2019年7月に上場し、「IPディベロッパーとして『新時代のエンターテインメントを創出する』」というミッションを掲げたブシロード。『バンドリ!』以降、新規IPを相次いで立ち上げ、ゲーム、アニメ、ライブエンターテインメントなど多面的な展開で話題をつくってきた同社の次なる一手とは?
2019年7月にマザーズに上場したブシロードは、07年に『カードファイト!! ヴァンガード』などのトレーディングカードゲームの制作・販売を核とする企業として創業。現在は、自社のIP(知的財産)を、ゲーム、アニメ、ライブエンターテインメントなど多面的に展開するクロスメディアプロジェクトを推進している。上場に当たっては、「良質なIPを開発・取得・発展するIPディベロッパーとして『新時代のエンターテインメントを創出する』」とミッションを掲げた。
近年は、ガールズバンドをテーマにした『BanG Dream!(バンドリ!)』がファンを拡大中。中核ビジネスとなるスマートフォン向けゲーム『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』は、19年3月にApp Storeセールスランキングで初めて1位を獲得し、国内ユーザー数も1100万人を突破した。
この他にも、17年にはオリジナルミュージカル作品からアニメやゲームにもコンテンツを広げた『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(以下、『レヴュースタァライト』)を始動。19年には女の子DJをテーマにした新IP『D4DJ(ディーフォーディージェー)』を発表し、リアルイベントを行いながら、20年秋に予定するゲームリリースに向けて、ファンを増やしている。
ブシロードのIP戦略を、創業者でIP開発の鍵を握る木谷高明取締役に聞いた。
『バンドリ!』は定着、新バンドも追加
――19年に上場した際、「IPディベロッパーとして新時代のエンターテインメントを創出する」と宣言しました。この数年で、『バンドリ!』『レヴュースタァライト』『D4DJ』と、毎年のように新IPを発表しています。それぞれの状況を聞かせてください。
木谷高明氏(以下、木谷氏) 『バンドリ!』『レヴュースタァライト』『D4DJ』は音楽3部作と呼んでいますが、中でも『バンドリ!』のスマートフォン向けゲーム『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』は、定着したと思っています。20年3月16日の3周年を機に、7番目になる新バンド「Morfonica」も登場しました。メンバーは5人で、これまでの「Poppin’Party(ポッピン パーティー)」「Roselia(ロゼリア)」「RAISE A SUILEN(レイズ ア スイレン)」の3バンド同様、リアルバンドでもあるんです。
現在放送中のアニメのCM枠で、まずはアニメーション版のPVを流し、「新バンド来た!」と思っていただいた後にリアルバンド版のPVを流すという2段階で発表しました。かなりインパクトがあったと思います。
――新しいバンドのコンセプトは?
木谷氏 ゲーム開発を担当されているCraft Eggさんがキャラクターデザインをして、僕らがそれに合った人を探しました。ボーカルは15歳の女の子です。楽器のパートとして一番苦労すると思っていたバイオリンの「八潮瑠唯」のキャストが見つかったのは大きいです。
――ライブなどでファンを拡大するのは戦略の1つだと思いますが、今後、IPとして『バンドリ!』をどのように成長させていきますか?
木谷氏 コンテンツ全体の市場を大きくしていきたいと考えています。アニメのBlu-rayの売り上げ、ゲームの課金、CDセールスランキング、グッズの売り上げ……いろいろな指標がありますが、ゲームのユーザーが増えるとコンテンツ全体の裾野が広くなるので、ゲームをエンジンにしていきたいですね。本来ゲーム課金の面でいうとDAU(デイリー・アクティブ・ユーザー)を重視しなくてはいけないんですが、プロジェクトの広がりという意味で、MAU(マンスリー・アクティブ・ユーザー)を重視しています。
スマートフォン向けゲームをヒットさせるには40代を狙う
――19年に発表された新IP『D4DJ』については、20年秋にスマホ向けリズムゲーム『D4DJ Groovy Mix』がリリースされる予定です。
木谷氏 事前登録が20年3月時点で40万人に達していますが、社内的にはリリースまでに100万人集めようと言っています。これはトップクラスのアプリゲームを狙っていきます。
『D4DJ Groovy Mix』は、10~20代ファンが中心の『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』とは違い、対象年齢が10~50代までと幅広いので、いきなり40代も狙うつもりです。日本の人口構成で40代と20代を比べたら、40代が1.5倍ぐらいいます。じゃあ、エンタメに使う消費額はどうかといえば、40代は4人に1人が独身ですから20代の2倍以上だと思うんです。つまり、大ヒットを狙うなら40代を直撃するしかない。20年前、30年前のキャラクターを使うしかないんです。
もはや子ども向けにIPを作って、それを一生ものに育てていくのは、ほぼ不可能だと僕は思います。作家性の強いものが突発的に下の世代からわーっと広がる可能性はありますが、エンタメ性の強いものはほぼないかなと。
だから、『D4DJ Groovy Mix』の音楽は、1980~90年代のカバー曲や『太陽にほえろのテーマ』『警部補・古畑任三郎のテーマ』など、ドラマ主題歌、番組テーマ曲などを集めているんです。あとはアーケードゲームのテーマ曲。90年代のアーケードゲーム全盛の頃の音楽って、今の40代には懐かしいじゃないですか。僕は、JASRACに著作権使用料を払ってでも、40代に刺さる曲でテレビCMを流したいと思っています。
登場するキャラクターも、『バンドリ!』は高校生がメインですが『D4DJ』ではMerm4id(マーメイド)という大学生ユニットがいます。実演するキャストの中にはグラビアアイドルとして活躍する人もいます。だから、『CAT’S EYE』『キューティーハニー』『どうにもとまらない』といった曲も押さえました。アニメの監督と制作会社も発表され、ゲームは20年の秋リリース予定です。
中国にはIP全体で入っていく
――海外への展開はいかがでしょう?
