中国にはIP全体で入っていく
――海外への展開はいかがでしょう?
木谷氏 中国との関係は重視しています。中国市場には、ゲームだけではなくIP全体で入っていくイメージです。ゲームを中国へ持っていっても、もうあまり商売にならなくなりつつあります。やはり中国人が好きなゲームと日本人が好きなゲームは違うんだと思います。だから、日本のキャラクターを使い、ゲームは中国で作りたいというケースが、これから増える。その次は、共同で原作を作りましょうというのが出てくる。その合間に、中国のゲームを日本でも展開する。実際、中国のゲーム会社が日本法人をつくってどんどん進出してきています。
当社でも、20年2月に中国のタイトルをローカライズした『ロストディケイド』というスマートフォン向けゲームを出したんですが、これが結構いい出足なんです。だからこれからは、こちらから行くものもあれば、向こうから来るものもあるし、キャラクターだけ貸すものもあれば、一緒に作るものもある――といろいろなパターンが存在し得ると思いますよ。本当に頭を柔らかくして考えなきゃだめですよね。
――ゲーム性において、中国や米国など海外は進んでいると感じますか?
木谷氏 間違いなく言えるのは、日本のゲーム会社は新しい企画が通りづらくなっているということ。10代、20代の若い世代は新しいゲームをやりたいだろうし、海外のゲームに対する抵抗感もなくなっていることを考えると、日本における海外ゲームのシェアは、現在の2割ぐらいから5割ぐらいまで上がると思っています。自国のマーケットが大きい方が有利ですから。
中国のメーカーにとって、日本はセカンドマーケットです。スマートフォン向けゲームでも開発費に20億円程度かけているタイトルを持ってきているわけです。日本は、開発費は少ないわ、マーケットは小さいわ、なので、勝てるはずがないんですよね。
――IPディベロッパーとして、毎年、新しいIPを生み出してきました。今後はどのように考えていますか?
木谷氏 「DJ」の次も考えています。背景にある考え方は2つです。1つは、今の時代、ストレスがかなりあるので、何かをがーっと思いっきり言いたいという欲求がすごくあるのではないかということ。
もう1つは、2.5次元の弱点を克服する題材で舞台が作れるのではないかということ。2.5次元は、ゲームやアニメ、コミックを元にしているので、主人公は10~20代が多いんですね。そうすると、どんなにいい俳優でも35歳を超えると役がなくなってしまう。10~50代までかっこいいキャラクターを作れるテーマがあれば、30代を超えた人気俳優も使いやすい。そうした考えに基づいたIPを舞台から作っていきたいと思っています。
イベントはテレビに変わる告知方法
――20年は次世代ゲーム機の登場やクラウドゲーム、5Gなどが話題になりそうですが、木谷さんが注目している技術はありますか?
木谷氏 テクノロジーは乗りやすいところに乗っていけばいいと思っています。むしろ、それによって起こることを、しっかり拾うべきです。
例えば、今、テレビを買うと、リモコンには複数のボタンが付いていたりしますよね。「Netflix」「Hulu」「AbemaTV」「YouTube」「U-NEXT」などが並んでいて、ボタンを押した瞬間につきます。
じゃあ、地上波テレビはどうかというと、最大の問題は地方によってチャンネルが違うことです。だから、「日本テレビ」や「TBS」といった表示にできない。めったにYouTubeを見ない人でもボタンに「YouTube」と書いてあればボタンを押しますが、あまりテレビを見ない人はどの局がどのチャンネルか覚えていないから、ますますテレビを見なくなります。
現在、テレビCMの市場は約1兆8000億円あります。でも、向こう3年で坂道を転げ落ちるように減っていくでしょう。その減った分はどこに行くのか。テレビは知らない人に知らせるプロモーション効果が高かったので、この代わりをどうするのかはすごく難しい。
そういう意味で、イベントはとても大事です。当社がアニメやゲームを始める前にライブや舞台を展開しているのは、事前に1万人ぐらいのインフルエンサーをつくろうとしているからです。アニメ放送やゲームリリースのときに、その1万人が一緒に盛り上がってくれるので、告知効果がある。
そうした仕掛けもなしにゲームをいきなり出しちゃうと、撃沈ですよ。開発費に10億円かけて、ゲーム自体はよくできているのにヒットしないタイトルがあるのは、ゲームが良ければそれだけで売れるというわけではないから。よくできているのは最低限です。作品のストーリーと同様にプロモーションのストーリーが重要な時代です。プロモーションのプロデューサーが非常に大事だと思います。
――最後に、20年にブシロードが推していくタイトルを教えてください。
木谷氏 やはり『D4DJ』ですね。『D4DJ』を僕の生涯ベストスコアを出すようなタイトルにしたいと思っています。
ライブにも力を入れていきます。“デジタル”は一般的になりすぎちゃって、あまりどきどきしないというか、心を揺さぶられないんでしょうね。ライブで人が発する熱にかなうものはない。それを拡散するためにライブビューイングという“デジタル”な要素も使いますが、熱いコアをつくるにはやはりアナログがいい、ライブがいいと考えています。
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(写真/辺見真也)