GO』をスポーツに

――19年を振り返って、どのような1年だったと感じていますか?

村井説人氏(以下、村井氏) 新たに『ハリーポッター:魔法同盟』の提供を開始するなど、とても力強く成長した年だったと思います。『ポケモン GO』に関しても、新機能の追加やイベントの取り組みによってユーザー数は毎月伸びており、今後の成長を継続できることを実証できました。

 我々はサービスを1、2年で終わらせるつもりで作っている訳ではありません。一般的なゲームをつくりたくて『ポケモン GO』を提供している訳でもありません。家にこもりがちな方々に外へ出て歩くモチベーションを与え、一生のお供としてずっと利用してもらえることを実践しようとしているのです。

 そうした考えが、『ポケモン GO』などを通じて浸透してきているのではないかと感じています。サービス提供から時間がたつにつれ、単にゲームをするという行動とは異なる楽しみ方の広がりを感じています。その結果として、19年は『ポケモン GO』を含む全てのプロダクトを合わせた総歩数が163億kmと、太陽系の大きさを1.5往復できる規模にまで達しています。

――そうした意味でも、『ポケモン GO』などがスポーツ庁の「Sport in Life」に認定されたことは大きな意味があったように思います。

村井氏 我々は『ポケモン GO』を、テニスやサッカーなどと同じスポーツにしていくことも目標にしています。「週末はテニスをしています」というと「結構なご趣味ですね」となりますが、「趣味は『ポケモン GO』です」と言っても、「それはすごいですね」と感心してもらえることは少ないのが現状です。そんな中で、スポーツ庁の「Sport in Life」の第1号に認定されたことは大きな意味があったと思いますし、スポーツというジャンルにまでプロダクトを成長させることができたら、と考えています。

 この認定によって、まだ何かが大きく変わった訳ではありませんが、プレーヤーの方々が『ポケモン GO』をプレーすることに価値があると感じてもらえる機会にはなったと思います。その価値をもっと拡大し、プレーヤーに浸透させていくことで、数年後には「趣味は『ポケモン GO』」と、さらに自信を持ってお話しいただけるようになるのではないでしょうか。

位置情報ゲームの代表的な存在である『ポケモン GO』。2016年の開始以来、多くのファンが楽しんでいる。(c)2016-2020 Niantic, Inc. (c)2016-2020 Pokemon. (c)1995-2020 Nintendo / Creatures Inc. / GAME FREAK inc.
位置情報ゲームの代表的な存在である『ポケモン GO』。2016年の開始以来、多くのファンが楽しんでいる。(c)2016-2020 Niantic, Inc. (c)2016-2020 Pokemon. (c)1995-2020 Nintendo / Creatures Inc. / GAME FREAK inc.

――スポーツという側面でいうと、20年1月に東京都が実施した「東京eスポーツフェスタ」で、「ポケモン GO ゲット&バトルトーナメント」を実施しています。その狙いについて教えてください。

村井氏 外に出てみんなでコミュニケーションしながらゲームを楽しめるという、リアルを重視した取り組みの1つとしてeスポーツがあります。大勢の人が集まってプレーヤーを応援し、みんなでガッツポーズを取るといった、eスポーツでは、従来のゲームとは異なるソーシャルなコミュニケーションが広がっています。

 一方で『ポケモン GO』は、既にポケモンを集めるだけでなく、「トレーナーバトル」で世界中のプレーヤーと対戦もできますし、19年にはポケモンとAR撮影ができる「GOスナップショット」という機能も追加しており、ポケモンを相棒として接すると共に、SNSで写真を共有することもできます。新しいコミュニケーションを広げるため、幅広い楽しみ方ができるようになっているのです。

 このイベントが盛り上がったことで、従来の「位置情報ゲーム」や「eスポーツ」はこういうものという枠を取り外し、バトルを楽しみながらプレーヤー同士がコミュニケーションするという、幅広い楽しみ方を知ってもらうきっかけになりました。

