星野リゾート代表の星野佳路氏は、旅行需要は「マイクロツーリズム」から戻ってくると話す。身近な地域を観光するマイクロツーリズム市場は、withコロナの時代、観光業にとって基盤のような存在だ。その需要をいかに掘り起こすかが、日本の観光業を左右する。(取材日は2020年7月3日)
コロナ禍で生まれた地域との結びつき
2020年の夏、星野リゾートのいくつかの施設では「リゾナーレトマム」での花火の打ち上げや、「青森屋」でのねぶた制作のような、地元企業や職人との共同プロジェクトが行われた。いずれもコロナ禍で活躍の場を失った地元企業と協業するための企画だ。これらは各施設で地域らしさを打ち出す星野リゾートの理念に合致し、かつ、地域の人々も積極的に観光業に参加してもらうことでマイクロツーリズムの機運を盛り上げたいという、星野氏の思いを象徴するプロジェクトでもある。
星野佳路代表(以下、星野) 地元と新たな関係が生まれたという点で、こうしたプロジェクトの端緒となったのは「リゾナーレ那須」です。緊急事態宣言が発出され、小学校が休校になったことで給食の牛乳需要がなくなり、牛を育てている牧場主の方々が、余った牛乳を捨てざるを得なくなっていました。そこで星野リゾートが行き場を失った牛乳を買い取り、「ミルクジャム」の製造を始めました。少しでも牧場の売り上げに貢献しようという試みですが、かなり好評です。
青森県では毎年8月に行われているねぶた祭が中止になり、ねぶたを制作するねぶた師の方々の仕事がなくなってしまいました。そのため、青森屋のためにねぶたを作ってもらうのはどうかと提案したら、ものすごく喜んでいただけました。7月から3人のねぶた師による「ねぶた共同制作プロジェクト」が始まり、9月に完成する予定です。
いずれも地元の方々と今までにない、いい関係が築けました。このつながりは、アフターコロナでもきっと生きてくると思います。
新型コロナウイルスの感染拡大が収束するまでは、自家用車で1時間~1時間半程度の近距離エリアを観光するマイクロツーリズムが向いています。日本全国、マイクロツーリズムの市場はどこにでも存在していると言えるでしょう。海外や大都市から人が来ない状況下で、観光事業者が仕事と売り上げをどう維持するかを考えた場合、答えはマイクロツーリズム以外にないと思っています。
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