2019年は前年比で増収増益を達成したガンホー・オンライン・エンターテイメント(以下、ガンホー)。主力タイトルの『パズドラ』シリーズにサブスクリプションやシーズン制を導入するなど、ユーザーの活性化を続ける一方、新作『TEPPEN』も好調。いよいよ発売が迫る『Ninjala』にも期待が高まる。森下一喜社長に同社の取り組みについて聞いた。
『パズドラ』はサブスクが好調
――2019年は前年比で増収増益となりました。
森下一喜氏(以下、森下氏) 新タイトルが好調であったことに加えて、収益の柱となる2本、『ラグナロクオンライン』と『パズル&ドラゴンズ』(以下、パズドラ)が大きく貢献しました。『パズドラ』に関しては18年から進めていた休眠ユーザーの掘り起こしが成果を上げました。
――『パズドラ』ではサブスクリプションサービス「パズドラパス」もスタートしました。
森下氏 ヘビーユーザーが気軽に「お得」を味わえるサービスを目指しました。無課金のユーザーも尊重しつつ、自分が気に入ったゲームなら課金してもいいというユーザーに対し、サブスクリプションでしか遊べないダンジョンやガチャをはじめとした特典を用意しています。「遊びきってしまった」という感覚に対して新たな目標を設定してあげたいという思いもありました。
このサービスは19年12月に始まったばかりで、もちろん課題はいろいろあるのですが、継続率の向上など、思っていた通りの効果は出ています。
――一方で『パズドラレーダー』は名称を『パズドラバトル』に変更し、シーズン制も導入しました。同時にガチャも廃止になりました。
森下氏 海外で問題視されているガチャへの対策ではないかと言われることもありますが、それは違います。シーズン制の導入は、対戦ゲームとして新しいモデルを導入したほうがいいと判断しました。対戦してランクを上げていくだけではない別の軸を作るという発想ですね。シーズン中に限定のシーズンポイントを集めることで、ゴールドやモンスターメモリーなど豪華なシーズン報酬を獲得することができます。
シーズンパスの販売も開始しました。新たなリーダーを含む構築済のチームをゲットできたり、サーチ結果やシーズンポイント獲得にボーナスが追加されたりとさまざまな特典が得られます。シーズンパスを購入していただいたほうがより快適に遊べるようになっています。
――これからはシーズンパスがガンホーのスタンダードになっていくのでしょうか?
森下氏 そういうつもりではありません。ユーザーのモチベーションや継続性を高める方法としてこれが完璧だというわけではなくて、いろいろと変えていく必要はあると思っています。
小学生にとっての「俺のゲーム」を目指す『パズドラGOLD』
――若年層の掘り起こしとして『パズドラGOLD』が20年1月にリリースされました。
森下氏 若年層向けのイベントに『パズドラ』を出展したときに、ニンテンドー3DS用の『パズドラ』(『パズドラZ』『パズドラクロス』など)を持ってきたお子さんがけっこういたんです。小学生くらいの子どもにとって、スマートフォンはあくまでも親のものであることが大半で、そこが(『パズドラ』拡大の)障壁になっていると感じました。つまり「自分たちのゲーム」になりにくいんですね。今の子どもたちが自分のスマートフォンを持ったときにスッと『パズドラ』に入ってきてほしいんですね。
そう考えると、やはり低年齢層に向けて『パズドラ』を出すならNintendo Switchだし、しかもなるべく低価格で出したいという思いもありました。発売が遅れて子どもたちを待たせてしまった申し訳なさから価格は1500円で、しかも買い切りにしました。イベントでは無料のダウンロードコードも配布しています。
「グローバルファースト」を目指した『TEPPEN』
――新規タイトル『TEPPEN』はeスポーツタイトルとしてすでに高く認知されています。
森下氏 リリースからあまり時間をおかずに大会、それも世界大会を開催したのですが、おかげさまで盛況でした。このタイトルは日本だけでなく、米国、欧州、アジアと全世界で配信しており、高い評価を得ています。
――19年のインタビューでは「『グローバルファースト』な展開を目指す」と語られていましたが、まさにその通りの展開ですね。
森下氏 「グローバル化」と言葉として表面的な理解はできても、いざ取りかかってみて初めて見えてくる課題もありました。ゲーム上のメッセージなどを翻訳することはさほど苦労しなかったのですが、例えばグローバルなサービスとしてユーザーに何か伝えたいことができた場合、全世界すべての言語で同時にアナウンスする必要があります。これが実務レベルの作業として大変でした。
――『TEPPEN』はガンホーとしては今までとはちょっと違うタイプのゲームです。