木谷氏 中国との関係は重視しています。中国市場には、ゲームだけではなくIP全体で入っていくイメージです。ゲームを中国へ持っていっても、もうあまり商売にならなくなりつつあります。やはり中国人が好きなゲームと日本人が好きなゲームは違うんだと思います。だから、日本のキャラクターを使い、ゲームは中国で作りたいというケースが、これから増える。その次は、共同で原作を作りましょうというのが出てくる。その合間に、中国のゲームを日本でも展開する。実際、中国のゲーム会社が日本法人をつくってどんどん進出してきています。
当社でも、20年2月に中国のタイトルをローカライズした『ロストディケイド』というスマートフォン向けゲームを出したんですが、これが結構いい出足なんです。だからこれからは、こちらから行くものもあれば、向こうから来るものもあるし、キャラクターだけ貸すものもあれば、一緒に作るものもある――といろいろなパターンが存在し得ると思いますよ。本当に頭を柔らかくして考えなきゃだめですよね。
――ゲーム性において、中国や米国など海外は進んでいると感じますか?
木谷氏 間違いなく言えるのは、日本のゲーム会社は新しい企画が通りづらくなっているということ。10代、20代の若い世代は新しいゲームをやりたいだろうし、海外のゲームに対する抵抗感もなくなっていることを考えると、日本における海外ゲームのシェアは、現在の2割ぐらいから5割ぐらいまで上がると思っています。自国のマーケットが大きい方が有利ですから。
中国のメーカーにとって、日本はセカンドマーケットです。スマートフォン向けゲームでも開発費に20億円程度かけているタイトルを持ってきているわけです。日本は、開発費は少ないわ、マーケットは小さいわ、なので、勝てるはずがないんですよね。
――IPディベロッパーとして、毎年、新しいIPを生み出してきました。今後はどのように考えていますか?
木谷氏 「DJ」の次も考えています。背景にある考え方は2つです。1つは、今の時代、ストレスがかなりあるので、何かをがーっと思いっきり言いたいという欲求がすごくあるのではないかということ。
もう1つは、2.5次元の弱点を克服する題材で舞台が作れるのではないかということ。2.5次元は、ゲームやアニメ、コミックを元にしているので、主人公は10~20代が多いんですね。そうすると、どんなにいい俳優でも35歳を超えると役がなくなってしまう。10~50代までかっこいいキャラクターを作れるテーマがあれば、30代を超えた人気俳優も使いやすい。そうした考えに基づいたIPを舞台から作っていきたいと思っています。
イベントはテレビに変わる告知方法
――20年は次世代ゲーム機の登場やクラウドゲーム、5Gなどが話題になりそうですが、木谷さんが注目している技術はありますか?
木谷氏 テクノロジーは乗りやすいところに乗っていけばいいと思っています。むしろ、それによって起こることを、しっかり拾うべきです。
例えば、今、テレビを買うと、リモコンには複数のボタンが付いていたりしますよね。「Netflix」「Hulu」「AbemaTV」「YouTube」「U-NEXT」などが並んでいて、ボタンを押した瞬間につきます。
じゃあ、地上波テレビはどうかというと、最大の問題は地方によってチャンネルが違うことです。だから、「日本テレビ」や「TBS」といった表示にできない。めったにYouTubeを見ない人でもボタンに「YouTube」と書いてあればボタンを押しますが、あまりテレビを見ない人はどの局がどのチャンネルか覚えていないから、ますますテレビを見なくなります。
現在、テレビCMの市場は約1兆8000億円あります。でも、向こう3年で坂道を転げ落ちるように減っていくでしょう。その減った分はどこに行くのか。テレビは知らない人に知らせるプロモーション効果が高かったので、この代わりをどうするのかはすごく難しい。
そういう意味で、イベントはとても大事です。当社がアニメやゲームを始める前にライブや舞台を展開しているのは、事前に1万人ぐらいのインフルエンサーをつくろうとしているからです。アニメ放送やゲームリリースのときに、その1万人が一緒に盛り上がってくれるので、告知効果がある。
そうした仕掛けもなしにゲームをいきなり出しちゃうと、撃沈ですよ。開発費に10億円かけて、ゲーム自体はよくできているのにヒットしないタイトルがあるのは、ゲームが良ければそれだけで売れるというわけではないから。よくできているのは最低限です。作品のストーリーと同様にプロモーションのストーリーが重要な時代です。プロモーションのプロデューサーが非常に大事だと思います。
――最後に、20年にブシロードが推していくタイトルを教えてください。
木谷氏 やはり『D4DJ』ですね。『D4DJ』を僕の生涯ベストスコアを出すようなタイトルにしたいと思っています。
ライブにも力を入れていきます。“デジタル”は一般的になりすぎちゃって、あまりどきどきしないというか、心を揺さぶられないんでしょうね。ライブで人が発する熱にかなうものはない。それを拡散するためにライブビューイングという“デジタル”な要素も使いますが、熱いコアをつくるにはやはりアナログがいい、ライブがいいと考えています。
「東京ゲームショウ2020」公式サイトはこちら
(写真/辺見真也)