星野リゾート代表の星野佳路氏が、その独自のマーケティング手法について語る連載。家業の温泉旅館を継いでからブランド力の向上を賢明に図ろうとする星野氏。論文やビジネス書に目を通しセオリーを学ぶ中、やがて日本を代表することになる、あるロックバンドの“マーケティング戦略”に心を奪われた。

星野リゾート代表の星野佳路氏
星野リゾート代表の星野佳路氏
星野佳路のマーケティング革命

まずは「認知率」の向上に取りかかる

 星野氏が実家である軽井沢の星野温泉旅館を継いだのは1991年。その4年後、「星野リゾート」へと社名変更した。今でこそ日本の観光業を代表するブランドの1つとなった星野リゾートだが、当時の実態は軽井沢の一温泉旅館。「とにかく名前を覚えてもらうことが必要だった」と星野氏は振り返る。ブランド力を高めようと、日夜、ビジネスの論文や書籍をひもとく星野氏にとって、そこに書かれているブランド理論のケーススタディーとなったのは、後に日本の音楽シーンをけん引することになるロックバンドの“マーケティング”だった。


星野佳路代表(以下、星野) ブランド研究で知られる米国のデービッド・アーカー氏は、ブランド力を高めるには「認知率」「知覚品質」「ロイヤルティー」「アイデンティティー」の4要素を高めるべきだとしています。ですが、コカ・コーラやマクドナルドのように、既にブランドを確立している会社ならともかく、私たちのような地方の無名の温泉旅館は、この4つを同時に高めていくことは至難の業。そこでまず認知率を高めようとしました。そのときに参考になったのは、実はサザンオールスターズ(以下サザン)なんです。

 サザンのデビュー曲である『勝手にシンドバッド』の歌詞の内容は、タイトルの“勝手にシンドバッド”とは全く関係ありません。あれは曲ができてから、それこそ“勝手に”曲名をつけたわけです。サザンのデビュー前年の2つのヒット曲、沢田研二さんの『勝手にしやがれ』と、ピンクレディーの『渚のシンドバッド』から取ったんですね。そして、テレビに登場した当時のサザンを見ると、これはもう“おちゃらけバンド”。短パンで出てきたり、変なカツラをかぶったり……。

 でも、このおかげでサザンは一気に有名になりました。つまり彼らは、アーカー氏の言う4要素の中で、「認知率」だけを優先して上げたのです。そうしておいて、次に『いとしのエリー』という素晴らしい曲を出した。その結果、今度は「知覚品質」が上がり、圧倒的なブランド力を築くことになります。このサザンのマーケティングは、アーカー氏のブランド理論にぴたりと当てはまっているんです。

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