森下氏 『TEPPEN』はカードを出すタイミングをリアルタイムで見極める、アクション性の高いものになっています。「カードゲームはターン制」という大前提を覆す、いわば常識の打破に挑んだゲーム。当初はスタッフも懐疑的でしたが、プロトタイプの段階で「いける」と感じました。「リアルタイムのカードゲーム」という芯はブレずに開発できました。
アクション性を高めたとは言ってもカードゲームですから、今まで作ってきたRPGやアクションゲームとはユーザー層が国ごとに少し異なっています。日本ではカードゲームを好んでいたユーザーが遊んでくれましたが、米国では『ストリートファイターIII』で梅原大吾選手と伝説的な戦いを繰り広げたことで知られるプロゲーマーのジャスティン・ウォン選手が口コミで広めてくれたおかげで、対戦格闘ゲームのファンから火がつきました。
ユーザーの盛り上がりにしても、今までとは違う面が見られますね。例えばひとつ強い戦い方が見つかると、それへの対抗策がすぐにYouTubeなどで発表される。ゲームを作った僕らにも思いつかないような戦い方もあったりして、感心させられます。
草の根大会を支援するパッケージサービスを提供
――『TEPPEN』にはかなりの手応えを感じられたようですね。
森下氏 世界中のユーザーとコミュニティー形成し、大会運営を成功させたことは、大きな収穫となりました。共同開発のカプコンさんもカードゲームをたくさん作ってきた会社ではなく、ユーザーに魅力をどう伝えていくかは手探りの部分があったのですが、ユーザーからいただいた意見で学んだこともたくさんありました。
『TEPPEN』のようなタイトルでは、ゲームのなかでの情報交換や議論の場はもっと必要だと感じています。大がかりな大会の開催に限らず、今後はみんなが気軽に参加できるサイズ感の大会を実施してコミュニティーをさらに活性化させていくことが課題です。
――ユーザー主導の大会運営をサポートする施策を打たれているメーカーもありますね。
森下氏 草の根大会のような活動はコミュニティーの醸成に重要です。オフラインのイベントに人を集めるのは難しい時期ですが、対面して遊ぶ楽しさはまた格別。僕らが子どもの頃にデパートのゲーム売り場で開かれていたような、誰もが気軽に腕試しができる、そんな「出たい」と思えるコンパクトな大会が理想です。20年はそういう場をメーカーとしてサポートできるパッケージサービスのようなものを提供していきたいですね。
――ご自身で遊んでみて『TEPPEN』をどう思われますか?
森下氏 ゲームを開発している段階では、対戦は楽しめても、デッキを構築するのは苦手だと思っていました。ところが今ではデッキを作ってそれを検証することばかりを続けています。今までの自分の「ゲーム感」を変えてしまったところはありますね。ひとつのデッキを30枚にしたのは、複雑すぎず、それでいて戦略を練る楽しさも十二分に盛り込めるからです。いいバランスだと思います。
ニンジャ感の仕上がりはデモ版などと別物
――19年のインタビューでもお話されていた『Ninjala(ニンジャラ)』では、19年5月に1年の延期という大事件が発生してしまいました。20年春に発売されるとのことですが……。
森下氏 今はまだ冬(※取材は2月に行いました)で、『Ninjala』が発売されたときが「2020年春」ですね(笑)。
――数カ月ではなく、1年というのはかなり大胆な延期でした。
森下氏 通信環境下において、多人数での対戦アクションゲームとしての気持ちよさを損なわないようにと考えたときに、根幹を見直したほうがいいという判断になりました。おかげさまで問題点はすべて解消できました。
――ということは、ゲームの仕様は変わっていない?
森下氏 18年の東京ゲームショウに出展したデモやトレイラー映像は、ゲーム全体が持つ要素からいろいろなものをそぎ落とし「ガムを基軸にしたアクションや、チャンバラ遊びはそもそも楽しいのか?」という点を確認するものでした。
なので、今のバージョンを遊んだ人からは「だいぶ変わりましたね」と言われることが多いのですが、僕らとしては、何ひとつ変えているつもりはありません。当初から考えていたものを作っただけで、「もともとこういうゲームだ」と伝えていたつもりなんですけどね。
――「違う」と感じさせる要素はどこにあるのでしょうか?
森下氏 ガムを使ってニンジャアクションを楽しむという根幹は変わっていませんが、アクションとしての気持ちよさ、「ニンジャ感」といったものはまったく違うと思います。これらはネットワークを介しての対戦でも損なわれず、楽しめる手ざわりになっています。
ニンジャをテーマにしたアクションゲームというと血なまぐさいものが多いのですが、『Ninjala』には死ぬという概念がありません。なので、子どもから大人まで、幅広い層が楽しめますね。大人でも遊んでいると声が出るようなゲームに仕上がりました。20年はこの『Ninjala』を強烈にプッシュしていきます。発売に先立って、まずは公式サイトにある謝罪動画を消すことが目標ですね(笑)。
「東京ゲームショウ2020」公式サイトはこちら
(写真/村田和聡)