ARグラスと5Gでリアルとデジタルの融合を加速

――御社では『ポケモン GO』だけでなく、『ハリーポッター:魔法同盟』や『Ingress(イングレス)』でも、イベントなどでリアルと連動した取り組みを重視しているように感じます。

村井氏 サービスをよりよいものにするため、さまざまな挑戦をしています。その1つがリアルとバーチャルの接点をいかに作り出すかということです。GOスナップショットもそうですが、デジタルなものをリアル世界に映し出すという体験を、もっとシームレスな形で実現したいと考えているのです。

スマートフォンを使った位置情報ゲームでは草分け的な存在の『Ingress(イングレス)』。(c)2013-2020 Niantic, Inc.
スマートフォンを使った位置情報ゲームでは草分け的な存在の『Ingress(イングレス)』。(c)2013-2020 Niantic, Inc.

 ゲームとしての体験とは別に、デジタルと現実世界を混在した姿を、ARの技で実現していきたい。今のARは、ボタンを押すと、デジタルなものが飛び出してくるというイメージです。我々としては、もっと密接なものにしていきたい。いつの間にかデジタルがリアルにあって、現実が拡張されることで生活が便利になり、歩くのが楽しくなる、いろんなものが知りたくなる、人との出会いが生まれる……というイメージを実現したいのです。

 何もしなくても10年後にはそうした時代を迎えるかもしれません。我々が考えるAR技術で人間とリアルを拡張していける仕組みを実現できれば、もっと面白いことになると考えています。

――それは必ずしもスマートフォンに限ったものではない、と。

村井氏 スマートフォンは現在、最先端のモビリティーデバイスだと認識していますが、もうじきその先を行くデバイスが出てくるのではないでしょうか。19年にARの眼鏡型のデバイスを開発することを発表していますが、それこそが我々の考えを体現するデバイスになると考えて開発を進めています。

「デジタルと現実世界をARで融合し、もっと密接なものにしていきたい」と話す村井氏
「デジタルと現実世界をARで融合し、もっと密接なものにしていきたい」と話す村井氏

ポケモン GOの中小店舗向けマーケティング活用も促進

――『ポケモン GO』などはゲームとしてだけでなく、さまざまな企業と連携しています。どのような施策を進めているのか教えてください。

村井氏 我々のゲームが、リアル店舗と連携してビジネスに結び付けた成功例の1つであることは確かですね。その重要なポイントは「人が動く」ことであり、人が動くことでリアル店舗における消費を呼び、商流を生む仕組みを作り上げることができたのです。

 これをパワーアップさせるため、『ポケモン GO』でもバーチャルな世界上のポケストップやジムに、店舗の情報を表示できる仕組みを、20年から提供しています。この取り組みによってお店の情報などが見えるようになり、クーポンを配布できるなど、店舗側がアピールしたいことを打ち出せるプラットフォームとして活用してもらえます。

――米国では中小企業向けスポンサー制度のベータ版を開始しています。店舗の裾野を大規模なチェーン店だけでなく、中小店舗にまで広げる狙いは何ですか?

村井氏 大企業だけでなく、個人レベルの店舗にも使ってもらってプラットフォームを盛り上げ、リアルとサービスの接点をつくるビジネスを活性化していけるのではないかと考えています。我々のプロダクトの強みは、プレーヤーの皆様とプラットフォームを作り上げること。実際、『Ingress』のポータルや『ポケモン GO』のポケストップなどは、我々が設置したのではなく、プレーヤーから「ここに来ると何かがある」というのを推薦してもらってデータベース化したものです。このデータベースを構築できたことが現在のナイアンティックの強みとなっているのです。

 今回の取り組みも、その発想と同じです。見つけ出すのが難しい場所に訪れる敷居を下げることで、世界中のスモールビジネスで頑張りたい人を応援できるプラットフォームに成長できると考えています。日本でも20年中には展開したいですね。

「人が動くことでリアル店舗における消費を呼び、商流を生む仕組みを作り上げることができた」と話す村井氏
「人が動くことでリアル店舗における消費を呼び、商流を生む仕組みを作り上げることができた」と話す村井氏

ゲームをもっと増やして地球上の総人口をカバー

――19年に配信を開始した『ハリーポッター:魔法同盟』の現状はいかがでしょうか?

