前回の「界 霧島」に続いて、今回も九州エリアで2021年7月8日にグランドオープンした「界 別府」の魅力開発について見ていく。星野リゾートの温泉旅館ブランド「界」の18番目の施設は、これまでの界とはやや異なるテイストの魅力づくりに取り組んでいる。施設の設計を世界的建築家・隈研吾氏が手掛けた点も話題だ。

「界 別府」の廣岡太郎総支配人。手にした風呂桶(おけ)は、まさに温泉の街・別府のシンボルだ
「界 別府」の廣岡太郎総支配人。手にした風呂桶(おけ)は、まさに温泉の街・別府のシンボルだ

施設内に作った「ドラマティック温泉街」

 日本一の源泉数と湧出量を誇り、8つの温泉郷があることから「別府八湯」でも名高い大分県別府市。八湯の一つである別府温泉の地で、別府湾に面して立つ「界 別府」のコンセプトは「ドラマティック温泉街」。杉板で囲まれた小路をイメージさせるエントランスを入り、エレベーターで昇れば、そこから先は“架空の温泉街”という設定だ。夕方になると、和紙で作ったちょうちんが石畳の路地を照らし、夜店をイメージした空間が館内に出現する。コンセプト通り、時間の経過とともに情景が移ろいゆくドラマティックな温泉街を演出している。

ちょうちんが下がるメインフロアの「湯の広場」。別府湾に面した窓の外には足湯もある
ちょうちんが下がるメインフロアの「湯の広場」。別府湾に面した窓の外には足湯もある

 落ち着いた雰囲気の施設が多い界の中ではにぎやかな雰囲気に包まれ、星野リゾートの施設全体の中では祭りをテーマにした「青森屋」に通じるものがある。また、界は小規模温泉旅館として50室以下の宿が多いが、界 別府の客室数は70室。別府温泉の宿としては小規模だが、界ブランドの中では、室数が多い施設だ。

 「現在の別府は、草津(群馬県)や城崎(兵庫県)、黒川(熊本県)といった温泉地のように、温泉宿の宿泊客が下駄をカランコロンさせてそぞろ歩くような、昔懐かしい風情が失われています。もはやそれは、土地の人の記憶の中にしか残っていません。その記憶を頼りに、地元の方々にご協力をいただき、昔の温泉街の風情を表現しました」と、界 別府の廣岡太郎総支配人は話す。

 実際、夕暮れどきの館内はスマートボールあり、好みの辛さにアレンジできる「地獄ラーメン」ありと、まるで縁日を歩いているようなにぎやかさ。そんな中、地元の温泉を知り尽くした「温泉まち歩き名人」や、懐かしい歌謡曲を奏でる流しのギター弾きといった地元の人々が、まるでスタッフの一員であるかのように、宿泊客と触れ合う姿も見られる。

『神田川』を歌う「流しのぶんちゃん(3代目)」。普段は別府のネオン街を拠点に「はっちゃん・ぶんちゃん」のコンビで活躍し、流し文化を継承している
『神田川』を歌う「流しのぶんちゃん(3代目)」。普段は別府のネオン街を拠点に「はっちゃん・ぶんちゃん」のコンビで活躍し、流し文化を継承している

 夜店の空間は時間帯により、ビーカーやフラスコが並ぶ実験室のような「ラボ」に早変わり。ここでは、界ブランドの取り組み「うるはし現代湯治」の一環である「温泉いろは」が行われる。別府には温泉療法の研究で有名な九州大学病院別府病院があり、さらに別府の路地裏では、さびた温泉の配管がそこかしこで湯煙を上げている。そんなイメージから作られたラボで、宿泊客が源泉を使用した「温泉ミスト作り」を楽しんでいる。

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