星野リゾートの星野佳路氏が代表に就任してから29年。2020年中には、運営する施設は46に達する見込みだ。これまで星野氏がいかに組織を運営し、成長させてきたか。星野リゾート躍進のカギを握る「リゾートの革命児」のマーケティング論。まずはブランド戦略について5回にわたってお届けする。

星野佳路(ほしの よしはる)氏
星野リゾート代表
1960年長野県軽井沢生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程へ。同課程を修了し帰国後、91年に先代の跡を継いで星野温泉旅館(現星野リゾート)代表に就任。以後、経営破綻したリゾートホテルや温泉旅館の再生に取り組みつつ、「星のや」「界」「リゾナーレ」「OMO」「BEB」などの施設を運営する“リゾートの革命児”。2003年には国土交通省の観光カリスマに選出された

経営の根幹は「教科書通りの経営」

 2019年から20年にかけて、「星のや沖縄」「リゾナーレ那須」「界 長門」「BEB5土浦」など、これまでに類を見ないオープンラッシュを迎えている星野リゾート。リゾートホテルのみならず、シティ型ホテルから日帰り施設、街起こし、海外リゾートに至るまで、施設の種類が多様化するだけでなく、これまで施設がなかった県へも続々と進出。低成長といわれる日本にあって、星野リゾートは時流とは裏腹な大躍進を見せる。「星のや」を筆頭に、「界」「リゾナーレ」「OMO(おも)」「BEB(ベブ)」など、国内外の多様なホテルのブランド展開は、いかなる戦略に基づくのだろうか。


星野佳路代表(以下、星野) ブランド戦略に限らず、まず大前提として、星野リゾートの経営の根幹は「教科書通りの経営」です。ここで言う“教科書”とは、ビジネススクールなどの教授が書いた、研究に基づく論文や本のことを指します。

 私はもともと論文を読むことが好きで、米国のホテルスクールに留学していた頃に「経営者になるというのはこの論文を全て理解し、実践することなんだ」と思っていました。教科書通りに経営しようというのは、1991年に星野温泉旅館の経営を引き継いだ時から考えていました。なぜなら私は自分の直感に自信のない経営者でしたし、今でもそう思っています。そんな自分にとってのよりどころが、ビジネスの論文。研究に基づく論文というのは、いわば証明済みの“定石”のようなものです。

 定石というのは勝つことを保証するものではありませんが、負ける可能性を減らすものだと思っています。博打(ばくち)のような感覚経営をするのではなく、少しでも負ける可能性を減らしたい。そこでセオリーを大事にしようと思いました。そのセオリーを理解して、定石通りに経営していこうというのが私のスタイルです。

 私は大学時代にアイスホッケーをやっていましたが、スポーツの戦略もビジネス戦略と同じです。試合に勝つためには失点を減らし、得点を増やさなくてはならない。そのために、戦略の定石というものがある。もちろん、定石を踏まえたうえで競争力を強化していくことは必要ですが、まずは基本である定石をしっかりと押さえ、失敗を減らす経営をするということが大事です。

 私は自分に合った新しい論文や本を常に探しています。世界中の研究者が出す論文や本は膨大な数に上りますが、大抵は最初の30ページも読めば、自分が悩んでいることを解決してくれるかどうかが分かります。

 世の中には膨大な薬が市販されていますが、鼻水が出るとか、喉が痛いとか、肌荒れとかで、使うべき薬は変わります。ちょうどその感覚と同じように、今の自分が悩んでいる課題の解決になるなと、直感的に入ってくる論文や本がある。それを一気に読んで、一気に実践する。ですから、立ち読みはとても大事。立ち読みができないので、私はインターネット通販では本を買いません。本を発見する場所として、書店は大切です。

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