村井氏 やはり英語圏での人気が高いですが、日本もそれに劣らない規模のプレーヤーがいます。毎月ゲーム内でイベントも実施していますし、このゲームを通じて外に出歩くようになったという声も聞いています。20年は『ポケモン GO』と同様の規模へ近づくために、何ができるのかというチャレンジになります。『Ingress』や『ポケモン GO』で培った技術やノウハウがあるので、それらを投入してもっと楽しい仕組み作りをし、日本の人の心をわしづかみにできるプロジェクトにしていきたいですね。

――『ハリーポッター:魔法同盟』の配信でゲームのラインアップが3つに増えましたが、今後も新しいゲームは積極的に増やしていくのでしょうか。

村井氏 我々はターゲットを地球規模で考えていて、地球の総人口75億人が我々のサービスを使って外に出てくれることが最高の結果につながると思っています。『ポケモン GO』が大成功して10億ダウンロードを超えたと言われても、75億に比べたらまだまだ小さい。

19年に配信を開始した『ハリーポッター:魔法同盟』。PORTKEY GAMES, WIZARDING WORLD, HARRY POTTER: WIZARDS UNITE, characters, names and related indicia (c) and TM Warner Bros. Entertainment Inc. Publishing Rights (c) J.K. Rowling. (c)Niantic,Inc. All Rights Reserved (s18)
19年に配信を開始した『ハリーポッター:魔法同盟』。PORTKEY GAMES, WIZARDING WORLD, HARRY POTTER: WIZARDS UNITE, characters, names and related indicia (c) and TM Warner Bros. Entertainment Inc. Publishing Rights (c) J.K. Rowling. (c)Niantic,Inc. All Rights Reserved (s18)

 それだけの数をカバーするに当たっては、「『ポケモン GO』はちょっと……」という人もいるかもしれませんし、そうした人の中には『Ingress』や『ハリーポッター:魔法同盟』をプレーしている人もいるでしょう。もちろんそうでない人もまだたくさんいると思うので、将来のリーチを広げるためにもチャレンジは止めません。新しいプロダクトも出していきたい。

 そのために日本にも18年に新しいゲームを開発する「Tokyo Studio」を設立しています。設立当初のメンバーは数名程度でしたが、その後着々と人数を増やしており、現在は多くの優秀なメンバーが集まって世界に新しいゲームを発信するチャレンジをしています。

――20年はどのような取り組みに力を入れていきますか。

村井氏 ナイアンティックは世界のARのリーディングカンパニーになりたいと考えています。これまでやってきたことはそこへ向けたステップだと考えています。20年はARの世界をより広げていくチャレンジをして、その世界観を多くの人に見せていきます。

村井説人 (Murai Setsuto)
Niantic(ナイアンティック)社長、米ナイアンティック副社長
1997年に成城大学卒業、同年に日本電信電話(NTT)に入社。2006年にGMOアドネットワークスへ入社、取締役として会社運営に従事する。その後は、Google マップのパートナーシップ日本統括部長として、その発展に貢献。15年にはAustralia/New Zealand Google Mapsのパートナーシップ業務の責任者となる。Google Crisis Response活動として東北復興などのさまざまな活動にチームの中核として貢献したほか、Google Art Projectの日本の代表者として、同プロジェクトの発展に大きく貢献した。
 15年12月、米ナイアンティック初の現地法人であるナイアンティック(日本法人)の社長に就任。日本市場における事業開発ならびにリアルワールドゲームの普及に努める。2019年より米ナイアンティックの副社長を兼任。

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(写真/菊地くらげ)