マーケティング戦略にとって重要なプロモーションは、ブランド力を高める認知率と密接に関連する。地方の温泉旅館からスタートした星野リゾートは、これまでもユニークな取り組みを通じて注目されることで認知力を高めてきた。「いかに面白いと思ってもらうか」こそが、星野リゾートを躍進へと導いたプロモーションの柱だ。
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人間は「忘却の動物」、広告効果は一瞬
マーケティングに広告や宣伝活動はある意味不可欠。テレビCMをはじめ雑誌や新聞広告、電車の中づり広告など、世の中は企業や商品の宣伝広告であふれている。しかし星野リゾートは、そうした宣伝広告を行わない会社との印象を持たれているという。それにもかかわらず、認知率は高い。星野佳路代表は宣伝広告に対してどのような考えを持っているのか。
星野佳路代表(以下、星野) 星野リゾートは宣伝広告という点での露出はあまりないかもしれません。しかし、決して宣伝広告を否定しているわけではありません。実際にブライダルを手掛けている「軽井沢ホテルブレストンコート」では、相当の年間予算を設定し、ブライダル関連の宣伝広告を展開しています。
ただし、基本的にホテルの広告は採算が合わないというのが私の意見です。例えば「星のや軽井沢」は全77室しかないので、施設単体で広告を出したところで採算が取れません。ホテルや旅館単体ではテレビや雑誌を含め、本来、広告は向いていないと思っています。
もちろん広告を打てばそれなりに効果は上がるでしょうが、それも一瞬のことで、どの程度効果があるのか分からないと思っています。広告というのは打ち続けるから認知率を維持できるのであって、広告を止めた途端に認知率は下がっていきます。なぜなら、人間は「忘却の動物」だからです。
人間が忘れるということに関してはいい例があります。1990年代に大手企業による総会屋への利益供与事件が発覚しましたが、それに伴いこの会社は広告を自粛しました。この自粛が認知率にどんな影響を及ぼしたかを調査会社が計測したところ、自粛から3カ月後には認知率が劇的に下がっていたというのです。
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